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5000年前の集団墓地から判明した 「新石器時代の悲劇の痕跡」

新石器時代の悲劇の痕跡

新石器時代の残忍な事実とは

画像 : 考古学者らは約5000年前に殺害された15人の遺体を発見したImage : Michał Podsiadło; Schroeder, H. et al. PNAS. CC BY-NC-ND 4.0

デンマークのオーフス大学考古学遺産学部教授のニールス・ノルケア・ヨハンセン氏ら考古学研究チームは、

「約5000年前の新石器時代後期に、現在のポーランド南部で虐殺された15人の遺骨が細心の注意を払って丁重に埋葬されていたことが判明した。」

と米国科学アカデミー紀要誌で発表した。

虐殺された15人の遺骨は、2011年にポーランド南部のコシツェ町近くで下水道の建設中に発見されたという。

新石器時代の残忍な事実とは

画像 : ポーランド cc Blank_map_of_Europe.svg

発見されたすべての人物の遺骨には、生前に傷を負った広範な証拠が見られ、もっとも多かった損傷は頭蓋骨骨折だったため、頭部への打撃によって死亡したと推測されている。

新石器時代の残忍な事実とは

イメージ画像 : 陥没骨折した頭蓋骨の一部 パブリック・ドメイン

パリー骨折(上肢に受ける負傷)がほとんどなかったことから、彼らは石や槍などの近接戦闘用武器を使った白兵戦で殺害されたのではなく、捕らえられて処刑された可能性が高いこともわかったという。

彼らが虐殺された理由は明らかになっていないが、新石器時代は人口圧力、資源をめぐる競争、占領された領土への新しい集団の拡大の時期で、致死的な暴力と虐殺が蔓延していたため、それらのいずれかが原因だったのではないかと考えられている。

遺骨の発見当初は、頭部を打撃され暴力的に殺害された15人がただ丁寧に並べられて葬られていると考えられていたが、遺骨の遺伝子分析が進むにつれ、犠牲者たちは互いに血縁関係にあり、関係の近さに従って慎重に埋葬されていたことが明らかになった。

母親が子どもを抱きかかえるように埋葬した親族男性たちの愛

埋葬されていたのは主に4つの家族とその関係者であった。

30~35歳の母親は10代の娘と5歳の息子を抱きかかえており、兄弟は隣り合い、異母兄弟やいとこ同士は並べられ、中心には最年長者が埋葬され、副葬品も納められていたという。

墓には父親をはじめとする年長男性の遺骨がほとんどなく、遺骨として残されていた唯一の男性は、そのパートナー女性と息子の向かい側に一緒に埋葬されていた。

犠牲となった2歳の男児の両親の遺骨はなかったが、彼は2親等の密接な関係にある他の遺体の隣に安置されていたという。

遺伝的に誰とも関連していない成人女性の遺骨もあったが、若い男性の遺骨の近くに埋葬されていたことから、彼女は生前、その男性と親密な関係にあったのではないかと推察されている。

実際の埋葬者は不明だが、犠牲となった大家族の血縁関係を深く知る人物で、彼らの父親や親族の男性たちであった可能性が高いという。

研究チームの一人である考古学教授のヨハンセン氏は、

「15人が別々ではなく一緒に丁寧に埋葬されているのはたいへん興味深い事実だ。

埋葬に多大な労力が費やされたことは明らかで、埋葬した人は故人たちのことをよく知っていたはずだ。
一家の父親と年上の男性たちの遺骨が残っていないため、おそらく犠牲者たちは父親と男性たちの不在中に虐殺されたのではないか。

彼らが戻ってくると、家族が惨殺されているのを発見し、その後、敬意をもって家族を埋葬したのだろう。

個人をもっとも近い家族の隣に埋葬するよう配慮し、陶器のアンフォラ(水差し)、火打石の道具、琥珀や骨の装飾品などの副葬品も死者に備え付けられていた。」

と語っている。

新石器時代の残忍な事実とは

イメージ画像 : アンフォラ (トルコ、ボドルム城展示) cc Etimbo

残忍な事件が頻繁に起こっていた新石器時代

この大家族虐殺の悲劇は事件発生から約5000年後、考古学者たちによって現代人である私たちの知るところになったが、時代背景を考慮すると驚くべき出来事ではないという。

新石器時代後期、ヨーロッパ文化は草原から東へ移住してきた集団によって大きく変容していたため、不安定で激動の時代となり、一家虐殺のような残忍な事件は頻繁に起こっていたというのだ。

ヨハンセン氏は

「この大量虐殺の犯人を特定することはできないが、この時期の人口動態と文化の混乱が何らかの形で暴力的な領土衝突を引き起こしたことは容易に想像できる。」

と述べている。

その一方で、今回の丁重な埋葬の発見から、当時の人々の間に広まっていた強い家族への帰属意識と結束感が手に取るように伝わってくる。

墓の中の遺体の慎重な配置により、核家族関係と大家族関係の両方から、人々がどのように生活を組織していたかを浮き彫りにし、この時代の「球状アンフォラ文化」というコミュニティにおける規範的価値観を表しているのだという。

遺伝子分析によっても、今回発見された犠牲者たちは「1つの男性系統と6つの女性系統を持っていた」ことも明らかになった。

墓の中に無関係の女性と血縁関係のある男性が存在することは、ポーランド南部・コシツェにあった当時の新石器時代の共同体が、父系の家系(女性の外婚、女性が社会的集団の外で結婚する習慣)に沿って組織されていたことを示しており、中央ヨーロッパの新石器時代後期の共同体における社会組織の支配的な形態であった証拠と考えられている。

これまで新石器時代の集団暴力の他のいくつかの現場で研究を行ってきたドイツの研究者クリスチャン・マイヤー氏は、

「ポーランド南部・コシツェの現場では、暴力的に殺された人々も慎重に埋葬され、副葬品を受け取り、直系の親族関係に応じて配置されていた。

この事実は、ヨーロッパの新石器時代に致死的な集団暴力事件が頻繁に発生したことを示すさらなる証拠だ。

現地の研究者たちは今回発掘されたコシチェの埋葬地を『集団墓地』と呼んでいるが、そうではなく、大規模な『複数墓地』と呼ぶべきかもしれない。

無差別に殺害された遺体の『集団墓地』は通常、整理整頓されていない山に無造作に埋葬されているからだ。」

と語っている。

今後、考古学、人類学、生物学のデータと理論の総合研究が進み、5000年前の大家族15人の犠牲者たちの遺骨のさらなる分析と研究から、新石器時代の社会現象や人口履歴がより明確になっていくことだろう。

参考 : 米国科学アカデミー紀要誌

 

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