ミリタリー

北朝鮮のミサイルの性能と脅威について調べてみた

驚きのスピードで大陸間弾道ミサイルの性能を向上させる北朝鮮。国際社会から孤立しようが開発の手を緩めようとはしない。

かつて「スカッドミサイルとPAC3について調べてみた」という記事では、準中距離弾道ミサイルである「スカッド」を扱ったが、今の脅威はさらに飛距離のある「大陸間弾道ミサイル(ICBM)」へと問題は深刻化している。

いったい、北朝鮮のミサイル開発はどこまで加速するのか。

ミサイルの起源

弾道ミサイルとは、大気圏内外を放物線を描くように飛翔するミサイルの総称であり、旧ソ連が広く東側各国に武器供与を行ったことでさほど珍しい兵器とはいえない。

その起源は、第二次世界大戦においてドイツ軍が完成させ、実戦に投入した「V2ロケット」である。

V2ロケットは、後にアメリカでアポロ計画に携わったヴェルナー・フォン・ブラウンが設計したことでも有名となった。宇宙旅行を目的として開発がスタートした液体燃料ロケットをナチスが資金面でバックアップし、完成したA4ロケットを軍用に転用したものである。


【※アメリカに現存するV2ロケット】

戦後は、アメリカとソ連が多数のV2と部品を接収したが、ソ連はそれに加えて多くの関連技術者を連行、V2の研究から新たなミサイル開発がスタートした。

とりわけ、量産化されて東側各国に供与された短距離弾道ミサイル「スカッド」は北朝鮮にも輸入され、独自の改良によって準中距離弾道ミサイル「ノドン」が誕生したのである。

旧式のノドンでも日本は射程内!

弾道ミサイルでも「短距離」に分類されるノドンの射程は、1,300~2,000kmあり、北朝鮮から発射された場合は、日本の主要都市がほとんどその射程内に入る。しかも、発射装置を兼ねる大型車両に搭載できるため、移動が容易であり、発射されるまでその位置が特定されにくいというメリットを持っていた。

その性能から、ノドンはエジプトやシリア、イランなどに輸出されたこともあり、北朝鮮の外貨獲得に貢献することになる。だが、一方でその大きさには限界があり、射程を延ばすには大型化するしかない。

そこで開発に着手したのが、「大陸間弾道ミサイル( intercontinental ballistic missile)」、通称「ICBM」であった。

北朝鮮のミサイル
【※テスト発射されたアメリカのミニットマンIII】

ICBMは、米ソ冷戦時代に太平洋を隔てた両国が、相手の大陸に直接攻撃が行えるように開発された超長距離ミサイルの総称である。

一般的には、有効射程距離が5,500kmを超えるものがICBMであると定義されている。

北朝鮮のミサイル 開発の歴史

歴史を紐解けば分かることだが、兵器というものは開発後は大型化による高性能化を経て、その性能を維持したまま、今度は小型化の道をたどる。戦車や戦闘機、潜水艦などがそうだ。そして、ミサイルも例外ではない。

ICBMは、その性能から大型のイメージが付いてまわるが、実際は潜水艦からでも発射できるまでに小型化されている。

北朝鮮でも、1990年代にICBMのプロトタイプであるテポドンシリーズを開発、発射実験を行い、2009年にはテポドン2号の改良型である「銀河2号」を打ち上げた。テポドン2号は北朝鮮初のICBMであり、約全長30mの大きさだったが、これにより段階的に燃料ロケットを切り離す技術を完成させた。

そして現在では、飛躍的に射程が延びた「火星14号」と呼ばれるICBMが完成したのである。

朝鮮中央テレビの発表によれば、2017年7月4日に発射された弾道ミサイルは高度2,802kmまで達し、水平距離にして933kmを飛行、39分間の飛行実験に成功したと伝えている。これは、意図的に高く打ち上げて飛距離を短くする「ロフテッド軌道」であったが、通常軌道で発射された場合には、その射程は8,000km以上にもなると推測されることから、アメリカ政府は北朝鮮によるICBMの完成を認めた。

今後は、より小型化を目指すと共に、核弾頭の搭載能力を加えるものと見られている。

すでに北半球のほとんどが射程内に!

火星14号が8,000km以上の射程を持つということは、グアムやハワイ、アラスカはもちろん、アメリカ西海岸にも到達する可能性がある。一説では、1万kmを超えるともいわれていて、その場合だとアジア、ヨーロッパの全域、そして、アメリカの80%近くを射程に捉えることになる。さらに小型化によって、潜水艦に搭載されるようになれば、事前の発射位置の特定もほぼ不可能だ。

何より、ICBMは弾頭の落下時には慣性飛行になるので、着弾の調整が出来ない。そのため、多くが広範囲に被害を及ぼす核弾頭を搭載しており、北朝鮮の核実験も最終的にはそこを狙っている。しかし、物理的な脅威もそうだが、何より世界を驚かせた事実がもうひとつある。

以前の記事にも書いたが、ロケットとミサイルの違いは「軍事利用」か「科学利用」かの違いであり、根本的な技術は同じだ。そこで考えて欲しいのが、日本の宇宙開発である。技術大国・日本が打ち上げる「H-2Aロケット」は確かに優秀だが、アメリカが50年以上も前に成功している有人宇宙飛行を実現させる段階には達していない。それほどロケットの研究・開発というものは莫大な費用がかかるわけだ。

このことだけでも、北朝鮮がいかにミサイル開発に多額の予算を割いているかがわかるだろう。

本当の恐ろしさはミサイル本体ではない

H-2Aロケットの話をもう少ししよう。

日本のロケットの打ち上げが、なぜ鹿児島県の種子島などの南方で行われるのか。それは、赤道に近いからだ。

NASA(アメリカ航空宇宙局)」のロケット発射施設もフロリダやテキサスなど、赤道に近い場所にある。これは少しでも赤道付近で打ち上げることにより、地球の自転エネルギーを最大限に利用できるという利点が生まれるためだった。


【日本のH-IIAロケット】

地球の自転は赤道上が秒速約464mともっとも速く、種子島付近でも秒速約400mという速さになる。地球の自転と同じ東向きにロケットを打ち上げる場合、自転の運動エネルギーがロケットの速度に加算され、より小さなエネルギーでロケットを打ち上げることが出来るわけだ。

逆に北朝鮮のように経度が高くなるほど、自転エネルギーの恩恵が減り、より推進力のあるロケットの開発が必要となる。他国の技術援助がなく、自転エネルギーのアドバンテージもない状態で、これだけのミサイルを開発した技術力、そして異常なまでの開発の速さこそが北朝鮮における本当の脅威なのであった。

最後に

北朝鮮の陸海空軍における通常装備が他国より劣っているのは明らかだ。しかし、ことミサイルの分野においてだけは、短距離から超長距離まで完成しているといっていい。

核弾頭がなくてもアメリカにミサイルを撃ち込むことは出来るし、韓国や日本にも数十発ものミサイルを発射することが出来る。

北朝鮮は瀬戸際外交において非常に強力な切り札を手に入れたことだけは間違いない。

関連記事:ミサイル
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