♪さくら さくら やよい(弥生=3月)の空は 見わたす限り……♪
※唱歌「さくらさくら」より。
日本の春を彩る桜の花は、咲いた美しさはもちろんのこと、散るさまさえも美しく、日本人の心をとらえていることは「桜」と冠された、あるいはテーマとした歌謡曲の多さ(※)からも見て取れます。
(※)よかったら、今度カラオケに行った時にでも「桜」で検索してみて下さい。その曲数に驚くと思います。
さて、古くから日本人に愛され続ける桜ですが、日本には何種類の桜があるのでしょうか。
そこで今回は、日本に自生している野生の桜を紹介したいと思います。
目次
エドヒガン(江戸彼岸)
春のお彼岸ごろに花を咲かせるため、この名がつけられました。
また別名をウバザクラ(姥桜)とも言いますが、これは葉っぱよりも先に花が咲くため、「(花が咲いた時点では、まだ)葉≒歯がない=老婆(姥)」という言葉遊びによるものです。
桜の中では成長は遅い(※発芽から開花まで数十年を要するものも)ですが最も長寿で、樹齢は数百年から1,000~2,000年以上のものまでさまざま。
まさに「大器晩成」を絵に描いたような桜で、もし言葉が交わせたなら、その見て来た歴史物語を聞かせて欲しいものです。
オオシマザクラ(大島桜)
伊豆大島がその発祥と言われるため、この名がつけられたと言います。
成長が早いため雑木林に植えられ、燃料として利用されたことからタキギザクラ(薪桜)、葉っぱが桜餅に巻かれるためモチザクラ(餅桜)とも呼ばれます。
炭焼きなどのために持ち込まれたため関東地方に多く、白い花びらが源氏の白旗を思わせたためかシラハタザクラ(白旗桜)などとも呼ばれ、東国武士に愛されたようです。
また、桜の中では公害などにも強いため、工業地帯の緑化目的で植えられることも多く、労働者たちにも愛されています。
オオヤマザクラ(大山桜)
この名は大山の桜ではなく、ヤマザクラよりも大きな花(※)が咲くことに由来します。
(※)ヤマザクラの花が直径1.5~2.5cmに対し、オオヤマザクラは直径3.0~4.5cmの花を咲かせます。
花びらのほんのり紅色からベニヤマザクラ(紅山桜)、北海道に多いことからエゾヤマザクラ(蝦夷山桜)などの別名があり、アイヌ語ではカリンパニと呼ぶそうです。
寒さに強いため、九州から北海道、日本海を越えてロシア沿海州でも自生しており、異境で見る桜は、さぞや感慨深いことでしょう。
カスミザクラ(霞桜)
遠くから見ると霞のようにぼんやりと見えることから、この名前がついています。
近くで見ると、花の根本(花柄-かへい)に短い毛がポワポワしていることからケヤマザクラ(毛山桜)とも呼ばれ、これも霞感に一役買っているのでしょう。
開花は遅く、東京で4月下旬ごろ、東北地方や寒冷な地域では5月上旬ごろとお花見シーズンを逃しており、その頃には他の植物も生い茂って紛れてしまう……そんな存在感の薄さも、ネーミングの由来なのかも知れません。
クマノザクラ(熊野桜)
和歌山県(紀伊半島南部)が原産のため、信仰の聖地として知られる熊野三山から名づけられています。
以前は「早咲きのヤマザクラ」程度に認識されていましたが、平成29年(2017年)に調査した結果、新種であることが判明。オオシマザクラの発見(大正4・1915年)以来、約100年ぶりのニュースとなりました。
学名もCerasus kumanoensis(セラサス クマノエンシス)、英語名でもKumano cherry(クマノ チェリー)となっています。
タカネザクラ(高嶺桜)
その名が示すとおり、山岳地帯など標高の高い場所で生育しています。ミネザクラ(峰桜)とも呼ばれ、乾燥や高温には弱いため、低地に移植すると夏の暑さで枯れてしまうそうです。
5月上旬から6月にかけて花が咲き、標高1,500~2,800付近でのみ楽しむことのできる、文字通り「高嶺の花」となっています。
桜の中ではデリケートなようで、奈良県と埼玉県ではレッドリスト指定(奈良県では絶滅寸前、埼玉県では絶滅危惧種)を受けており、大切に保護していきたいですね。
チョウジザクラ(丁子桜)
咲いた花を横から見ると丁子(クローブ)みたいだから名づけられました。
ちなみに、フジモドキ(藤擬き。ジンチョウゲ科)も別名チョウジザクラと呼ばれています。どっちもあまり似ていませんが、どちらも「チョウジザクラ」と呼ばれると不思議と納得してしまう風情があります。
花はうつむいたように咲き、何だか元気なく見えるためか観賞用としては人気が低いそうですが、その控えめな味わいは、実に日本人らしい奥ゆかしさを感じられるでしょう。
マメザクラ(豆桜)
その名が示す通り1.0~2.0cmの小さな花が特徴で、富士山の周辺や箱根地域に自生していることからフジザクラ(富士桜)、ハコネザクラ(箱根桜)とも呼ばれています。
木は高くても10m程度ですが成長は早く、背丈が1mほどになれば花を咲かせるようになるため、育てるには楽しい品種と言えるでしょう(あまり巨木になっても困りますしね)。
これは栄養に乏しい土壌や、寒冷で厳しい気候の土地でも生存競争に勝ち抜くため進化した結果と言えるでしょう。寒さに強く、-20℃にも耐え抜くことができます。
ミヤマザクラ(深山桜)
文字通り深い山に咲いているからこの名がついていますが、その白い花から特にシロザクラ(白桜)とも呼ばれるようです。
山奥に生育している都合(周囲の植物との兼ね合い?)からか、樹高は5~10m程度と低めで、花の時期は5月から6月上旬と、こちらも花見シーズンを過ぎたころ、つつましく咲いているところに出会えます。
ちなみに、ミヤマザクラの仲間(ミヤマザクラ群)はその大半が中国大陸南西部(四川省、雲南省一帯)だそうで、仲間と離れているのは何か事情があったのでしょうか。
ヤマザクラ(山桜)
山に咲くからヤマザクラ……確かにそうなのですが、往々にして野生の桜だからとひとくくりに呼ばれてしまうこともしばしば。
江戸時代後期に開発されたソメイヨシノ(染井吉野)が花見の主流となるまで、桜の花見と言えばこのヤマザクラが主役でした。
ソメイヨシノとの大きな違いは、花と葉の出るタイミング。ソメイヨシノは花が満開となり、散ったあとから葉桜となりますが、ヤマザクラは花と同時に葉が出てきます。
なので、いまいち華やかさではソメイヨシノに譲る印象もありますが、これはこれで実に趣深い装いです。
終わりに
以上、日本に自生している野生の桜10種を紹介してきましたが、皆さんはどの桜がお気に入りでしょうか。
ちなみに、カンヒザクラ(寒緋桜)については台湾が原産ではないかという説もあり、はっきりしないため割愛しました。
一口に桜と言っても色々あり、またこれらの桜を元に品種改良された桜も多く出回っていますから、まさに百花繚乱の様相を呈しています。
古くから日本人と共にあり、その心を表してきた桜の花が、いついつまでも咲き誇る日本でありますように。
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