調べてみた

日本人なら知っておきたい!皇室用語「内親王」殿下について調べてみた

ある時、小さな子たちがテレビを見ていると、画面に女性皇族の方々がお出ましになりました。

「あ、〇〇様だ!」

もちろん悪気のないのは解りますが、せっかくなら耳を慣らしておこうと思い、彼らに一言添えました。

「……様もいいけど、彼女たちのことは内親王殿下(ないしんのう でんか)とお呼びすると、もっとオシャレだと思うよ」

後白河天皇の皇女・式子内親王。Wikipediaより

まぁ、すぐに忘れてしまうでしょうが、いつか大きくなって「聞いたことがある」かないかでは、彼らのボキャブラリーも少しは違ってくるかも知れません。

「何それ?」

「お2人ともそう言うの?」

すると、その子たちのお母さんが会話に入ります。

「それって、他の女性皇族とはちがうの?」

即座にスルーされると思っていましたが、興味を持ってもらえたようなので、今回はこの「内親王(ないしんのう)」について紹介したいと思います。

内親王に当たるのはどなた?

内親王とは「ないしんのう」の他に古くは「うちのみこ」「ひめみこ」などとも読まれ、古代中国の「公主(こうしゅ)」に対して、日本独自の称号として考案されました。

男性の親王(しんのう)に対して内の字を関するのは、昔から妻を「家内」「御内儀」などと言うように、家の中で大切にすべき存在であることを表したのでしょうか。

親王・内親王両殿下(イメージ)

さて、皇室に関する現在の法律「皇室典範」では、内親王について次のように定めています。

皇室典範
第五條  皇后、太皇太后、皇太后、親王、親王妃、內親王、王、王妃及び女王を皇族とする。
第六條  嫡出の皇子及び嫡男系嫡出の皇孫は、男を親王、女を內親王とし、三世以下の嫡男系嫡出の子孫は、男を王、女を女王とする。
第七條  王が皇位を継承したときは、その兄弟姉妹たる王及び女王は、特にこれを親王及び內親王とする。

この内、第6条と第7条をごくざっくりまとめると、こうなります。

【内親王にあたる人】
一、天皇陛下の娘(母親が正妻であること)
一、天皇陛下の孫娘(父親が皇族であること)
一、天皇陛下の姉妹(母親が正妻であること)

※嫡男系嫡出とは「正妻の産んだ子」を指しますが、現代は一夫一妻制のため、あまり意味がありません。

現在これらの称号は生まれながらに与えられますが、かつて律令制下では天皇陛下から特別に宣下(せんげ。辞令)を受けた者に限られました。

それ以降の皇族(例えば天皇陛下の曾孫で、父親と祖父、そして兄弟に天皇陛下がいない者)は女王(男性なら)とされます。

民間出身者も内親王や女王になれる?

ところで内親王(親王)とか女王(王)とか、「王」とはかつて大王(おおきみ。大君)などと呼ばれた通り、君主すなわち統治者を意味しているのは言うまでもありません。

明治時代、皇室典範の起草に際して、こんな意見が出たそうです。

「内親王や女王について、従来の皇女(皇室出身の女性)だけではなく、親王や王に嫁いだ妃(ひ、きさき)殿下についても内親王、女王としてはどうか(大意)」

民間から皇室に嫁がれた女性も皇族となるのだから、単に妃ではなく内親王、女王とした方がより国民に親しまれ、敬愛の念が湧くであろうと思ったのでしょうか。

しかしこの提案については、有栖川宮熾仁親王(ありすがわのみや たるひとしんのう)殿下が「名分よろしからず」と反対しました。

有栖川宮熾仁親王。Wikipediaより

皇室の一員として、日本国の統治者たる王号を称する資格は、皇統より出た者に限られる……そのケジメを曖昧にすれば、必ず民間から王位に成り上がろうとする者、それを利用せんと企む者が現れるからです。

古来、そうした事例が後を絶たなかったからこそ、内親王や女王が皇族以外の民間人に降嫁(こうか)された時は、結婚に際して皇族身分を喪失することとし、皇女の婿となった者が皇室の権威を濫用することを防いだのでした。

皇室典範
第十二條  皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる。

君主はあくまでも聖域にあって国家と国民を治(しら)される存在であり、俗世の臣民が私利を領(うしは)き貪るための具とされるようなことがあってはなりません。

だからこそ、旧帝国憲法(大日本帝国憲法)においては天皇陛下の「神聖不可侵」が謳われたのです。

大日本帝国憲法
第三條 天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス

「神聖な存在である天皇陛下を、世俗の者は侵してはならない」これは言い換えると「天皇陛下は、世俗の者に侵されてはならない」と同じ意味になります。

世俗の政治は司法・立法・行政の三権に委ね、天皇陛下はそれらを総覧(そうらん。すべてを見守ること)されながらも、あれこれと口出しなど介入はしない。

それが皇室と国民の関係であり、誰に対しても公平公正なる無私無欲の姿勢を貫かれているからこそ、(何かと私欲にとらわれてしまいがちな)国民は自然と皇室に対して敬愛の念を抱き、奉戴して来たのです。

終わりに

昨今、何かと女性の権利とか皇族の自由と言った話題が世を賑わせている印象を受けますが、時代に応じて移り変わるもの、変えていくべき課題も確かにあります。

神武天皇の建国から、令和3年で2681年の歴史を積み重ねて来た皇室。Wikipediaより

ただ、皇室がなぜ日本国並びに国民統合の象徴とされ、世界各国から畏敬の念をもって接せられているのか、その理由を建国以来2681年以上の歴史に学び知れば、一朝一夕に皇室をどうこうせよと結論づけてしまうのは、いささか性急に過ぎるのではないでしょうか。

内親王の用語説明から話が少し大きくなったようですが、皇室に対して興味関心を高めるとともに、敬愛の念を深める一助となりましたら幸いです。

※参考文献:

  • 皇室事典編集委員会『皇室事典 令和版』角川書店、2019年11月
  • 小林よしのり『ゴーマニズム宣言SPECIAL 天皇論』小学館、2009年6月
  • 小林よしのり『ゴーマニズム宣言SPECIAL 新天皇論』小学館、2010年12月
角田晶生(つのだ あきお)

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