海外

意外と知らないオルゴールの歴史 「スイス発祥、日本での広がり」

箱を開けると可愛いメロディーを奏でてくれる「オルゴール」は、定刻を知らせる鐘の役割を担うために開発された。

時計台から「オルゴール」の音色が響き渡る日常は、生活する人々に安心と癒しの効果を与えることにも繋がっていた。

当初は時計と深い結びつきがあった「オルゴール」だが、その美しい音色を定刻以外の好きな時に聴いていたいと願う人も多く、そんな人々の気持ちが時計から「オルゴール」を独立させる切っ掛けを作ったともいえる。

意外と知らないオルゴールの歴史

時計機能と一体となったオルゴール

スイスの時計職人が生んだ美しい「オルゴール」の音色

時計にメロディーを鳴らす機能を発明したのは、スイスで時計職人として活躍していた『アントワーヌ・ファーブル(Antoine Faver)』という人物である。時計職人であった父親の後を継ぎ、時計と「オルゴール」の技術の発展により一層力を注いでいた。

彼が高度な技術を取り込んで製作した「オルゴール」は『シリンダーオルゴール』と呼ばれ、現在一般的に世界で普及している「オルゴール」に用い入れられている技法を使っていた。

特徴としては、音源となる小さなピンが取り付けられた金属の筒がゆっくりと回転し、そこに櫛歯(“くしば”または“しつし”と読む)と呼ばれる振動板を触れさせることで、音を発生させる仕組みが施されていた。

意外と知らないオルゴールの歴史

『シリンダーオルゴール』の細かいピンと櫛歯(くしば、しつし)

時計と「オルゴール」を分離して楽しむ風潮が広まってからも、『シリンダーオルゴール』の技法は多くの職人たちに受け継がれていった。

最大で12曲までの演奏が可能で、個人の趣向に合わせた選曲で楽しめる「オルゴール」は上級階級の貴族の間で『音のアクセサリー』と謳われていたほどである。

「オルゴール」の活躍が定着しながらも近づいてきた生産衰退の陰

「オルゴール」の更なる進化を追求をするため、ドイツやアメリカの工場でも製作が開始され、オルゴールメーカー同士の競争も始まった。

その中で注目が集まったのが、選曲の数を大幅に増やすことのできる『ディスク・オルゴール』である。ドイツのオルゴール職人であった『パウロ・ロッホマン(Paul Lochmann)』が1886年に製品化したもので、従来の「オルゴール」よりも大きい音量で聴けることが評判となった。

音源となる穴を開けた円盤状のディスクを水平に回転させる技法と、ディスクを交換することで数多くの曲を楽しむことができる機能が『ディスク・オルゴール』の最大の魅力であったため、多くの人々が集まるレストランや駅のホームで使用されていた。

しかし、ラジオや映画といった音楽を楽しむ手段の多様化が加速し始めると、『ディスク・オルゴール』はすぐに衰退してしまい、同時に「オルゴール」自体の製作も縮小されていった。

意外と知らないオルゴールの歴史

『ディスク・オルゴール』

「オルゴール」人気が再来した理由と奮闘し続けるオルゴール業界

オルゴール産業の減少と共に価格も下げられた「オルゴール」は、高級品から庶民の手の届く身近な存在となったことで、細やかな贈り物としての人気に火がつくこととなる。「オルゴール」を贈る文化は、海外に駐留する兵士たちが大切な家族のために「オルゴール」を購入したことが由来しているともいわれている。

こうした「オルゴール」人気再来のチャンスを活かすべく、オルゴール業界ではデザイン性への拘りや、クラシックから流行りのポップスを選曲に増やすなど試行錯誤を重ねていった。誰もが簡単に音楽を楽しめる時代の流れを逆手に取り、懐かしさが残る優しい音色と、静かな空間で浸る「オルゴール」の癒しのメロディーに人々の関心を向けさせることができる機会でもあったからだ。

日本に舞台を移した「オルゴール」産業〜北海道小樽市の『小樽オルゴール堂』〜

ヨーロッパの国々で定着された「オルゴール」を贈る文化は、日本でも継承されている大切な文化である。

日本での「オルゴール」に向けられた人々の大きな関心は、北海道小樽市の風情溢れる街並みに合わせて設立された世界初の大型オルゴール専門店『小樽オルゴール堂(本館)』から始まった。

それ以前にも日本国内の観光地で「オルゴール」を取り扱う店舗は存在していたものの、大きな話題性を集めるまでにはいかず、唯一本格的なビジネスとしての成功を納めることができたのは『小樽オルゴール堂(本館)』だとの呼び声が高い。

意外と知らないオルゴールの歴史

小樽オルゴール堂(本館)wiki c 663highland

歴史的建造物としての認定も受ける『小樽オルゴール堂(本館)』は、店内が2万点以上の「オルゴール」で埋め尽くされており、煌びやかな光景が広がっている。

「オルゴール」の歴史やパイプオルガンを展示した『小樽オルゴール堂 2号館 アンティークミュージアム』や実際に「オルゴール」製作体験ができる『手作り工房 遊工房』の経営までを手掛け、オルゴール業界における第一線での活躍は現在も維持されている。

「オルゴール」に込められた様々な想い

お土産や贈り物に喜ばれる「オルゴール」には、贈る相手に対する日頃の感謝の気持ちや愛情を伝える想いが込められている。

記念日や結婚式に「オルゴール」が贈られるケースも多い日本では、人生の分岐点を象徴する贈り物としての認識が高いようだ。心癒される「オルゴール」の音色は、送り手の思いやりや、祝福の気持ちをも鮮明に表現してくれている『音のメッセージカード』である。

 

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 失敗や偶然から生まれた大ヒット商品 「柿の種、とんこつラーメン、…
  2. 『アメリカに皇帝がいた?』ジョシュア・ノートン 〜無一文から皇帝…
  3. 平家が壇ノ浦の戦いで滅びたというのは本当なのか
  4. 台湾の猛暑 ~記録的猛暑とその深刻な影響
  5. 美人看護師だったメアリーが「世界一醜い女性」となった理由とは
  6. 【自分が産んだ子なのにDNAが一致しない】リディアに起きたミステ…
  7. 人類最古の「ガン」は170万年前のホモ・サピエンス以前の種の骨肉…
  8. ロンドン塔について調べてみた【イギリス屈指の観光スポット】

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

小堀遠州 「綺麗さび」茶道を極めた大名茶人【多才な日本のダ・ヴィンチ】

小堀遠州とは小堀遠州(こぼり えんしゅう)は、戦国時代から江戸時代初期の武将でありながら…

【神として崇められたニホンオオカミ】大口真神とは ~絶滅した山の神のご眷属

古来より日本では、生物無生物問わず様々な対象に霊性や神性を見出して、神として崇拝してきた。…

隋について調べてみた

中国を初めて統一した秦の始皇帝。その始皇帝が倒れると、秦王朝は呆気なく滅び去り、漢王朝の時代が約40…

実存主義の巨人 ジャン・ポール・サルトルの思想をわかりやすく解説

フランスの知識人は誰かと言えば『ジャン=ポール・サルトル」の名前が必ず上がるだろう。彼は哲学…

「家康から嫌われまくっていた次男」 結城秀康の真実とは 〜前編

結城秀康とは結城秀康(ゆうきひでやす)とは、越前国北荘藩(福井藩)の初代藩主で、天下人・…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP