北米時間2017年6月5日,Appleは,アメリカ・カリフォルニア州サンノゼ市にあるコンベンションセンターでスタートした開発者向けイベント「WWDC17」で,リフレッシュレート120Hzに対応する新型「iPad Pro」を発表した。
毎年、アップルの新しいOS(基本ソフト)に関する情報を発表する同イベントでは、基本ソフトと連動するいくつかの新ハードウェアが発表されることもあり、年末商戦を睨んでアップルがどのような製品を展開しようとしているのかを見極める上で重要なイベントとなる。
新型「iPad Pro」は関係者に高評価で迎えられた。しかし、Appleの製品全体ではどうなのだろうか?
2011年8月24日、取締役会に辞表を提出してCEOを辞任したスティーブ・ジョブスが後を託したティム・クックCEOのこれまでとこれからを調べてみた。
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Appleを引き継いだ男
※ティム・クック
ティモシー・ドナルド・“ティム”・クック(Timothy Donald “Tim” Cook、1960年11月1日 – )は、アメリカ合衆国の実業家、作家、教育者。Appleの最高経営責任者(CEO)。2005年よりナイキの社外取締役も務める。
『フォーブス』誌の「世界で最もパワフルな人物」リストでは、2016年に32位に選ばれている。
彼はスティーブ・ジョブズが設立し、世界的企業に成長させたApple社という途方もなく大きな看板を背負っている。
はっきり言ってクックがCEOに就任してからの革新的な製品はない。2015年にはスマートウォッチとしてApple Watchを、大型タブレットとしてiPad Proを発表している。しかし、Apple Watchは、iPhoneと同じようにそのカテゴリーで「世界初」の製品ではない。
また、iPad Proもタブレットという理由以前に、ジョブズがCEOだった2010年1月に初代iPadが発表されている。もちろん、当時と今とではデザイン、性能共に比べようがないのはわかる。
しかし、クックはなぜ大胆な新製品の発表に乗り出さないのか?
iPhoneの進化
※iPhoneの画面サイズ
スティーブ・ジョブズが息を引き取る前日の2011年10月4日、iPhoneの最新機種「iPhone 4S」が発表された。
iPhone 4Sはアメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリア、日本の7地域で同年10月14日に発売され、3日間で400万台を突破する好調な滑り出しを見せた。なんといっても最大の注目は、利用者の音声で応答や処理を行う自然言語処理システムであるSiriを搭載したことである(4SのSはSiriのSである)。またiPhone 4Sが発売された翌日に、アップル創設者のスティーブ・ジョブズが死去しており、iPhone 4Sはスティーブ・ジョブズが見届けた最後のiPhoneと言える。
日本ではキャリアとして従来のソフトバンクに加え、au(KDDI / 沖縄セルラー電話連合)でも発売されたことで話題となった。すでに日本市場でも大々的にiPhoneは受け入れられ、性能的にも同時期のAndroid搭載スマートフォンとの差は歴然としていた。
その後は、2012年9月12日にiPhone 5、2013年9月10日にiPhone 5s/5c、2014年9月9日にiPhone 6/6 Plusが一年間隔で発表されてきた。iPhone 6では、画面サイズを従来モデルから大きくし、通常モデルのiPhone 6は4.7インチ(1334×750ドット)、大画面モデルのiPhone 6 Plusは5.5インチ(1920×1080ドット)のディスプレイを搭載。これにより、すでに5インチクラスの大画面モデルをリリースしていたAndroid端末に追い付き、性能的にはこれを追い越したことになる。
大きすぎた期待
※iPone se
しかし、2016年3月21日に行われたAppleのスペシャルイベントで発表されたiPhone SEは前評判の高さとともに落胆の声も目立った。
前年の2015年9月9日に発表されたiPhone 6s/6s Plusでは、前年のiPhone 6/6 Plusと比較して大きな変更点はなく、このまま5インチ前後の大画面が主流になると考えられていたため、iPhone SEは2013年以来の「4インチiPhone」として一定の層の支持は得られたが、その一方で、アップルの発表内容には大きな驚きがなかったこともあり、イベント後は「つまらない」「普通の会社になった」との声が目立った。
アップルによれば、世界にはiPhone 5sをはじめとする4インチ以下のiPhoneユーザーがまだ多く残っているという。その買い替え需要を狙って、同じ4インチのiPhone SEを手頃な価格で売ろうというのがアップルの作戦だった。
製品そのものは、4インチのiPhoneを使い続けてきた人にとって、まさしく渡りに船であり、iPhone 5sと同じボディにiPhone 6sと同じ高性能を詰め込んだ「理想的なモデル」となったが、実際にこれを必要とする層はいささか少ない。
普通の企業なら十分に合格点といえる内容だが、アップルの場合、期待値が高すぎるあまり、期待通りのレベルにとどまっていては不満が続出したのである。
迷走の始まり
※iPad Pro
さて、話を戻そう。
AppleがiPad Proの新型モデルを発表したのは約1年半ぶりである。
また、2017年3月21日(米国時間)、iPad Air 2の後継機である第5世代のiPadを発表したのは、前モデルより2年半という間隔であった。
iPad主力機種の発売の間隔が空くのは、Appleとティム・クック最高経営責任者(CEO)が現実を認めていることを示している。クックはかなり長期間にわたりiPadが成長事業だと主張してきた。 だが、実際にはそうでないことはあまりにも明白だ。
これは皮肉にもスマートフォンの進化がタブレットの売り上げにブレーキをかけたことになる。Appleに限ったことではないが、先進国でのタブレットの需要は頭打ちと言ってもいい。クックは2017年1月のアナリストとの電話会議で、iPadの今後の展開について「私は依然非常に楽観的だ」と語った。短期的な売り上げに打撃を与える可能性のある一時的な在庫の問題を除いては、「私はiPadに対して極めて強気だ」とも述べている。
しかし、これは中国やインドなどでの話である。ある調査によると、2016年の世界のタブレット販売は15.6%減少した。
もはやiPhoneだけでなく、iPadも迷走しているのだ。
これからのApple
かつての主力製品だったMacintoshは言うに及ばず、iPhone、iPadとAppleの製品はその品質とは裏腹に先が見えない状態になっている。ジョブズが経営者である前に技術者であったこと、反対にクックは経営のプロであったことなども影響しているだろうが、一番の問題は、別にある。
ジョブズがAppleを成長させたのは「欲しいものを造る」という姿勢があったからだ。そのため、革新的な製品を次々と世に送り出した。しかし、現在では「欲しいものが多すぎる」時代になってしまった。「欲しいものがなくなってしまった」の間違いでは?と思うかもしれないが「多すぎる」で正解である。
確かにパソコン、スマートフォン、タプレットは市場的にも性能的にも成熟した。周辺機器の進歩も目覚しい。反面、「どんな機能が必要なのか絞らなければならない」という新たな難題を生み出すことになったのである。
その答えのひとつが、2016年9月7日に発表されたiPhone 7/7 Plusだ。
このモデルは、ステレオスピーカーを搭載する一方、3.5mmステレオミニジャックが廃止され、付属するEarPodsはLightningコネクタを備えたものに変更されている。
NFCチップNXPの67V04を搭載し、Apple Payによる非接触決済サービスが利用できる。日本向けモデルでは、FeliCaにも対応しており、Suica、QUICPay、iDのサービスが利用できる。いわゆる「おサイフケータイ」搭載となった。
この取捨選択の難しさがAppleを悩ます原因なのだろう。
最後に
2017年6月現在のところ、クックは大胆な新製品の発表を「しない」のではなく「する必要がなくなってしまった」ようだ。
AIの進歩と自動運転車の実現に向けても動き出しているようだが、「Appleへの期待値」を超える製品になるのはまだまだ先の話である。
しかし、今後はiPhone SEのように以前のモデルと同じ形状ながら中身を新しく入れ替えたり、iphone 7のように必要な機能と不必要な機能をはっきりさせる方向性は残っている。この手法が確立すれば、そこまで先進的でなくてもいい、という中間層のユーザーに訴求できることになるだろう。
だが、そのように中間層をカバーすることで、次期主力製品は思い切り斬新な方向に飛躍する可能性も秘めているのだ。
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