世界一有名なT-REX
Here’s Riggs. 👋 He’s with field assistant Harold W. Menke (left), and there’s that Brachiosaurus femur fresh from the field. pic.twitter.com/UOPKaADq06
— Field Museum (@FieldMuseum) April 14, 2020
現在は「健康診断中」との事で解体されている(ファンとしては何としても復活して欲しい)が、シカゴのフィールド自然史博物館にはブラキオサウルス・アルティトラクスの骨格が展示されており、個人的にはフィラデルフィア以外で最も行きたい場所である。(シーズンに入ればアルティトラクスがシカゴを本拠地とするカブスやブラックホークスのユニフォームを着て応援する地元愛も好感が持てる)
Today, Brachiosaurus donned his dino-sized @Cubs jersey. 🦕He puts the 2,000-pound “body” into #EverybodyIn. 😉 pic.twitter.com/lU9isH5cYG
— Field Museum (@FieldMuseum) October 1, 2018
アルティトラクスの骨格が見られなくなってしまったのは残念である(オヘア空港にもブラキオサウルスの骨格が展示されているのでシカゴに行けばブラキオサウルス自体は見られる)が、フィールド自然史博物館最大の目玉と言っても過言ではないのが、T-REXの「スー」である。
良好な化石の保存状態と、長年世界の恐竜ファンを騒がせ続けた裁判によって、スーは世界一有名なT-REXになった。
今回は、スーの発見と世界を騒がせた裁判を紹介する。
サウスダコタの大発見
1990年8月12日、サウスダコタ州を拠点にするブラックヒルズ地質学研究所の発掘チームがその日の発掘を終えて引き上げようとした時、トラックがパンクして立ち往生してしまった。
トラックの修理を待つ間、隊員の一人であるスーザン・ヘンドリクソンは、まだ発掘していないポイントを調べ始めた。
そこでスーザンは小さな骨を発見すると、それを持ってすぐさま所長のピーター・ラーソンに報告する。
ラーソンはそれがT-REXの骨であると見抜き、T-REXをメインターゲットにした発掘が行われる。
この時発掘された化石は90パーセント以上も残された、完全に近いものであり、T-REXという付加価値を抜きにしても歴史に残る大発見だった。
このT-REXには発見者にちなんで「スー」と名付けられ、一躍時の恐竜となった。
スーの価値
また、ここまで保存状態の良かった理由だが、スーの死後早く泥に埋まり、死体を他の動物に食べられずに済んだため損傷が少なかったという説が有力視されている。
ともあれ、ほぼ完全な骨格が残っていたお陰で生前のスーの負傷歴、及び推定没年齢が明らかになるのもT-REX及び恐竜の研究を進める上で大きな助けとなった。
スーには他の恐竜との格闘による負傷や足の骨折、更には痛風など恐竜として長生きした故に受けた負傷や疾病の痕跡が多数残っており、恐竜の過酷な生活や患っていた病気の研究に大いに貢献した。(スーが生きていた当時の姿を見る事は出来ないが、化石の傷からは生態系の頂点に立つT-REXでも傷を避けられない、過酷な環境だった事を物語っている)
裁判勃発
世間がスーの発見に盛り上がる中、思わぬところから横槍が入る。
この発掘は土地の所有者であるモーリス・ウィリアムズに5000ドルを支払って許可を得て行っていたのだが、ウィリアムズは「この契約は発掘の許可をするためのものであり、発掘された化石の所有権は自分にある」と主張した。
流れを見ると完全に後出しジャンケンで、ウィリアムズの言いがかりのように見えるが、スーの化石はFBIによって押収され、所有者を決める裁判が始まる。
3年もの長きに渡る法廷闘争の末、勝訴したのはウィリアムズだった。
発掘した化石の所有権が誰になるか契約書に書いてある(もしくは書かれていない)という面倒な話になると思いきや、判決の根拠となったのは「ティラノサウルスの化石は不動産である」という、予想外なものだった。(それなら過去の発掘で出た化石も所有権を巡って大変な事になる気がするが、その他の裁判はここでは触れない)
オークションの行方
スーの裁判は「化石は不動産」というユニークな判決が出た例として裁判の歴史にも名を残す事になったが、世紀の大発見をしながらもスーを手放さざるを得なくなったブラックヒルズ地質学研究所の無念は我々の想像以上のものがあっただろう。
一方、所有権を手に入れたウィリアムズはスーをサザビーズのオークションに出品する。
個人の所有するT-REXの化石という金の卵を、世界が欲しがらないはずがない。(金のために裁判を起こし、世界を騒がせたウィリアムズに対して個人的にいい印象は持っていないが、自分もスーの所有権を持っていれば同じく金のために売りに出したと思うので、ウィリアムズの行動を批判する事は出来ない)
ウィリアムズの思惑通り、スーには世界から多額の入札が殺到する。
世紀の入札合戦の末、フィールド自然史博物館が落札してスーを迎え入れ、標本番号FMNH PR 2081と名付けられた。
この時の落札額760万ドル(サザビーズに支払った手数料含め836万2500ドル)は、2020年にT-REXのスタンに抜かれるまで世界一高価な化石だった。
世界一有名なT-REXである理由
@Cubs SUE the T. rex is getting a new friend! Our titanosaur might even cover more ground than Javy… pic.twitter.com/6OCfNTIFFk
— Field Museum (@FieldMuseum) August 30, 2017
スーの発掘から30年以上経った今日、スーよりも大きなT-REXの化石の発見も、スーより高額なオークションも行われ、世界一の称号を持ったT-REXとしてギネスブックからは姿を消している。
とはいえ、FBIの介入に加え所有権を巡る裁判沙汰と話題を提供し続け、世界を揺るがした「伝説」は今日まで語り継がれ、世界一有名なT-REXとしてフィールド自然史博物館を訪れるファンを感動させている。
また、仮定の話になるが、恐竜好きの大富豪が自分だけが鑑賞するためにスーを落札した場合、貴重な化石を人々が見られなくなる恐れがあった。
スーを守る意味でもフィールド自然史博物館の果たした役割は大きく、落札のための資金援助した多くの企業、及び支援した個人にも感謝したい。
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