神話、伝説

北欧神話の女神・フレイヤ【数々の異性と肉体関係を持った死の女神】

北欧神話とは

北欧神話とは

※リヒャルト・ワーグナーの楽劇『ラインの黄金』に登場するフライア

北欧神話とは、キリスト教化される前のノース人(北欧全体に広がった古代スカンディナヴィアの人々のことで、主にノルウェー人のことを指すことが多い。)の信仰に基づく神話のことである。

北欧神話の神々の名前やキャラクターは、現在多くのゲームやアニメーション、また音楽や文学などで採用されており、どこかでモチーフを目にした方も少なくはないはずである。

北欧神話をモチーフにした有名な作品では、トールキン作『指輪物語』シリーズや、人気漫画『進撃の巨人』がある。

実は、北欧以外のゲルマン民族は、早くからキリスト教の信仰を受けていたため、その民族独自の神話や宗教、民話などがほとんど残っていない。

北欧神話は、ゲルマン民族の中でも珍しく、民族の中で共有されていた信仰や物語などが集約されたもので、代々口承により受け継がれてきた。

そんな北欧神話の中には、数多くの神々が存在し、多くのエピソードが残っている。

その中でも、今回の記事では女神・フレイヤについて詳しく追っていこうと思う。

フレイヤとはどんな女神なのか?

北欧神話とは

※J. Penroseによって描かれたフレイヤ

フレイヤは、北欧神話の中で、すべての女神の中でも最も美しい、【愛と美】の女神として知られている。

豊穣の神であり、エルフ(耳のとがった妖精の種族)の王でもあるフレイとは双子の兄妹で、【愛と美】の他に、【恋】【性愛】【戦いと魔術】そして【死】を司る多面性を持った女神である。

しかし決して貞節ではなく、自らの欲望に忠実である、自由奔放な女神であったと言われている。

奔放な恋愛事情

北欧神話とは

※フレイヤが小人の洞窟で首飾りを見つける場面。

フレイヤの恋愛観は非常に自由奔放であり、数々の異性と肉体関係を持っていたと言われている。

その相手は同じ神々にとどまらず、種族を超えた愛の営みを行っていたようだ。

《主なエピソード》
・北欧神話の主神(複数の神々の中でも、中心に存在する神のこと)であるオーディンとは、公然的な愛人関係にあった。
・夜になると雌の山羊に変身し、数々の雄山羊と交わった。
・ドワーフ族の持っているアクセサリーを手に入れるため、4人のドワーフと次々に関係を持った。
・双子の兄であるフレイとも肉体関係を持っていた。

など、多くの神や人間に子供を生ませたギリシャ神話の神・ゼウスの女性版では?と思うほどの多情ぶりである。

※参考記事 ギリシアの大神ゼウスは好色で浮気三昧だった

ゼウスと同じように、フレイヤにも、オッタルという人間の愛人がいる。

豊穣の女神、そして死の女神

※ニルス・ブロメールによって描かれた、猫が牽く車に乗るフレイヤ

フレイヤはまた、【豊穣の女神】としての一面も持っている。

多くの動物との関わりを持っており、特には、一度に多くの子供を生むことができるため、フレイヤの聖獣として扱われている。

また、人間の愛人であるオッタルに変身させ、その猪にまたがって移動をすることもあるという。
このように、フレイヤと豚とは大きな結びつきがあるとされている。

たくさんの命を生み育てる【豊穣の女神】であるにも関わらず、フレイヤは、それとは対極的にある【】を司る女神でもある。

フレイヤは、戦場において生きる者と死ぬ者を選別する女神の集団“ワルキューレ”のリーダーでもあり、そのことから、戦死した死者や戦士たちを集め、愛人である主神・オーディンと分け合っていたという。

死者たちはフレイヤが住んでいるフォールクスヴァングという館に連れ帰られ、そこで彼女は、“死者の戦士”として復活させる戦死者を選抜していたと言われている。

フレイヤと動物たち

先ほども触れたように、フレイヤは動物たちと多くのかかわりを持っている。

戦場において、彼女の乗っている戦車をひくのは、2匹の美しい山猫とされている。
猫は、蠱惑的な女性を象徴している動物であり、これはフレイヤのイメージにぴったりである。

また、「鷹の羽衣」という鷹に変身できる羽衣を所持しており、これを羽織って空を自由に飛び回ることができたという。

同じく北欧神話に登場する、ロキといういたずら好きの神に、この「鷹の羽衣」を貸してやったりしている。

魔術を使う魔性の女神

フレイヤの出身はヴァン神族という一族であり、この一族は魔法に熟達していたと言われている。

※ヴァン神族とは、北欧神話に登場する神々の一族のことで、「光り輝く者」という意味を持ち、豊穣と平和を司る。アース神族は主神オーディンを中心とした神々の一団で、2つの神族は長い間戦争を行っていた。やがて、ヴァン神族がフレイヤ、双子の兄であるフレイ、そして2人の父親であるニョルドを人質に差し出したことで、この戦争は終結したと言われている。

数々の魔法を使いこなすフレイヤは、その中でも、女性の感性を引き出すことに長けていた。

この魔法を“セイズ呪術”といい、フレイヤは人質として差し出された先のアース神族に魔法を広めたと言われている。

最語に

この記事では、北欧神話に登場する最も有名な女神、フレイヤについて調べてみた。

多くのものを司り、性的にもかなり自由奔放なふるまいをしているフレイヤであるが、夫であるオーズが突然失踪してしまうと、フレイヤは悲しみにくれ、世界中を旅して夫の姿を探し回ったという。

夫が自分の元を去ったことに深く悲しみ、フレイヤが流した涙は黄金となり、少しずつ地面に染み込んでいった。このことから、北欧神話の中では、世界中でも黄金は貴重なものである、という伝承が存在している。

また、2人の間にはフノスという娘がおり、彼女はとても美しい容貌をしているため、北欧の人々は美人のことを「フノスのように美しい」と讃えることがある。

女神でありながらどこか人間らしく、自由奔放に生きたフレイヤは、とても魅力的な女神であると言えるだろう。

 

アバター

アオノハナ

投稿者の記事一覧

歴史小説が好きで、月に数冊読んでおります。
日本史、アジア史、西洋史問わず愛読しております。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. シューベルトの『魔王』 とは一体何者だったのか? その意外な正体…
  2. 「バベルの塔」は実在するのか?モチーフとなったジッグラト【エテメ…
  3. 【世界の恐るべき悪霊伝承】メソポタミアの死神、誘惑する女幽霊、巨…
  4. 『人間に捨てられ、妖怪となる?』長い年月使った道具に宿る“付喪神…
  5. 『世界の魔女伝説』上半身だけで飛ぶ女、痕跡を消して飛ぶ老婆、顔を…
  6. 謎のアトランティス大陸について調べてみた
  7. 『木に美女が実る?ワクワクの樹』古代の人々が信じた“実る生命”伝…
  8. 【七人坊主の祟り伝説】八丈島で起きた「7」にまつわる恐ろしい事件…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

犬も猫も食べた戦争孤児の悲惨な生活 「売春婦になった少女たち」

朝ドラ『虎に翼』では、寅子の上司・多岐川の過去が明らかになりました。彼の再起のきっかけは、上野で見か…

『無銭飲食から32万石の大名へ』 貧乏武士だった藤堂高虎の「出世の白餅」の逸話とは

「出世の白餅」という有名な逸話がある。主人公は、戦国武将の藤堂高虎だ。高虎は、近江出…

祟り神について調べてみた【平将門、菅原道真、崇徳天皇】

「祟り神」と聞いて、どんな印象を受けるだろうか。名前の意味からイメージするのであれば、“祟りをなす怖…

うつ病に『がんばれ!』はNGじゃない?!うつの人との正しい接し方

どんな病気でもそうだが、経験しなければその辛さはわからない。仮に風邪ならば、多くの人はその辛さは…

島津4兄弟の末弟・稀代の名将・島津家久について調べてみた

祖父・島津忠良が評した4兄弟島津家久は、その生涯において戦場で3人の大名級の武将の首級を…

アーカイブ

PAGE TOP