世界の歴史の中で、海賊を生業としている者たちの存在は、実は大きな影響力を持っている。
イギリスの黄金時代を作り上げたといわれているエリザベス1世は、フランシス・ドレークという海賊に出資を行い、当時敵対していたスペインとの貿易戦争に勝利した、と言われている。
その後、ドレークは海賊でありながら、ナイトの称号を授けられたのだという。
このように、世界各国での貿易・交易の発展には、必ず海賊の存在がある。
日本でも、14世紀~16世紀にかけて、瀬戸内海周辺にて倭寇(わこう)と呼ばれる海賊たちが出現し、他国船からの略奪行為を行っていた。
“女を船に乗せると縁起が悪い”と信じられていたことから、海賊たちの圧倒的多数は男性であったが、何人かの有名な女海賊が存在していたことをご存じだろうか。
この記事では、そんな女海賊たちについてご紹介していきたいと思う。
海賊稼業で大儲け 鄭夫人 (中国など東アジアで活躍)
鄭夫人は、本名を鄭一嫂(チェン・シーイ)と言い、明王朝時代に活躍した女性である。
彼女は、大海賊団の頭領を務めていた鄭乙の妻であったが、夫が急死したことにより、海賊団を受け継ぐことになった。
ここで彼女の“経営者”としての才能が開花することになる。
それまでは、単なる荒くれものたちの集まりであった海賊団を、合理的に組織化し、ルールを厳密に守らせるなどして統制化をはかったのだ。
具体的には、
掟の厳重化
…海賊団はひとつの集団ではなく、複数の海賊たちが寄り集まって形成された、いわば連合軍のような状態であった。
そのため、統制には“恐怖”を与えることが大切であると考えた鄭夫人は、海賊連合の間に掟を作り、それを破った場合には恐ろしい罰を与えた。
経営の効率化
…海賊団の男たちは、物事を計画的に進めるのが苦手な者が多い。
そこで鄭夫人はまず、経営の効率化をはかった。
海賊たちが奪ってきた略奪品を「積み替え商品」と呼ばせ、監査員を雇って見積もりさせた。
そして、見積もりの20%にあたる金額を海賊に提供したのである。
現在でいうところの、「歩合制度」と言ったところだろうか。
海賊たちから見積もった商品は、地元の商人相手に売りさばくことで、鄭夫人が収入を得た、と言われている。
地元住民との良好な関係
…鄭夫人は傘下の海賊たちに、港近くの商店や倉庫、農村などを襲うことを禁止した。
このことによって、地域住民との良好的な関係を築き、経済を回していったのである。
さらに鄭夫人は、食糧品などを地元住民から買い上げたので、住民たちは鄭夫人が扱っている商品を購入していくようになった。
お互いに、良い意味での依存関係を保ち、「持ちつ持たれつ」の関係を作っていったのである。
このように、鄭夫人は頭脳を活かし、“海賊ビジネス”を軌道に乗せ、敏腕経営者としての手腕を発揮したのである。
男装の麗人 メアリ・リード (カリブ海で活躍)
メアリ・リードは、最も有名な女海賊の1人である。
18世紀のロンドン、私生児として生まれた彼女は、母の目論見で男の子として育てられることになる。
メアリの亡き父の実家は男の子を待望しており、男の子には養育費を払うと言ったのだ。
そのまま男の子として育てられたメアリは、13歳の時に下男奉公へ出されると、その後男装したまま海軍に入隊。
その後、夫となる男性と知り合い、結婚をするものの、夫はすぐに病死してしまったという。
再び軍隊に入隊したメアリだったが、彼女の乗っていた軍船が海賊に襲われたのがきっかけで、彼女は海賊の手下になることを決意した。
軍人の経験があるということで、メアリの腕っぷしはかなり強かったようだ。
カットラスと呼ばれる、刃が湾曲した大きな剣があるのだが、メアリはこの剣を愛用し、戦闘の際にはカットラスで戦ったと言われている。
当時の恋人を守るために、敵を呼び出して殺害したり、男たちが震えあがるような海戦の際、積極的に戦い抜いたり、男性以上に勇敢で、男らしい海賊であったようだ。
後述するアン・ボニーという女海賊は、初めてメアリにあった時、あまりの男らしさにすっかり惚れこんでしまい、彼女を誘惑したという記録が残っている。
男だらけの海賊船の中で2人はすっかり意気投合し、親友になったと言われている。
やがて海軍に捕まり、「妊娠」を盾に死刑を免れるも(本当に妊娠していたのかは明らかにされていない)、獄中で熱病のために死亡した。
怖いもの知らずのしたたかな美女 アン・ボニー (カリブ海で活躍)
アン・ボニーも、メアリと同時期に活躍した海賊である。
18世紀、アイルランドで私生児として生まれたアン・ボニーは、運よく父親に引き取られ、裕福な家で生まれ育った。
しかし、父親に嫌気がさしたアンは、知り合った船乗りと駆け落ちし、アイルランドを去ったと言われている。
だが、その結婚生活も長くは続かなかった。
アンはすぐに夫に飽き、今度はジョン・ラカムという海賊と恋愛関係を持ってしまうのである。
アンはすっかりラカムに夢中になり、彼について船に乗り、海賊になることを決意する。
当時、船に女性が乗ることは歓迎されていなかったので、仕方なく男装することにしたようだ。
生まれた時から男装の麗人として育ち、軍での経験もあるメアリ・リードとは、まったく正反対のタイプである。
思いつき、情熱のままに行動していたアンであったが、ある時、新しく入った仲間の中に、とても美しい男性を発見する。
ラカムとの熱愛にも飽きていたアンは、すぐにその青年を誘惑するが、実はその青年は、男装して船に乗っていたメアリ・リードだったのである。
2人は親友となり、数々の戦いで多くの功績をあげるも、やがて海軍に捕まり、死刑を宣告することになる。
アンは、メアリとともに「妊娠」を主張し、死刑を免れた。
メアリについては、獄中での病死の記録が残っているが、アンについてはその後、どうなったのかわかっていない。
一説によると、アンは自分の父親に力を借りて赦免を得ると、その後一般男性と結婚し、子どもを生んで長生きした、と言われている。
まさに、現代でいうところのお騒がせセレブ、と言ったところだろうか。
最後に
この記事では、歴史上の中で有名な女海賊について調べてみた。
荒くれものの男たちの中で手腕を発揮しながらも、3人の女性の生きざまがそれぞれに違っているのがおもしろい。
女性であることを逆手にとって君臨した鄭夫人、運命に翻弄されながらも戦いぬいたメアリ・リード、情熱と欲望で行動したアン・ボニー。
それぞれの生き方は違えど、彼女たちは強く、美しく、そしてこの上ない悪女であると言えるだろう。
その生きざまに憧れる人は、少なくないはずである。
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