中国史

「中国で発見された最も古く高い銅像」 青銅大立人とは ~三星堆遺跡

三星堆遺跡の出土品

三星堆遺跡(さんせいたいいせき)とは、四川省三星堆で発見された長江文明に属する古代中国の遺跡の一つである。

その出土品の多さと形の奇妙さで、とても異色な遺跡となっている。
掘れば掘るほど謎が深まるその遺跡は、歴史ファンの心を掴んでやまない。

今回はその出土品の一つ「大立人」について掘り下げていきたい。

青銅大立人

青銅大立人とは

画像 : 青铜大立人像,三星堆遗址二号祭祀坑出土 wiki c Tyg728

青銅大立人は、1986年に出土した青銅の人型の像である。

大立人は中国政府によって、「国家一級文物」に指定されており、国外に出ることは禁じられている。それほど貴重な出土品なのだ。
この大立人が発見された時、残念ながら腰のところで折れていた。
さらに大きく変形してしまった箇所など破損が激しく、一時は修復不可能かと思われていた。

そこで、中国国家博物館の研究員7人が全精力を傾けて修復し、今の姿に至った。
この修復に関しても面白い話がある。

大立人の背中部分を修復していた時のこと、研究者はどうしても足りないピースがあることに気がついた。
そこで、研究者たちは注意深く仮パーツをつなげることにした。大立人の衣服にはたくさんの模様が施されていたが、研究者たちは流石にそこまでは再現できずにいた。

そして修復が完了した6年後の1993年、誰も想像していなかったことが起きた。なんと仮パーツの部分が発掘されたのだ。
こういった経緯で、大立人は長い眠りから完全に目覚めることになった。

ちなみに大立人の像は他にもいくつか出土しているが、その多くは、頭だけの像、上半身だけの像など不完全な物ばかりであった。

修復された大立人の高さは1.8メートルであった。80センチほどの台座の上に立っており、土台まで足すと2.62メートルにも及ぶ。
台座には四頭の神獣がおり、大立人を支えている。

大立人は3000年以上の歴史があると推定されている。

世界も最も古く、その美しい姿から非常に貴重で特異な存在なのである。

大立人の出立

青銅大立人とは

画像 : 三星堆遺跡青銅大立人

大立人は「世界最古の龍袍」を着ている。

龍袍とは中国古代王朝の皇帝が来ていた衣装を想像していただくと良いかもしれない。
袖は手首に向かって狭くなっており、服の襟は左前に合わさっている。その装飾は非常に美しく様々な模様が施されている。
龍、動物、鳥、虫、うずまき模様などがみられる。

大立人の後ろに回って観察してみると、燕尾服のように長めにデザインされている。

大立人は一体何者だったのか?

専門家は当初、大立人の身分に関して「蜀の王」か「身分の高い祭祀」ではないかと考えていた。

その後、詳しく大立人を調査したところ、おそらくその服装は「法衣」と呼ばれる宗教の儀式で着用される物であるという結論に達した。

当時の社会は「神権社会」と呼ばれ、国家の政治を執り行う者と宗教の儀式を執り行う者は同等の高い身分とされていた。王=祭祀だったのである。

神、王、祭祀の境界線はなく、平民からするとどの身分も崇敬の対象であった。

祭祀は神となり、そして同時に彼らの王でもあったのだ。

大立人が手に持っていた物とは?

青銅大立人とは

画像 : 大立人の手

大立人のもう一つの謎は、「彼が手に持っていた物は何だったのか?」ということである。

大立人の両腕は奇妙な形をしている。両腕を胸の前に回し、その手は筒状になっている。
まるで両手で何か長い物を持っていたかの様に見えるのだ。

宗教の儀式に使用された用具なのか、それとも王が持つような金の杖なのか。

調査が進むにつれ、右手と左手の筒は微妙に角度が違っており、一本の真っ直ぐな長い物を持つのは不可能であるということが判明している。

つまり、右手と左手で別々の物を持っていたのか、もしくは曲がったものを持っていたのか、新たな発掘と調査に期待したい。

参考 : 三星堆出土的青铜立人像 | 新华网

 

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 清朝の『弁髪』はかなり臭かった?「漢民族は弁髪にしないと斬首刑」…
  2. 中国史上、最も悲惨な最後を迎えた宦官・劉瑾 【絶命するまで2日が…
  3. 皇帝の生活は楽じゃなかった? 皇帝の1日について調べてみた
  4. 【古代中国】 皇帝たちの死生観 「遺体を金の鎧で包み肉体を永遠に…
  5. 古代中国の信じられない「母乳料理」とは 【湖南省では今も食べられ…
  6. 漫画『キングダム』で中国史を学ぼう! 春秋・戦国時代のリアルな…
  7. 【中国三大悪女】武則天の墓を守る「首なしの61体の石像」の謎
  8. 隋について調べてみた

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

豊田商事事件 ~被害2000億円以上の日本最大の詐欺事件

日本最大の詐欺事件2019年現在でも、日本でも最大の約2,000億円の被害総額と言われて…

有馬記念の昭和から令和まで全64回の成績を振り返る【昭和編】

有馬記念(3歳以上オープン 国際・指定 定量 2500m芝・右)は、日本中央競馬会(JRA)が中山競…

糖質制限ダイエットについて調べてみた

いつの時代もテレビや雑誌で必ず特集が組まれるダイエット。さまざまなダイエット方法を試し、成功…

賄賂を要求した役人を滅多打ち!『三国志』の名場面、その犯人は?

落ちぶれていても王族の誇りを忘れず、志に集う仲間たちと共に幾多の困難を乗り越え、ついには漢王朝(蜀漢…

非日常が味わえる 「マレーシアのランカウイ島」

マレーシアの楽園「ランカウイ島」は、年間約350万人の観光客で賑わう白い砂浜が広がるリゾート…

アーカイブ

PAGE TOP