江戸時代

「徳川家に不幸をもたらした」 妖刀・村正

前編に引き続き後編である。

100年にも及ぶ戦国時代の最終的覇者となった徳川家康と徳川家には、「名物」と言われる数々の名刀が集まったという。

その中には昨今の日本刀ブームの立役者「刀剣乱舞」で知られる名刀も多数存在し、刀剣女子たちの憧れの的となっている。

今回は、名刀の中でも最も有名な村正について解説する。

妖刀村正

妖刀・村正

画像 : 三条実美が奉納した村正の短刀 wiki c Motokoka

妖刀・村正(ようとう・むらまさ)」は、徳川家に不幸をもたらした刀と言われている。

村正」とは室町時代から江戸時代初期にかけて三重県桑名に存在した刀工集団の名称で、そこで製作された日本刀が「村正」と呼ばれ、実用性と切れ味に定評があった。

「妖刀・村正」と呼ばれるようになった理由はいくつかある。

① 切れ味が良すぎる

第一の理由としてその「切れ味」が挙げられる。

村正作の1振と正宗作の1振を川へ突き立ててみたところ、上流から流れてきた葉がまるで吸い込まれるように「村正」に近づき、刃に触れた瞬間に真っ二つに切れたという。
一方、「正宗」にはどんなに葉が流れて来ても決して近寄ることはなかったという逸話がある。

② 徳川縁者が多く斬られた

第二の理由として「徳川縁者を斬りまくった」ことが挙げられる。

〇家康の祖父・松平清康が殺害された時の刀
〇家康の父・広忠が岩松八弥に襲われた時の刀
〇家康の嫡男・信康が死罪になり介錯に使われた時の刀
〇家康の正室・築山殿を野中重政が斬った時の刀
〇関ヶ原の戦いの際に家康が怪我をした時の槍
〇大坂夏の陣で真田信繁(幸村)が徳川本陣を急襲した時に家康に投げつけた短刀

これらすべてが「村正」の刀と槍であった。

③ 反幕府にも使われた

第三の理由として「家康だけでなく幕府も呪う」が挙げられる。

〇由井小雪のクーデター計画が発覚した時に正雪が所持していた刀
〇幕末に西郷隆盛を始めとする倒幕派の志士たちの多くが佩刀していた刀

これらも「村正」の刀なのである。

④ 科学で測定できない

第四の理由として「数値化できない切れ味」が挙げられる。

金属工学の第一人者の学者が、戦前に刃物の切れ味を数値化する測定器を製造し、古今の名刀を持ち込んで測定すると測定器は概ね期待通りの数値を示した。
しかし、なぜか「村正」だけは測定する度に数値が揺れて測定ができなかったという。「村正」は持つ者の心の闇によって切れ味が変わるとされている。

⑤ 違う痛み

第五の理由として「他の刀とは違う痛み」が挙げられる。

研磨師曰く、「村正」を研いでいると裂手(刀身を握るための布)がザクザク切れてしまうという。
さらに研いでいる最中に他の刀だと切れて血が出てから気がつくが、「村正」の場合は「ピリッ」とした他にはない痛みが走るという。

おわりに

戦国一の刀剣愛好家と言われた織田信長、信長に負けない刀剣コレクターであった秀吉。

彼ら2人が手にした天下の名刀は、「本能寺の変」「大坂夏の陣」で多く消失したが、残った名刀の多くは徳川家康と徳川家の所有となった。

日本刀の中には「妖力を持つ、病を治す、魔を祓う」など神秘の力の逸話があり、今も人々を惹き付ける魅力となっている。

 

アバター

rapports

投稿者の記事一覧

草の実堂で最も古参のフリーライター。
日本史(主に戦国時代、江戸時代)専門。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. アバター
    • 歴史大好きおじさん
    • 2022年 8月 11日 2:18pm

    やば、知らなかったっす、ためになりました。
    何すかこの前後編引き込まれました。

    0
    0
  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 徳川家光【徳川3代目将軍】―幕藩体制確立を目指して―
  2. 天下人の秀吉と家康がスカウトした伊達家の逸材~ 茂庭綱元とは
  3. 黒田騒動 ~筆頭家老が藩主を訴えた前代未聞の江戸三大お家大騒動
  4. 【畿内の大五芒星】東西の結界について調べてみた
  5. 江戸時代の日本は本当に「鎖国」をしていたのか?
  6. 『夜の営みの回数を日記に記録』 小林一茶の絶倫すぎる夫婦生活
  7. 桂昌院・徳川綱吉ゆかりの地「大本山 護国寺」に行ってみた
  8. 江戸時代のたばこ事情 「喫煙しないのは100人に2〜3人だった?…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

テルモピュライの戦いとスパルタ兵について調べてみた

ギリシア世界がまだひとつの国家にまとまっておらず、いくつかの都市国家により世界を構成していた時代。…

うつ病に『がんばれ!』はNGじゃない?!うつの人との正しい接し方

どんな病気でもそうだが、経験しなければその辛さはわからない。仮に風邪ならば、多くの人はその辛さは…

【京都歴史観光】坂本龍馬や勤王の志士達の足跡をめぐってみた「木屋町通周辺」

高瀬川沿いにめぐる木屋町・幕末歴史散策三条通から四条通にかけての木屋町一帯は、京都有数の…

スターリンが指導者だった頃のソ連 【1000万人の大粛清】

『スターリンはあまりに粗暴過ぎる。背信的なスターリンを指導者にしてはならない。』この言葉はソ…

「坂本龍馬が歴史の教科書から消える?」 今と昔でこんなに違う歴史教科書の変更点

今と昔の歴史の教科書の違い「1192年・いい国つくろう鎌倉幕府」。以前はこんな覚え方が主流であっ…

アーカイブ

PAGE TOP