フリードリヒ大王
フリードリヒ2世、フリードリヒ大王とも呼ばれる第3代プロイセン王である。
フリードリヒ大王はプロイセン王として軍事的改革を行い、軍国としてのプロイセンの強大化に努めた。当時の大国オーストリアとの闘いに勝利し領土を広げ、プロイセンは大国の仲間入りを果たした。また、フリードリヒ大王は啓蒙専制君主(※啓蒙思想を掲げ上からの近代化を図った君主)の典型としても知られ、啓蒙主義的改革を推し進めたことでも有名である。晩年には老フリッツの愛称で国民から慕われ、今なおドイツ国民に親しみを込めてその名を呼ばれている。
まさしくプロイセンの父とも言えるフリードリヒ大王であるが、彼に多大な影響を与えた親友がいたことをご存知だろうか。
今回はプロイセンの父フリードリヒ大王と、彼を支えたその友人についてみていこう。
幼少時代
フリードリヒ大王の父はフリードリヒ・ヴィルヘルム1世、第2代プロイセン王である。兵隊王としても名を知られる彼は非常に軍人的嗜好の持ち主だった。
一方、幼い頃のフリードリヒ大王は芸術や哲学を好み、フルートの演奏を趣味とするような穏やかな少年であったという。
相反する二人の気質ゆえ、父と子との間には確執が生まれることになる。
父は息子が芸術を愛することを嫌い、王太子フリードリヒが幼い頃から暴力を振るったり、食事を与えなかったりなどの虐待まがいの行為を繰り返していた。そんな過酷な環境の中で、フリードリヒ大王は幼少時代をひたすら耐え過ごしたのである。
そんな王太子フリードリヒには側近がいた。ヘルマン・フォン・カッテ、プロイセン軍の軍人であると同時に、過酷な環境で育ったフリードリヒの親友でもあった人物である。
友人カッテと逃亡事件
そのようにして過酷な環境の下で育ったフリードリヒは18歳の時、イギリス王女との縁談を機についに逃亡を企てた。
その時、フリードリヒに協力したのが側近カイトとカッテの二人であった。
1730年8月5日、その日の早朝フリードリヒは側近二人を伴って訪れていた南ドイツの宿舎をこっそりと抜け出した。そのままフランスへと逃亡を図る予定だったのだが、この逃亡計画はあっさりと崩壊してしまう。 すでに計画の内容が漏れており、フリードリヒはたちまち連れ戻されてしまったのだった。
フリードリヒは幽閉され、共に計画を担った一人であるカイトは逃げ出した。そしてもう一人の側近であったカッテは捕らえられてしまった。
当時、プロイセンはヨーロッパの中でも優れた司法制度を持っていた国であり、このカッテの王太子逃亡幇助に対しても裁判が行われた。一審ではカッテは裁判にて無期懲役の判決を受けたのだが、息子フリードリヒの所業に怒った父は控訴を行い、見せしめのためにこのカッテを処刑することを決めてしまったのだ。
カッテの処刑
カッテの処刑はフリードリヒが幽閉されていたキュストリン塔のすぐ傍で行われた。友人カッテが首を落とされて死ぬところ間近で見るように強要されたのである。
「カッテよ、私を許しておくれ!」
塔の窓から身を乗り出したフリードリヒは眼下の友人に向かってそう叫んだ。跪き、自らの首が落とされるのを待つカッテはこう返したという
「私は殿下のために喜んで死にます」
と。そして、カッテはフリードリヒの目の前で斬首の刑に処された。
また、カッテが残した遺書には国王陛下を恨まないこと、フリードリヒ殿下が国王陛下と一刻も早く和解されることを望む言葉が記されていたという。
一時はフリードリヒの逃亡を手伝い、そしてフリードリヒのために命を落としたカッテは最後までこの親友の身を案じていたのだ。
そして実際、このカッテの最後の言葉はその後のフリードリヒに多大な影響を与えたのである。
カッテの死後、フリードリヒは父に対して手紙を送っている。親友が目の前で処刑されるという残酷な仕打ちを受けたにも関わらず父に対する恨み言は一切なく、ただ父に対する恭順の意が示されていた。その後フリードリヒは幽閉を解かれ、親子の確執は少なくとも表面上は修復されたのだ。
フリードリヒが父へ恭順の意を示したのは、早く国王陛下と和解されますようにという友が残した言葉があったからなのではないかと、そんな気がしてならない。
最後に
プロイセンの父、フリードリヒ大王。サンスーシー宮殿にある彼のお墓には今なお多くの人が訪れている。
ドイツ国内外で愛されるフリードリヒ大王であるが、その幼少時代は過酷なものであった。それでも過酷な幼少時代を耐え抜き、父との確執を修復してその後の大国プロイセンを作り上げることができたのは彼を支えた友人の存在があったからなのではないかと、そう思う。
関連記事:
エカテリーナ二世 「王冠を被った娼婦と呼ばれたロシアの有能な女帝」
ドイツ帝国海軍 「当時世界第2位だった戦わない海軍 〜現存艦隊主義」
戦争論 〜現在でも各国の軍の教育に用いられている名著
この記事へのコメントはありません。