ミリタリー

ジェラルド・R・フォード について調べてみた【アメリカ海軍の新型空母】

2017年7月22日は、アメリカ軍にとって特別な一日となった。

42年もの間、「世界の警察」を標榜するアメリカは、10隻の原子力空母をいかに効率よく運用するか、常々頭を悩ませてきた。時代とともに艦隊の編成や名称も変わったが、空母の重要性だけは変わらない。米海軍の原子力空母が特定の地域へ向かっているというニュースだけで、国際情勢が緊張するほどである。しかし、10隻すべてが同時に世界の海に向けて睨みを利かせることは出来ないというジレンマも抱えていた。

原子力を動力としていても定期的に長期の改装は必要であり、そのためローテーションで任務をこなしてきたためだ。世界の監視役は1隻でも多いほうがいい。

そこに待ちわびた助っ人が登場したのでる。

「ジェラルド・R・フォード級航空母艦」

42年ぶりに就役したアメリカ海軍の新世代型原子力空母であった。

世界へのメッセージ

ジェラルド・R・フォード
※ジェラルド・R・フォード級航空母艦

バージニア州ノーフォークで行われた就役式において、アメリカ合衆国大統領は

「米国の鋼鉄と、米国人の手によって世界に向けた10万トン級のメッセージが造られた。米国の力は唯一無二のものだ。私の政権下でわれわれは日増しにより大きく、より優秀に、より強くなっている」

「世界最高の艦艇であり、同盟国は安心し、敵国は恐怖におびえるだろう」

とさながら自分の手柄のように演説していたが、フォードの起工は2009年であり、建造計画そのものはさらに過去に遡る。しかし、この演説も「私の政権下で」とういう部分を外せばあながち間違いではない。

それほど先進的な空母が、第38代アメリカ合衆国大統領の名を付けた「ジェラルド・R・フォード」である。なお、ジェラルド・R・フォードの名称は今回就役した空母そのものの名称だが、この艦がネームシップでもある。そのため、今後就役する艦級の名称ともなる。現在では空母「ジョン・F・ケネディ」が建造中であるが、これが就役すれば「フォード級2番艦」ということになるわけだ。

ちなみに前級の10隻はニミッツ級であった。

新型原子炉A1B

ジェラルド・R・フォード

※ジェラルド・R・フォード

本題に入ろう。

ジェラルド・R・フォードがそれまでの原子力空母と大きく違う点は4つある。

そのなかでも、この艦の根幹を成す新型原子炉「A1B」の搭載は大きい。通常、空母本体の耐久年数は50年とされている。世界初の原子力空母となった「エンタープライズ」も、1961年に就役し、2012年に退役している。そして、その就役当時は8基の原子炉を3年ごとに交換していた。後の技術の進歩により、13年ごと、23年ごとというように運用期間は延長されたが、それでも改修工事は18ヶ月を要していた。

それに対してフォードのA1B原子炉は、ニミッツ級に搭載されていたA4W型原子炉よりも小型ながら、発生できる電力は約3倍となった。さらに、監視要員の削減、メンテナンスの簡略化が実現したのである。

一番の恩恵は、50年間交換が不要という点だ。これにより、フォード級は退役時まで燃料棒の交換が不要となり、任務からの長期離脱という枷を外された。

電磁式カタパルト


※電磁式カタパルトの構造図

次に大きく変わったのは「電磁式カタパルト」の実用化である。

かねてより、次期新型空母には電磁方カタパルトが搭載されることは指摘されてきたが、それが現実となった。電磁式カタパルトとは文字通りリニアモーターを利用した発艦装置のことで、以前のニミッツ級までは蒸気式カタパルトが採用されていた。

正確には蒸気カタパルトしかなかったというべきだろう。なにせ、蒸気カタパルトは原子炉で発生した蒸気を利用するという高度な技術が必要でコストも高かった。しかも、射出時の調整が難しいというデメリットも抱えていたためだ。

こちらは建造中に電磁カタパルトを使ってちょっとした遊びをしているところだが、この動画から滑走距離がいかに短いか分かるだろう。

一方、電磁式カタパルトは、加速度の調整がデジタル式で容易なこと、加速度が大きいために発艦の距離が短く出来ること、適切なパワーを出せることでカタパルト本体や艦載機への負荷が小さくなるといったメリットがある。今までの課題は大量の電力を必要としたことだったが、これも新型原子炉の採用により解消された。

航空機搭載能力の向上


※「ニミッツ」に着艦したF-35C

3つ目のポイントは物理的な空間が広くなったことだ。

実はこれも新型原子炉によるところが大きい。原子炉の小型化、高出力化によって艦内の配線は光ファイバーとなり、甲板も電磁式カタパルトの採用で広く使えるようになった。また、飛行甲板そのものも広くなり、ニミッツ級と比較して約2倍の航空機や兵器を搭載できる能力を獲得した。

艦載機はヘリコプターなども合わせて75機となり、ニミッツ級の66機より大幅に増えた。しかも、艦載機が増えたにも関わらず、出撃効率は3割以上向上している。2017年現在の艦載機のメインはF/A-18E/F「スーパーホーネット」だが、間もなくステルス性の高いF-35Cに変わるだろう。

艦載機を飛行甲板に上げる舷側エレベーターもニミッツ級の4基から2基に減ったが、あらゆる面でオートメーション化が図られたことにより、オペレーションへの影響が少なくなった。

また、操縦人数がニミッツ級の3,200人から2,180人と削減されたことにより、相対的に空間が広がったというメリットも生まれた。

ステルス性能の付与


※ズムウォルト級ミサイル駆逐艦

最後のポイントは船体にステルス性能が付与されたことだ。

アメリカ海軍ではすでに「ズムウォルト級ミサイル駆逐艦」というあまりに前衛的なデザインのステルス性能を有した艦艇が就役しており、ステルス技術は空軍だけの専売特許ではなくなった。

ステルスといっても、飛行甲板を持つ空母に本格的なステルス性は期待できない。しかし、従来の空母と比べて艦橋が小型化されてかなり後方に配置されている。また飛行甲板も左右対称となっており、全体的なデザインも直線を多様としたことでステルス性を向上させることになった。

その他、RAM(レーダー波吸収材)を採用していることは容易に想像できる。RAMはコーティングの一種だ。

これらの努力により、フォード級はピンポイントでミサイルの標的となるリスクを低下させている。

最後に

アメリカほどの軍事大国が、なぜ42年間も新型空母を建造しなかったのかと思う人もいるだろう。

これは技術的な問題ではなくコストの問題である。空母一隻の建造費は約4000億円といわれている。これは費用対効果を考えても、納税者に説明するにも、決して「安い」とはいえない。そのため、一度作った「雛形」にその時々の小改良を加えてコストダウンを図ってきた。しかし、前世代の原子力空母が次々と寿命を迎えるのを前にして、ようやくフォード級が完成したのだ。

冒頭で「合衆国大統領が自分の手柄のように」演説していたと批判的な書き方をしたが、この人物も以前はフォードの建造費用が予算超過した際にはそのことを批判していたのである。しかし、今では一転して海軍の艦艇増強に意欲を燃やしているのだから皮肉なものだ。

それだけフォードはアメリカにとって、革新的な原子力空母だという証である。

関連記事:原子力空母
アメリカ海軍の原子力空母について調べてみた

関連記事:ステルス
ステルス技術の進化について調べてみた その1
ステルス技術の進化について調べてみた その2

 

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