飛鳥時代は豪族たちが力を競った時代から、天皇を中心とする国家へと移り変わっていく過渡期であった。
物部(もののべ)氏と蘇我(そが)氏の対立を経て、仏教が政治と深く結びつきながら根を下ろし始めた時代でもある。
今回は、飛鳥時代の空気を今に伝える飛鳥宮跡と飛鳥寺を訪れ、宮都・飛鳥の歴史を振り返ってみたい。
飛鳥宮跡

画像:飛鳥宮跡復元 筆者撮影
1959年から始まった発掘調査によって、飛鳥宮跡からは多くの掘立柱建物、塀、石組溝、石敷遺構などが見つかった。
調査で明らかになったのは、ここが1代限りの宮ではなかったということである。
遺構は大きく3時期に分かれ、舒明天皇の飛鳥岡本宮、皇極天皇の飛鳥板蓋宮、そして斉明天皇の後飛鳥岡本宮から天武・持統両天皇の飛鳥浄御原宮へと連続する宮にあたると考えられている。
つまり飛鳥宮跡は、歴代の天皇が宮を置き、政治の中心が少しずつ形を変えていった場所なのである。
天皇の居住空間や儀礼・政務に関わる建物、広場状の空間、実務を担う官衙群などの配置も確認されており、王権がどのように変化していったのかを考える上で、きわめて重要な遺跡となっている。
こうした調査を受け、平成28年(2016年)には史跡の名称が「伝飛鳥板蓋宮跡」から「飛鳥宮跡」へ改められた。

画像:飛鳥宮石敷広場と大井戸跡 筆者撮影
現在復元されている石敷広場や大井戸跡は、上層の飛鳥浄御原宮のものである。
また広い意味では、川原寺跡、飛鳥寺跡、飛鳥池工房遺跡、飛鳥京跡苑池、酒船石遺跡、飛鳥水落遺跡などを含め、飛鳥の都を構成した遺跡群全体を飛鳥京跡と呼ぶこともある。
飛鳥寺の概要

画像:飛鳥寺の本堂 筆者撮影
飛鳥寺は、仏教を保護した蘇我馬子の発願によって造られ、596年(推古4年)に完成したとされる日本初の本格的仏教寺院である。
1956年からの発掘調査により、創建当時の飛鳥寺は塔を中心に東西と北に金堂を配し、その外側を回廊がめぐる壮大な伽藍であったことがわかった。
この一塔三金堂式の伽藍配置は、その後の日本ではあまり見られないもので、高句麗の清岩里廃寺との近似も指摘されている。また建立にあたっては、百済から仏舎利が献じられ、寺工や瓦博士などの技術者が渡来し、瓦の製作や仏堂・塔の建設に関わったとされる。
彼らの技術は、その弟子たちを通じて斑鳩寺や各地の寺院建築へも受け継がれていったと考えられている。
往時の飛鳥寺は東西約200m、南北約300mに及ぶ広大な寺院であったが、鎌倉時代の火災で伽藍の大半を失った。現在の本堂は、江戸時代に再建されたものである。
日本最古でありながら国宝ではない飛鳥大仏

画像:飛鳥大仏 筆者撮影
本堂に安置されている本尊の釈迦如来像は、像高約2.75mで、飛鳥大仏の名で親しまれている。
この飛鳥大仏は、推古天皇の時代に造立が進められ、止利仏師(鞍作鳥)によって609年頃に完成したとされる、日本最古級の仏像である。
その後、飛鳥寺は火災や衰退に見舞われ、1196年の落雷による火災では塔や金堂を焼失した。
現在の本堂は、飛鳥大仏が安置されていた中金堂の跡に再建されたものであり、飛鳥大仏は創建当時と同じ場所に安置され続けている。
一方で、飛鳥大仏は火災後に大きく修復され、顔の一部、左耳、右手の中央の指3本などが当時のまま残る部分とされてきた。
そのため、戦後の文化財保護法施行後は現行制度の国宝には指定されず、重要文化財として扱われている。
また、一般的に仏像の撮影を禁じる寺院も多いが、飛鳥寺では飛鳥大仏の撮影が認められている。
飛鳥宮を威圧するように建てられた飛鳥寺と蘇我入鹿の首塚
飛鳥寺は、飛鳥宮跡の北端から徒歩で10分足らずの場所にある。
先述したように、往時の飛鳥寺は現在よりもはるかに広い寺域を持っていた。
現在の本堂はかつての中金堂跡にあたり、蘇我氏の氏寺であった飛鳥寺は、飛鳥宮跡のすぐ北側に広がっていたことになる。
この位置関係からも、飛鳥寺は蘇我氏の権勢を強く示す存在であったといえるだろう。蘇我馬子に始まる蘇我本宗家は、飛鳥の政治空間に大きな影響力を及ぼしていった。
やがてその緊張のなかで、中大兄皇子(後の天智天皇)と中臣鎌足による蘇我入鹿暗殺事件が起きる。
これが乙巳(いっし)の変である。
この時、入鹿の首が飛鳥寺の方まで飛んできたという伝承が残されており、現在も飛鳥寺の西側すぐの場所に、入鹿の首塚と呼ばれる五輪塔が建てられている。

画像:蘇我入鹿の首塚 著者撮影
飛鳥の地には、日本の国家形成と仏教受容の痕跡が今も眠っている。
飛鳥の貴重な遺構が、世界に共有される文化遺産として認められることを願いたいところである。
次回はさらに時代をさかのぼり、蘇我氏・厩戸皇子と物部氏の対立をめぐる飛鳥前期の歴史を紹介したい。
参考 :奈良文化財研究所『飛鳥・藤原宮発掘調査概報』『飛鳥寺発掘調査報告』ほか
文・撮影 / 草の実堂編集部

























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