表向きは「戦略的パートナーシップ」を謳い、反西側という共通の利害で結ばれているかのように見える中露関係。
しかし、その実態は決して単純な友好関係ではない。
とりわけ中央アジアと北極という戦略的要衝では、思いのほか激しい主導権争いが繰り広げられている。
今回は地政学・地経学の観点から、中露関係の見えざる亀裂を浮き彫りにする3つの要因をまとめる。
中央アジアでの影響力競争

画像 : 中央アジア public domain
中央アジアは、豊富なエネルギー資源とユーラシアの戦略的要衝として、中露双方にとって重要である。
中国は「一帯一路」構想を通じて、インフラ投資や経済的影響力の拡大を図る。例えば、カザフスタンやウズベキスタンでの鉄道・パイプライン建設は、中国の市場アクセスと資源確保を強化する。
一方、ロシアはユーラシア経済連合(EAEU)や集団安全保障条約機構(CSTO)を用いて、旧ソ連諸国への政治的・軍事的支配を維持しようとする。
しかし、中国の経済的進出はロシアの伝統的な「裏庭」での影響力を侵食する。カザフスタンのヌルタウ・プロジェクトやタジキスタンへの融資拡大など、中国の動きはロシアの不満を招く。
ロシアは中央アジアでの中国の台頭を警戒しつつ、経済力不足から対抗できないジレンマに直面している。
この地政学的競争は、両国の協力に不協和音を生む。
北極での資源と航路を巡る対立

画像 : 氷上シルクロード (researchgate)CC BY-NC-ND 4.0
北極は、気候変動による氷の融解で新たなエネルギー資源と航路の可能性が開け、中露の戦略的関心が交錯する。
中国は「氷上シルクロード」を掲げ、北極海航路(NSR)の利用拡大を目指している。
2018年の「北極政策白書」では、資源開発やインフラ投資への意欲を示し、ロシアのヤマルLNGプロジェクトに資金提供するなど関与を深める。
しかし、ロシアにとって北極は国家安全保障と経済の生命線である。NSRはロシアの排他的経済水域(EEZ)に属し、ロシアは航行管理や資源開発の主導権を握ることを重視する。
中国の積極的な関与は、ロシアの主権や利益を脅かすとみなされる。
例えば、2023年に中国が北極での科学調査船活動を増強した際、ロシアは軍事的警戒感を強めた。
地経学的には、北極資源の分配や航路の管理を巡る交渉で、両国の利害が一致しない。この緊張は、協力の限界を露呈する。
経済的依存と不均衡な力関係

画像 : 微妙な中露関係 public domain
中露関係は経済的不均衡により、潜在的な不信感が根強い。
中国はロシアにとって最大の貿易相手国であり、2024年の貿易額は約2400億ドルに達する。
特にロシアのエネルギー輸出(石油・天然ガス)は中国市場に依存するが、これはロシアの経済的脆弱性を意味している。
ウクライナ侵攻後の西側制裁で、ロシアは中国への依存をさらに深めたが、中国はこれを地経学的に利用する。
人民元の決済比率拡大や、ロシア企業への技術供与の制限など、中国は優位な立場を活用する。
一方、ロシアは中国の技術や投資に頼りつつ、過度な従属を警戒する。
中央アジアでの中国の経済支配や、北極での投資拡大も、ロシアに「中国の属国化」への懸念を抱かせている。
つまり地政学的には、両国は反米を共通目標とするが、経済的力関係の不均衡はロシアに戦略的妥協を強いる形になる。
この不均衡は、表面的な同盟関係に亀裂を生むだろう。
中露は反西側という共通の目標で結ばれるが、中央アジアでの影響力競争、北極での資源・航路を巡る対立、経済的不均衡による不信感が、関係の限界を示す。
地政学・地経学的視点から見れば、両国は協力よりも競争の側面が強く、真の信頼関係は構築されていない。
表面上の友好は、戦略的必要性による一時的なものであり、深いパートナーシップには程遠い。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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