イングリッド・アヴ・スヴェーリエ (1910年~2000年)とは、スウェーデンの王女で、デンマーク王であるフレゼリク9世の王妃である。
デンマーク名は、イングリズ・ア・スヴェーリエであるが、この記事ではイングリッドと統一しておく。
写真でもわかるように、とても美しい顔立ちをしており、夫であるフレゼリク9世との間には3人の娘に恵まれた。
長女のマルグレーテ2世は現在デンマーク女王として、次女のベネディグテは侯爵夫人として、末娘のアンネ・マリーはギリシャ王妃として、それぞれに王族としての人生を過ごしている。
今回は、そんなイングリットの生涯について見ていこうと思う。
デンマーク女王 マルグレーテ2世を生んだ王妃
イングリットが長女マルグレーテ2世を生んだのは、第二次世界大戦のさなか、ドイツのナチス軍によってデンマークが侵略されてからわずか一週間後のことであった。
当時、デンマークの王室には、男子にのみ王位継承権が与えられており、マルグレーテ2世は当初、王位継承権を持たなかった。
だが、その後もイングリッドは男子を生むことはなく、一時は王位継承権が夫の弟であるクヌーズ王子に与えられそうになったのだが、なんと国民たちの強い要望で、女性の王族にも王位継承権を与えるための運動が起こったのである。
国民たちの強い要望を受け、1953年に、男子のいない場合には女子にも王位継承権が認められ、マルグレーテ2世は1972年、デンマーク王室の歴史の中ではじめての女王となったのである。
彼女は現在も在位中で、在位歴世界3位を誇っている。国民に愛され、“デイジー”という愛称で親しまれているようだ。
イングリッドは、男子を出産しなかったことで辛い目に遭うこともあったのかもしれないが、“女王誕生”という歴史的快挙のきっかけを作った重要人物と言っても過言ではないだろう。
それにしても、国民の意思により王室の歴史が変わるとは、なんだか感慨深い。
デンマークは国民の幸福度が世界一高い国であると言われているが、国民の意見が大切にされている、というところも、その理由の1つなのかもしれない。
父・グスタフ6世との不和
イングリッドは、当時スウェーデンの王太子であった、スコーネ公グスタフ・アドルフ王子(のちのスウェーデン国王グスタフ6世)と、その妻マルガレータの3番目の子どもとして誕生した。
母・マルガレータの愛称は、孫娘と同じく“デイジー”で、父方の祖母にヴィクトリア女王を持つという由緒正しき血筋の女性であった。
当時「ヨーロッパでも指折りの美しい女性」と言われており、その美貌はイングリッドにも引き継がれている。
そんなマルガレータは1920年に感染症により死亡。その時に妊娠していた子供も死産したのだという。
わずか38歳という若さだった。
母の死に悲しみにくれるイングリッドであったが、父のグスタフ6世は、その3年後にイギリスの貴族であるルイーズ・マウントバッテンと再婚した。
なんとルイーズは、イングリッドと又従姉妹同士だったとそうで、イングリッドは母の死後すぐに再婚した父のことを許さなかったそうだ。
それもそのはず、イングリッドが母を失ったのはわずか10歳の時で、父が再婚相手を連れてきたのは13歳、とても多感な時期であったからだ。
そんな中、遠縁だが自分と血縁関係にある女性と再婚する、などと言われたのだから、思春期の少女にはとても辛いことだっただろう。
大人になってからは両親と和解したが、「父に裏切られたと感じていた」と自分の想いを語ったという。
無類のドライブ好き?
父との不和や、他国への嫁入り、そして戦争中侵略された中での出産など、若い時には苦労が多かったイングリッドだが、その晩年は非常に幸福、かつ破天荒なものであった。
イングリッドはかなりのドライブ好きとして知られており、お抱え運転手がいるにも関わらず、運転手の運転を断り、自ら車を運転して、デンマークの首都であるコペンハーゲン市内を走り回っていたと言う。
そんな彼女の愛車は、デイムラーかロールスロイス。そんなやんちゃな一面も、愛すべき女性であったと言える。
2000年に90歳で死去すると、ロスキレ大聖堂に葬られた。そこには夫であるフレゼリクも眠っているという。
日本の皇室との関わり
この記事では、デンマークの王妃イングリッド・アヴ・スヴェーリエについて調べてみた。
実はデンマーク王室は、日本の皇室とも関わりが深く、2019年に行われた即位礼正殿の儀には、皇太子であるフレデリック、皇太子妃であるメアリーが出席している。
天皇・皇后陛下と年齢が近いということもあり、特に仲睦まじい関係を築いているようである。
デンマークは女性の社会進出が最も進んでいる国であるとも言われており、その背景には歴史上はじめて、女王が誕生したことも関係しているのかもしれない。
その礎には、イングリッドの存在が深く関係していると言えるだろう。
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