海外

「バリスタはノルウェーで生まれた」 コーヒー大国の顔を持つノルウェーのコーヒー文化

「バリスタはノルウェーで生まれた」

コーヒー豆とコーヒー

世界で最も消費されている飲料と呼ばれるコーヒーは、精神を落ち着かせたり、眠気覚ましの効果を発揮するため、起床後や忙しい仕事の合間に飲まれることが多い。コーヒーの発祥地である東アフリカのエチオピアではコーヒー豆を薬品の成分や食料として扱っていたが、世界各国でコーヒー豆の存在が知れ渡ると、コーヒー豆の香ばしい風味を飲料にして楽しむ方法が定着していった。

毎日欠かさずコーヒーを飲む人の割合が日本の3倍ともいわれている北欧の国々では、いつどこでもコーヒーが飲めるようにチェーン店を始めとする数多くのコーヒーショップが立ち並んでいる。

これほどまでに体を温めるコーヒーが好まれる理由には、最低気温マイナス20度を記録する北欧の気候も関係している。

ノルウェーでコーヒー文化が強く根付いた理由とは?

ノルウェーの自然を一望できる「ガイランゲルフィヨルド」

北欧の国々の中でもコーヒーに対する格別な愛着を持っているのが、ノルウェーである。

ブラジルとの貿易を切っ掛けにコーヒーの美味しさがいち早く伝わったともいわれているが、ノルウェーをコーヒー大国に生まれ変わらせた大きな理由は、1900年代にノルウェーで発令されたアルコールの製造から販売までを厳しく取り締まる『禁酒令』である。

ノルウェーでアルコールの自家生産の許可が下りるとアルコールの消費量が一気に増加し、未成年の飲酒や犯罪行為に繋がる事件が後を絶たなかった。更にはアルコール依存症などの社会問題の深刻化も進み、国民の生活に支障をきたすと判断したノルウェーは『禁酒令』の施行に踏み切った。

そんなアルコールが飲めなくなった時代に人々が夢中になったのがコーヒーだった。次第にコミュニケーションを取る場には欠かせないコーヒーをノルウェーの自然豊かな立地の中で楽しむことが人々のステイタスにもなったという。

『禁酒令』が廃止となった現在でも、過度のアルコール摂取に対するノルウェー政府からの警告は引き続き行われている状況である。

味覚に優れたノルウェーの人々の厳しいコーヒージャッジ

「バリスタはノルウェーで生まれた」

コーヒーを淹れる様子

コーヒーをこよなく愛するノルウェーの人々は、種類豊富なコーヒーを納得がいくまで試飲をしてから購入するほど、高品質なコーヒー豆へのこだわりが強い。

この購入前の試飲は『カッピング』と呼ばれ、焙煎度やお湯の温度によって苦味や酸味のバランスに影響が出やすいコーヒー豆を十分に見極めることができる方法である。『カッピング』には、バリスタと顧客との間の信頼関係も重要となるため、経歴の長いバリスタでもコーヒーへの熱心な研究に余念がない。

1日に5杯以上のコーヒーを口にする人も多いノルウェーではスッキリとした爽やかなコーヒーの後味が好まれているため、焙煎時間が短い『浅煎り』が主流である。

『浅煎り』でコーヒーを淹れることで、日本で親しまれている深い苦味のコーヒーとは異なり、果物の風味やコーヒー豆本来の酸味が感じられるという。

世界を舞台に活躍する『バリスタ』を続々と輩出しているノルウェー

「バリスタはノルウェーで生まれた」

店頭で働くバリスタ

コーヒーの幅広い知識を持つ『バリスタ』という職業が誕生したのもノルウェーである。

バリスタとして働く上で必ずしも資格が必要というわけではないが、知識や技術面での評価が高く就職の際に有利となる場合もある。また、バリスタには接客面での細かい対応力も重視されるため、コーヒーに関する知識や技術だけでなく、本人の人柄も試験では審査対象となる。

世界一のバリスタを決める『ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ』においてもノルウェー出身のバリスタの実力は高く、優勝者を続々と輩出している。優勝を勝ち取ったバリスタが勤務するコーヒーショップは翌日から長蛇の列を成すほど話題を集め、影響力も凄まじい。

開催当初からコーヒー文化が根強い北欧諸国出身のバリスタの優勝が目立っていたが、2014年度のイタリア・リミニでの大会では見事、日本人バリスタの「井崎 英典(いざき ひでのり)」氏が優勝に輝き、アジア人初、日本人初という大きな快挙を成し遂げた。

もう代替品とは呼ばせない、世界中を虜にするコーヒーの魅力

アルコールによって悪化した日常を見直すために発令された『禁酒令』の下、一時期アルコールとは無縁の時代に生きたノルウェーの人々に寄り添ってきたのがコーヒーという存在だった。当初は文字通り、禁酒令時代の代替品として飲まれていたことも事実だ。

しかし、それ以上にコーヒーが持つ精神や身体を労る効果や、会話の合間に飲みやすいスッキリとした後味に親しむ中で、代替品としてではないコーヒーを楽しむ習慣が身につき、世界で初めて『バリスタ』という専門職を確立させたノルウェーは、『コーヒー大国』としての地位までも手に入れた。

ノルウェーの首都『オスロ』では、北欧の国々を対象としたバリスタの実力を競う『バリスタ・リーグ』を頻度に開催し、ノルウェーのコーヒー文化に携わることを目指すバリスタの可能性を広げている。

日頃からバリスタの技術やコーヒー文化の発展に力を入れるノルウェーのコーヒーに対する強い愛情と敬意を表する姿勢には、大いに驚かされるばかりだ。

 

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. ピラフとチャーハンの違いを調べてみた「結局どっちも一緒?」
  2. 中国の食文化について調べてみた 【山東料理、昆虫食】
  3. 【カンボジアの悲劇】 ポル・ポトという怪物はいかにして生まれたの…
  4. 全財産を失ったニコラス・ケイジの素顔【血は争えない!?】
  5. マッコウクジラの腸結石(アンバーグリス) を海辺で拾えば一攫千金…
  6. 【第二次世界大戦の原因?】1929年の「ウォール街大暴落」と「世…
  7. 『首謀者は2人の少女』 コティングリー妖精写真捏造事件 「コナン…
  8. 台湾の「人気インフルエンサー」が起こした愚かな事件

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

【幸せになるための投資戦略 】「3つの資本」と「8つの人生パターン」とは?

幸福とは何でしょうか?多くの人にとって、幸福は曖昧で抽象的な概念に思えるかもしれませ…

「マンジ ザ・マウンテン・マン」この悲劇を繰り返すまい…最愛の妻を喪った男が22年の歳月をかけて成し遂げた偉業とは

中国に愚公移山(ぐこういざん)という故事成語があります。今は昔、とある村では険しい山によって…

【戦国武将の男色】 衆道とは ~伊達政宗が身も心も愛した男たち

戦場においては勇猛果敢でさまざまな才能を持ち、「伊達男」ぶりでも知られた初代仙台藩主・伊達政…

【三国志】曹操じゃなかったの?諸侯に董卓討伐を呼びかけた橋瑁(喬瑁)の生涯

三国志、皆さんも好きですか?筆者も大好きで、光栄の歴史シミュレーションゲーム「三国志」シリー…

『世界で評価されたプリマドンナ』 三浦環 ~日本人初の国際的オペラ歌手

明治から昭和にかけて活躍した三浦環(みうらたまき)は、日本人として初めて世界的な名声を得たプリマドン…

アーカイブ