アニメがいつどこで始まったのかは、答えに困る。そもそも何をもって「アニメーション」と呼ぶのかによって、大きく変わるからだ。
CGアニメーションを「アニメ」と定義づけるのなら、始まりは1995年「トイ・ストーリー」から。絵を動かす装置が開発されたのを「アニメの歴史」として見るのなら、始まりは1831年のフェキトナスコープからだろう。
絵を動かす”発想”の原点から見れば、フランス南東部にあるアルデッシュショーヴェ・ポンダルク洞窟に描かれた「ショーヴェ洞窟の壁画」が最古の可能性が高い。世界最古級の32000年前頃に描かれた壁画と推測されており、世界遺産にも登録されている。
ショーヴェ洞窟の壁画には、明らかに絵を動かそうと模索した形跡が残っている。
最新の研究によると、この壁画は連続した動きのある絵であり、たいまつの炎を動かすことで動いているように見せていた可能性があるという。
今回はアニメの本当の原点を探るためにも、ショーヴェ洞窟について解説する。
目次
ショーヴェ洞窟のある場所は?
フランス南部のアルデシュ川アルデシュ渓谷には、見事な天然の橋「ポンダルク」がある。ポンダルクから北へ進むと、石灰岩で出来た台地に遭遇する。その台地の中にある洞窟こそが、ショーヴェ洞窟となる。
なお洞窟は、保護と研究のために関係者以外は立ち入り禁止となっている。洞窟入り口には鋼鉄の扉が設置されており、侵入者を完全にシャットアウトしている。
ショーヴェ洞窟に描かれている壁画の数々
ショーヴェ洞窟には数百点近い壁画が描かれている。絵そのものはシンプルなものだが、技術力は桁違いに高い。
壁画の中には「遠近法」が用いられたとされるものがある。手前の動物は全身を描き、奥の動物は一部だけ描くことにより、奥行きを表現しているのだ。
遠近法が確立されたのは、およそ14世紀~16世紀頃とされており、ショーヴェ洞窟の時代よりもかなり後である。
極端に言ってしまえば、壁画の作者は数万年先の未来を先取りしていたことになる。
天才はいつの時代にも存在していたのだ。
ショーヴェ洞窟の壁画を手掛けた天才の正体は?
では、ショーヴェ洞窟の壁画を手掛けた天才は何者だったのか?
「作者はクロマニヨン人だった」という説や「ネアンデルタール人が描いたもの」という説もある。
正確なところは不明なため、本記事では「作者」として話をすすめる。
作者は壁画制作時、トナカイなどの毛皮を着用していたことが推測できる。ショーヴェ洞窟壁画が描かれたとされる3万2000年前は、氷河期真っただ中である。ショーヴェ洞窟付近も氷河期の影響を受け、雪と氷の世界だったかもしれない。
気温は真夏の昼間でも肌寒く感じる頃である。そんな中で薄着で過ごそうものなら命に関わる。本当に毛皮を羽織っていたかどうかまでは定かではないが、何かしらの防寒対策は施していたはずである。
ショーヴェ洞窟の壁画に残されている手形から身長180cm前後と推測されている。男性の可能性が高いが、背が高い女性の可能性も否定はできない。
壁画制作時に使われた道具は?
壁画制作時に使用した道具は、ヨーロッパアカマツの木炭、岩石から作られた絵具、獣脂ランプとされている。絵筆代わりとしては、指・動物の毛・棒・吹き墨等を使っていたことが推測されている。棒に動物の毛を取り付けて、筆のような道具を使っていた可能性もある。
中でも注目したいのは獣脂ランプである。この時代は電気もなければライトもない。暗闇の中で見事な壁画を仕上げるのは、如何に天才とはいえ不可能なことと言えよう。
ただ獣脂ランプがあったとしても壁画全体を明るく照らすのは難しい。明るく強力なライトを複数個並べないと、全体を見渡すことはできないだろう。
現代の感覚から見れば大変描きにくい環境下ではある。しかし作者が生きていた時代を考えれば寧ろ好条件だったかもしれない。明りを動かしながら壁画を眺めれば、絵が動いているように見えなくもない。
このような環境がヒントとなって、まるで現代のアニメのような連続絵を描いたのかもしれない。
以下は実際にショーヴェ洞窟壁画をアニメーション化した動画である。
ショーヴェ洞窟の壁画が描かれた目的は?
ショーヴェ洞窟の壁画は「おまじない」目的で描かれた可能性が高いとされている。
根拠となるのは、洞窟内にあった熊の頭蓋骨が置かれた祭壇のような石である。祭壇が作られたということは、神秘的な場所と捉えていたのかもしれない。
さらに壁画に描かれた動物の半数が強力な肉食獣である点も注目である。動物による被害は現代でも後を絶たないが、作者の時代ならより深刻なものだったはずである。動物を人智を超える「大きな力」として見ていた可能性がある。
だとすれば、熊の頭蓋骨を使って祭壇を作ったことにも説明がつく。
ショーヴェ洞窟壁画は見学できる?博物館のツアーについて
本物の壁画を見るのは不可能だが、忠実に再現したレプリカ壁画なら見学は可能である。
洞窟から北東3km離れた場所にある「ショーヴェ洞窟復元センター」では、洞窟見学ツアーを実施している。レプリカ壁画は実際の壁画を3Dデータに落とし、技術者によって再現されたものとなる。
なお見学の際には、事前予約が必要不可欠である。大人気ツアーとなっているため早めに予約をした方が確実である。日本語にも対応しているため、興味があれば申し込んでみるのも良いだろう。
参考予約サイト 世界最古の洞窟壁画 ショーヴェ・ポンダルク (プライベートツアー)
https://www.gloria-tours.jp/france/option/provance/h20111122120539894.html
入場料は、大人18€(約2,790円)、10歳~17歳までは9€(約1,395円)、10歳未満は無料。
表記した日本円は「1€=155円」で計算しているが、ユーロ円レートは日によって変わるため、あくまでも参考程度として留めて頂ければ幸いである。
ショーヴェ洞窟壁画からは、判明しているだけでも300点以上の壁画が発見されており、3万年以上も前にこれだけのクオリティーの絵が描かれていたことは驚きである。描かれた年代については一部論争があるものの、マンモスなど現代では絶滅している種の壁画も多く存在するため、相当古い時代であったことは間違いない。
通説とされている3万2000年前は、ネアンデルタール人がまだギリギリ生存していたとされる時期である。
ショーヴェ洞窟壁画は、私たちとは別種の人類が残した芸術なのかもしれない。
参考 : The cave of Chauvet-Pont-d’Arc
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