風邪でも絶対休めない日本人
以前、風邪薬やアレルギーの薬の宣伝文句で「風邪でも、絶対休めないあなたへ」という、エスエス製薬が流したテレビCMがあった。
子供の頃は、風邪でも休めないって一体どういうことなの!?と思っていた。
社会に出てわかったことは、正確には「休めない」ではなく「休みにくい」のだ。
以前シフト制の接客業をしていた筆者は、毎月半ばになると次の月のシフトのために休み希望を書いて提出していた。同僚と重複しまった場合はどちらかが譲る必要があったので、かなり気を使ったものである。
もちろん有給はあるのだが、体調不良でも有給を使いにくい。コロナやインフルエンザなどの病名がついてようやく堂々と休める、といった空気があった。
風邪でも絶対会社を休めない理由
このように日本の会社社会では、長年「自分の体調よりも、会社に行くことの方が大切」という雰囲気が漂っていた。
自分が休んだことで会社の業務に支障が出てはいないか?会社より体調を優先してしまった自分に対しての上司の評価はどうか?など、いろんな方面で心配しなければならないのだ。
筆者が在住している台湾には「お昼寝習慣」がある。
日本でも幼稚園ではお昼寝の時間があるが、台湾では小、中、高と昼食の後にお昼寝の時間がある。
生徒だけでなく、先生も寝る。
机に伏して寝るのだが、とても器用に寝る。机に伏して寝る用のグッズも豊富に販売されている。
中には、リクライニングできる椅子を持ち込んで寝ている先生達もいるそうだ。
お昼寝をする理由は、午後の学業や仕事を効率良くさせるためである。
このように、小さい頃から「休むこと」に関しての習慣が根付いている。
物議を産んだ広告
エスエス製薬が放送したCMは、少なからず物議を産んだ。
2016年、小説家の似鳥鶏氏がTwitterでつぶやいたことがきっかけとなった。
「風邪でも絶対休めないという言葉を使ってしまうのは良くない。当然薬を飲めば、一時的に症状は収まるが、完全に治ったわけではないので、風邪のウイルスを拡散してしまうことになる。そして拡散すると周りの人にも影響を及ぼすことになる。」
といった旨の内容だった。
それに対して、エスエス製薬の広報は以下のような内容の返答をしている。
「当社は決して風邪でも絶対会社を休んではいけないと言いたいわけではない。そのように捉えられたとしたら、大きな誤解である。私たちが言いたいのは、会社員は誰でも絶対会社に行かなければならない日がある。という意味である。大きな商談がある日や重要な会議がある日などがそれに相応する。そんな時、軽い風邪なら当社の薬を服用して乗り切って下さい。というメッセージである。」
納得のいく回答ではある。なぜなら筆者はCMを見て賛同した側の人間だったからだ。
コロナ禍で
新型コロナウイルスの流行で、この「絶対休めない」の意味は大きく変わり、「絶対休みなさい」になった。
2020年、朝日テレビの富川アナは38度の熱があったが、新型コロナウイルスであるとの証明ができなかったため出勤し、番組に出演した。
その三日後、番組の出演途中で喉の異変を感じ、階段を登ると息苦しさを感じた。いくつかの症状があるにも関わらず出演を続けた。ところが番組で話している最中についに息苦しさを感じ始めたのだ。
上司には「今日の撮影が終わったら、休んでいい」と言われたが、その次の日、陽性と確認されたのである。その後、幾人かの社員にも感染が見られた。後になってアナウンサーは「自分の体調管理不足」と周りに感染させてしまったことについて謝罪した。自分の症状が限りなく新型コロナウイルスに近いにも関わらず、休まなかったことについても言及した。
このような社会の風潮もあってか、日本では新型コロナウイルスの流行がなかなか収まらなかった。
台湾ではかなり早期の段階で学校の授業はオンラインになり、会社の仕事も在宅へと変更された。少しでも症状があればすぐに休めるし罪悪感も必要ない。
今回の新型コロナウイルスの流行で、日本の多くの会社は、社員が病気で会社を休むことについての考え方が変わったのではないだろうか?
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