北方領土問題は、日本とロシアの間で長年にわたり解決を見ていない領土問題である。
しかし近年、この問題に新たな、そして看過できない側面が加わってきた。
それは、ロシアの経済的孤立と対中接近を背景に、北方領土を含む地域で中国企業の関与が目立つようになってきたことである。
この動きは、単なる経済活動に留まらず、領土問題の現状を固定化させ、将来的な日本の外交交渉の可能性を大きく損なう懸念を生じさせている。

画像 : 歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島 CC0
経済連携の深化と中国資本の流入
ロシアは、ウクライナ侵攻以降、欧米諸国からの経済制裁を受け、その経済活動の軸足をアジア、特に中国へと大きくシフトさせている。
この状況下で、北方領土(ロシア名:南クリル諸島)も例外ではない。
ロシア政府は、同地域の経済開発を促進するため、外国人投資家に対する優遇措置を導入しており、その枠組みの下で中国企業の関与が目立つようになっている。
特に、水産資源や観光、インフラ整備といった分野では、中国を含む第三国資本の関与が取り沙汰される場面が増えている。
実際、択捉島ではロシア側主導による大規模なリゾート開発計画が具体化しており、観光分野を軸に北方領土の経済利用を進める動きが報じられている。また、水産資源の活用をめぐっても、周辺地域を含め第三国資本が関与する可能性が指摘されている。
これらの投資は、現地での雇用創出といった短期的な経済効果をもたらす一方で、その実態はロシア経済の対中依存を深める構造を作り出している。
こうした状況を背景に、北方領土の経済活動が第三国資本、とりわけ中国側への依存を強めつつあるのではないか、との指摘も出ている。

画像 : 対岸に見える国後島 public domain
北方領土の現状固定化への懸念と外交の課題
中国企業の北方領土への進出は、日本の主権回復を目指す外交努力にとって、極めて深刻な影響を及ぼす可能性がある。
日本政府は北方領土を「日本固有の領土」と主張しており、ロシアによる実行支配を認めない立場である。
しかし、中国資本が巨額の投資を行い、大規模な経済活動を現地で展開することは、国際社会に対してロシアの実行支配を既成事実として印象づける効果を持つ。
さらに、将来的に日ロ間で領土問題の解決に向けた交渉が再開されたとしても、その交渉のテーブルには「中国企業の権益」という新たな、そして強大な障害が立ちはだかることになる。
仮に日本への返還が実現した場合、中国企業が投じた資本や施設、雇用に対する補償問題などが複雑に絡み合い、領土返還のプロセスを著しく困難にさせるだろう。

画像 : 2022年2月、北京冬季五輪開幕直前に会談したプーチン大統領と習近平国家主席。出典:Presidential Executive Office of Russia/CC BY 4.0
国際的孤立と北方領土への新たな圧力
中国の北方領土への進出は、単なる日ロ間の問題に留まらない。
国際情勢におけるロシアの孤立が深まるほど、中国がロシアに対して経済的・政治的な影響力を増していくのは必然である。
北方領土は、その対中傾斜の象徴的な場所となりつつある。
日本政府は、この「中国化」の動きを座視すべきではない。
ロシアに対して、主権に関する問題であり第三国の関与は容認できないという断固たる姿勢を示すとともに、国際社会に対しても北方領土問題の重要性を再認識させるための外交努力が求められる。
また、中国企業による活動が環境や持続可能性に与える影響についても、情報収集と監視を強化する必要がある。
第三国の関与が積み重なることで北方領土問題の構造がさらに複雑化する事態を防ぐことは、日本の領土主権と国益を守る上で喫緊の課題である。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























この記事へのコメントはありません。