
画像 : 2022年のロシアによるウクライナ侵攻のモンタージュ public domain
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、4年という歳月が経過してもなお、出口の見えない泥沼の様相を呈している。
世界中の関心が戦況の推移や支援疲れに向かう中、ウクライナと長い国境線を接する隣国ルーマニアの東部国境地帯では、報道されることの少ない「静かなる戦慄」が日常を侵食している。
NATO(北大西洋条約機構)の東端に位置するこの地で、今何が起きているのか。その実態を追った。
頭上を舞うドローンの相次ぐ落下

画像 : シャヘド136 Tasnim News Agency CC BY 4.0
ウクライナ南部の要衝オデッサ州に隣接するルーマニア東部のドナウ川沿いの村々では、夜な夜な空を切り裂く轟音が響き渡る。
ロシア軍によるウクライナの港湾施設への攻撃が激化するにつれ、本来「安全圏」であるはずのルーマニア領内へと、ロシア産の自爆ドローン「シャヘド」やミサイルの残骸が落下する事態が断続的に発生している。
地元住民は、対岸のイズマイルやレニといったウクライナの港が炎上する様子を、肉眼で確認できる距離にいる。
爆発の衝撃波で窓ガラスが震え、夜空がオレンジ色に染まる光景は、もはや珍しいものではなくなった。
しかし、住民を最も恐怖させているのは、制御を失った兵器の破片が、自分たちの生活圏に降り注ぐという現実である。
村々に設置されるコンクリートの防空壕

画像 : ルーマニア東部を流れるドナウ川(ウクライナとの国境地帯に近い流域の風景) CC BY-SA 3.0
この緊迫した状況を受け、ルーマニア政府は中立や平和といった言葉では片付けられない実効支配的な防衛措置に乗り出した。
国境付近の村々には、軍の手によってプレキャスト・コンクリート製の避難シェルターが次々と設置されている。
かつてはのどかな農村だった場所に、無機質な防空壕が突如として現れる光景は、ここが紛争の最前線と紙一重であることを象徴している。
空襲警報が鳴り響くたびに、住民はスマートフォンに届く政府からの警告メッセージを握りしめ、冷たいコンクリートの中に身を隠す。
昨日まで畑を耕していた日常が、一瞬にして戦時下へと引きずり込まれる感覚を、彼らは4年もの間、味わい続けているのである。
NATOの盾と見捨てられる地方の苦悩
ルーマニア政府やNATO当局は、これらの落下事態について「ルーマニアを標的にした意図的な攻撃である証拠はない」との見解を繰り返している。
確かに、意図的な攻撃であれば、それはNATO条約第5条(集団防衛)の発動を意味し、第三次世界大戦への引き金になりかねない。
しかし、理論上の安全保障と、現場で暮らす住民の心理的疲弊の間には深い溝がある。
報道の焦点が中東情勢や米大統領選に移り変わる中で、ドナウ川沿いの村々で起きている領土侵犯とも言える事態は、国際社会の関心から急速にこぼれ落ちている。
「我々は忘れられているのではないか」。そんな不安が、黒海沿岸の湿地帯に漂っている。
シェルターの中で震える夜が続く限り、ルーマニア東部の住民にとって、戦争は決して「隣国の出来事」ではない。それは、すぐそばにある死の気配そのものなのだ。
侵攻から4年。ウクライナの勝利を願う声の裏側で、NATOの盾のすぐ脇で起きているこの歪な現実を、我々は直視しなければならないだろう。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

























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