マリア・カロリーナ(1752~1814)とは、女帝マリア・テレジアと神聖ローマ皇帝フランツⅠ世の10女で、ナポリとシチリアの王フェルディナンド4世の王妃である。
今回は、ナポリ王妃、そしてシチリア王妃とふたつの肩書きを持つ彼女について解説する。
身代わりの王女として
当初、マリー・カロリーナには、フランス王ルイ16世との婚姻が考えられており、ナポリ王と婚約していたのは、すぐ上の姉、マリア・ヨーゼファだった。
しかし、1767年にマリア・ヨーゼファがわずか16歳という若さで亡くなってしまう。死因は天然痘。当時の死の病である。
マリア・ヨーゼファが急死した翌年、マリア・カロリーナは、姉が嫁ぐはずであったナポリのフェルディナンド4世へと嫁ぐことになった。
そんなカロリーナの姿を見て、当時仲の良かった妹マリア・アントーニアはとても悲しんだと言う。
ちなみに、このマリア・アントーニアこそ、後にフランスの断頭台へと消えるマリー・アントワネットである。
嫁ぎ先では大活躍
マリア・カロリーナが嫁いだフェルナンド4世は、統治者でありながら、政治にまったく関心のない男だった。
しかも奇行が目立ち、外見は醜いという最悪の結婚相手である。
マリア・カロリーナは故郷への手紙で、良いところがひとつもない夫のことを、「彼を絶対に愛せない」と書いていたのだとか。
しかし、マリア・カロリーナは、自らの不運を悲しみ泣き暮らすことはしなかった。母マリア・テレジアの指示に従い、夫の代わりに自らが国政を掌握することにしたのである。
王子を生んでからは、マリア・カロリーナはさらに自分の立場を強くし、それまで政界を牛耳っていた古参の政治家ベルナルド・タッチを追い出した。
その件に関しては、義父であるカルロス3世との対立も辞さなかったと言う。かなり積極的に、インシアティブを取ろうとしていたようだ。
(生意気な女、と反感を持たれそうだが、仕事に邁進する姿はいっそ清々しくて、好感が持てる。)
マリア・カロリーナの政治的功績は大きく、士官学校を作り軍隊の再編をしたり、それまでの腐敗した政治制度を一掃したりと、まさに大活躍だった。
また、“絶対に愛せない”と評していた夫との関係だが、個人的な感情と王妃としての義務は別だと考えていたようで、多くの子宝に恵まれ、子どもたちそれぞれに政略結婚をさせている。
マリー・アントワネットの姉
先述したが、妹のマリー・アントワネットとは、年も近いことから非常に仲が良く、どちらかが風邪をひけばもう片方も…といったような具合で、周囲からも、まるで双子のように思われていたようである。
しかし、軽率なマリー・アントワネットとは違い、マリア・カロリーナは君主としての自身の任務を全うし、政治的手腕をふるっている。
彼女の評価は非常に高く、当初の予定通りマリア・カロリーナがフランスに嫁いでいれば、フランスの革命の歴史は変わっていたのではないか、と言われているほどである。
そんなマリア・カロリーナだが、フランス革命が起こった際には、はじめは市民たちに同情を寄せていた。
だが、妹マリー・アントワネット夫妻が処刑されると、態度を硬化させる。
彼女は夫を動かして、ナポリ・シチリアの合同軍を組織すると、フランス革命軍と戦うことにした。しかい、ナポリ軍は破れ、マリア・カロリーナは多額の賠償金を払って戦いを講和し、戦線を離脱したのである。
これらのことで、精神的にも肉体的にも疲弊したのか、マリア・カロリーナはアヘンを常用するようになったという。
マリア・カロリーナがフランスの王妃になっていたら、本当にフランスの歴史は変わっていたのか、それはなんとも言えないところである。
妹のマリー・アントワネット共々、フランス革命は姉妹に不幸な結末をもたらしたようだ。
マリア・カロリーナの晩年
マリア・カロリーナの晩年は、非常に不幸なものだった。
1806年にはナポレオンⅠ世により、フェルナンドがナポリ王位をはく奪されてしまう。
しかしマリア・カロリーナはめげず、残されたシチリア島の中で王妃としての実権を握り続けたが、1812年には実の息子にシチリア島から退去を命じられてしまった。
抵抗したマリア・カロリーナだが、その抵抗は叶わず、亡命先のオーストリア・ウィーンにて病死したのだと言う。
華やかなキャリアとは対照的に、晩年は家族にも、その存在を疎まれていたというさみしいものだったようだ。
ちなみに、マリア・カロリーナの生んだ子どもは、夭折した子も数えると18人にも及んだのだとか。
医学の発展している現代においても、18人の子どもを出産するということは、かなりリスクの大きいことに違いない。
ダメ夫の代わりにバリバリ働きながら、尋常ではない数の出産をこなす。
そんな離れ業を、250年も前にやってのけたというのだから、やはり、マリア・カロリーナは偉大な人物だと言えよう。
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