江戸時代

日本人は昔から「オカルト好き」?江戸時代に流行った「怪談話」を調べてみた

江戸時代といえば、日本の歴史の中でもひときわ長く続いた平和な時代だ。

かつての日本人が恐れたものといえば、天災や飢饉のほか、なにより戦があっただろう。しかしその戦がなくなって平和な世の中になっても、人々の心は「恐怖」や「怪奇」を求めていたのかもしれない。

現代風に言えば「オカルト」、江戸時代当時の人々に多くの関心を持たれた「怪異譚」の一部を、この記事で紹介してみよう。

謎掛け妖怪「両足八足、両眼天を差す、これ如何に?」答えは「カニ」だ!

謎かけ」をしてくる妖怪や幽霊の話はいくつかある。

昭和後期から平成初期にかけて流行した「都市伝説」にもそのような逸話は見かけられるが、歴史上登場する「蟹坊主」もその一類型であろう。

この「蟹坊主」は山梨県にある長源寺に伝わる怪談で、

両足八足、両眼天を差す、これ如何に?」(足は八本、両目は天を向いている。これなんだ?)

※別説には、「両足八足大足二足横行自在両眼大差」とも

という問いかけをし、答えられなかった相手を殺してしまうというものだ。

この謎かけの答えが「」であることを見破った旅の僧がそれを告げて独鈷杵を投げつけたところ、巨大な蟹が逃げ去ったのだという。

当時の人々は、蟹というもののなにかに不気味さを見出したのであろうか。

「鬼を談ずれば怪至る」…現代でも人気の「百物語」

怪談話

怪談を語り、ひとつ語り終えるごとに蝋燭を消す、100話目の蝋燭を消すと本物の幽霊が現れる、という「百物語」は、現代でも知られている怪談のひとつだ。

100話もの怪談を語ることから、「鬼を談ずれば怪至る」という言葉がよくマッチする。百物語は江戸時代に始まったという明確な記録があるわけではないが、江戸時代にも人気を集めた怪談のやり方だ。

江戸時代の百物語は、オカルト的な面白さを追求するというよりも、不寝番を務める人々が、朝までの長い時間を潰すために話していたという実用的な理由のほか、武家で語られていたことから、いわゆる「度胸試し」的なものとして楽しまれていたようだ。というのも、語られていた内容も現代のように、「怪談話(幽霊や妖怪が登場する話)」ばかりでなく、「不思議な話」などでも良かったようだ。

百物語を最後まで語ることで起こる怪異には、「青行燈(アオアンドン)」という名前がつけられているが、実のところ百物語の100話目という存在そのものが怪談的に語られるというのが定番だ。

当時の人々も、100話目はあえて語らず、99話目で話を止め、朝を待つというようにして、うまく「怪異」と付き合っていたようである。

UFOか、はたまた外国人か…?「うつろ舟」とは

怪談話

虚舟。『漂流記集』(作者不詳)から。流れ着いたのは常陸国の原舎ヶ浜(はらしゃがはま)

現代に伝わる民俗伝承として、「うつろ舟(虚舟)」と呼ばれる逸話がある。

1803年・1796年・1681年にそれぞれ、常陸国、加賀国、越後国など時期も地域も複数の記録が残るが、共通しているのは、まるで円盤のような舟が漂着し、その中には異国の女性が乗っている、その女性は箱を持っている、といった部分である。

古来より、海からのの漂着物を「えびす」として意味を見出してきた日本人らしいエピソードで、ともすればこれも、異国の人間が潮の流れによって日本の海岸に漂着したという事実を脚色したとも考えられる。しかし、この「うつろ舟」は「神の乗り物」「たま(魂)のいれもの」とも言われ、単なる外国人の漂着事件ではなく、心霊的な解釈を加えて好事家の関心を集めたようだ。

現代で言えば、未確認の浮遊物体、「UFO」に近いものだろう。

いや、さすがに食べるのは…「ぬっぺふほふ(肉人)」

怪談話

佐脇嵩之『百怪図巻』より「ぬつへつほう」

なんとも解釈に悩むオカルトとして、「ぬっぺふほふ」という名前の妖怪がいる。

江戸時代の「百怪図巻」や「画図百鬼夜行」などに収められている妖怪で、その見た目は丸っこい肉の塊のようなものだ。名前の音の類似や、「目もなく耳もなく」という記述もあることから、どうやら「のっぺらぼう」の一種であると考えられるが、このぬっぺふほふには、人々に話しかけて驚かせたり、顔のある人間に化けているといった「悪さ」をするエピソードはない。ただ、「肉人」とも言われるようにまさしく肉であり、このぬっぺふほふが通ったあとには「腐った肉のような臭いが残る」とも言われる。

なお、このぬっぺふほふには別説があり、中国の古い書物にある「封(ホウ)」ではないかというものだ。

この「封」は、中国では「土中に突如現れる肉の塊」であるといい、その肉は食べることができ、食べれば多くの力を得ることができるのだという。このエピソードは、かの徳川家康が「封」に出会ったというもので、慶長14年4月4日の駿府城であったと、「東武談義」にある。日付や場所がやけに具体的であることは興味深いところだ。

しかし実際に「ぬっぺふほふ」が現れたとしても、それを「よし、食べよう」と思えるかは微妙なところだ。

おわりに

怪談話
最新の科学や、便利な電子機器の発達によって、すっかりオカルトブームは下火となってしまった。近年ではオカルトが好きという人も少ない。

しかし、泰平の世であった江戸時代にも、多くの人が「怪異」を語った。「何だかよくわからないもの、怖いもの」に対しての関心は、いつの時代も人々の心の中にあるものなのかもしれない。江戸時代の人々の間で流行した怪異譚と、現代で流行している都市伝説に類似も見える。

「不気味」や「恐怖」を求める心は、当時も今も変わらないのかもしれない。

 

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草の実堂編集部

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