西洋史

黒魔術の歴史 「サバトと魔女狩り」

中世ヨーロッパでは、魔術による儀式が盛んに行われていた。

民衆の間では素朴な祭りの延長であったが、頽廃的な貴族の間に伝わると、それはおぞましい儀式へと変貌していった。

欲望の象徴

黒魔術の歴史

【※キリスト教の悪魔であるバフォメット wikiより引用】

山羊の頭を持つ両性具有の悪魔「バフォメット」は、魔女たちの崇拝の対象となっていた。上げられている腕には「Solve(溶解させる)」、下がっている方に「Coagula(凝固させる)」と記されている。

その意味は卑金属から貴金属を作りだす錬金術や、人間の知の在り方や変革といった、広い意味での錬金術に応用されている。

こうした存在は、人の欲望が生み出した。

人は常に他人が持ち得ない強大な力を欲するものだ。それは体力の場合もあれば知力の場合もある。他者を圧倒する権力を欲する人も少なくないだろう。今ではその存在を信じる者は少ないが、その力を手にできれば現実世界を変えることができると信じられている魔術もそうだ。

キリスト教による迫害

黒魔術の歴史

古代では世界各地の部族社会において、シャーマンや呪術師といわれる人物が指導者的なポジションに立ち、さらには病気治療や祈祷、雨乞いなどの儀式を執り行っていた。日本の卑弥呼もまさにそうした例である。そして、占術や呪術を用いて、人々の悩みを解決するようなこともしていた。

やがて、古代文明の発展と共に、魔術を行う者たちは気象や薬草、天文といった知識を身に付けるようになる。

だが、ローマ帝国が一神教であるキリスト教を国教に定めると、すべての物に霊魂が宿っているというアニミズム的な考えは邪教とされ、迫害・排除の対象とされた。とはいえ、人の欲望がなくならない限り、魔術に魅了される人は後を絶たない。

中世になると、ヨーロッパ全土が魔術の恐怖に覆い尽くされてしまうのだ。15世紀になると、悪魔と結託してキリスト教社会を転覆してやろうと考える背信者のことを、新種の「魔女」と考える風潮が瞬く間に広まった。同時に、それらを取り締まる力も働くようになる。

サバトと魔女狩り

黒魔術の歴史

【※サバトに集う悪魔と魔女たち wikiより引用】

こうして始まった魔女狩りは、かつては12世紀以降にキリスト教会が主導して行ったといわれていた。

しかし、1970年代以降の研究により、魔女狩りへと至った原動力は、民衆の無知から発した集団ヒステリーだったと考えられている。ただし、その根底には、中世まで生き残った古代の風習は、すべて悪魔的と見なされていたことも忘れてはならない。

例えばケルト民族に伝わっていた5月1日の樹木祭やバッカス祭、ディアナ祭などは、すべて妖術使いが行う「サバト」とされたのだ。

サバトは、中世ヨーロッパで行われていた魔女や悪魔を崇拝する集会のことだが、どんな儀式が行われていたのかの記録は宗教裁判時の告白に由来しているので、正確さには欠ける。妖術使いが空を飛ぶために、炉の前で裸になって全身に香油を塗ったということは、どの悪魔学者も認めており、香油は興奮剤にも使われたという。

女妖術使いが用いるホウキは神聖なかまどの象徴に過ぎなかったが、悪魔の道具とされてしまい、豊穣を称える性的な儀式も禁じられたのだ。

民衆の反逆

【※黒ミサに傾倒したモンテスパン侯爵夫人 wikiより引用】

こうした抑圧は、かえって人々の反感を買ってしまう。サバトに参加した多くの人たちは、階級社会や教会の秩序に反逆し、縛られない自由やフリーセックスを求めていたのである。多くは社会的にも性的にも満たされていない、無知な民衆たちであり、貧しい彼らの開放的なお祭りの一種だったのである。

しかし、魔術の力を借りて他人に危害を加えたり、自分の欲求を満たそうとした人たちも少なからず存在したことは確かだ。彼らが行う呪術こそが「黒魔術」だった。しかも中世には、それぞれが教会内で行われるようになり、「黒ミサ」と呼ばれ、いかにも秘密めいた、陰惨なものへと変質していったのである。暗い儀式の象徴として、裸の女性が祭壇となり、司祭と祭儀的な性交を繰り返す。さらにキリスト教のミサではワインをキリストの血に見立てて飲むが、黒ミサでは幼児の血を飲みほした。

なかでも、1,500人の嬰児を殺害したモンテスパン侯爵夫人が有名である。

呪術の裏と表

こうした黒ミサに参加するのは、民衆とはほど遠い頽廃的な生活を送っていた貴族たちだ。そして、黒ミサを執行する司祭は、悪魔と契約した破戒僧である。儀式には生贄も不可欠で、16世紀のフランスの女傑「カトリーヌ・ド・メディチ」が行った、美少年の首を刎ねたおぞましい儀式の記録も残されている。

黒ミサのような裏の信仰が広まる一方で、古代からの知識は「錬金術」としてヨーロッパに広まった。

古代ギリシアの哲学者「アリストテレス」らは、万物は「火」「風」「水」「土」の四大元素から構成されると考えていた。そこから卑金属を貴金属に変えてしまおうと「錬金術」が生れ、エジプトのアレクサンドリアからイスラム世界にわたり、12世紀にはイスラム錬金術がラテン語に翻訳され、ちょうど悪魔崇拝と時を同じくしてヨーロッパで花を咲かせたのだ。

最後に

黒魔術も錬金術も、起源をたどると民間信仰の延長である。冒頭のように人は力を欲して色々な方法を考えた。そこに貴族や宗教的指導者のような身分的に守られた人々が、ハイリスク・ハイリターンともいえる手段に走った結果が凄惨な黒ミサと結び付いたのである。

一方で、民間信仰のまま姿を変えて生き残ったのがサバトであった。

参考文献:「図解 黒魔術

 

  • Xをフォロー
好きなカテゴリーの記事の新着をメールでお届けします。下のボタンからフォローください。

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

草の実堂Audio で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 『文豪トルストイの意外な最期』 妻に過去の女性遍歴を暴露、夫婦仲…
  2. 『精神病を患った天才画家』 ルイス・ウェイン ~妻と猫を愛した波…
  3. 【教皇vs皇帝】 皇帝が教皇に屈辱的な謝罪をした「カノッサの屈辱…
  4. 4250年前(青銅器時代)の女性・アヴァ ~その生と死の謎に迫る…
  5. 『英国の天才詩人』バイロンが人生を狂わせた理由とは 〜異母姉との…
  6. 世界最強の戦闘民族、スパルタ人について解説 「過酷すぎる訓練」
  7. 戦争論 〜「現在も各国の軍の教育に用いられている名著とは?」 ※…
  8. なぜライオンやドラゴンなのか? 中世ヨーロッパの紋章の歴史

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

マリーアントワネット について調べてみた【非運の王妃】

<出典:Wikipedia>マリー・アントワネットへの批判マリー・アントワ…

毛利元就にとって何より辛かった嫡男・隆元の死因とは 「食中毒説、毒殺説」

今回は、毛利元就の嫡男、第13代当主の毛利隆元(もうりたかもと)の死の真相について触れていき…

『江戸時代の寛政三美人』蔦重が見出し、喜多川歌麿が世に送った3人の美女とは

現代ではテレビ、新聞、雑誌といった「マス広告」に加え、インターネットやSNSも広く使われていますが、…

上杉景虎について調べてみた

上杉謙信ではなく、長尾景虎でもない上杉景虎という武将の話である。長尾景虎との混同を避…

「日本が羨ましい」なぜ韓国で反中デモが拡大したのか?「チャイナ・アウト」の声

2025年11月、秋の深まりとともに冷え込むソウルの街角で、普段の賑わいとは異なる異質な熱気が渦巻い…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP