熊谷次郎直実とは
熊谷次郎直実(くまがいじろうなおざね)は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した武将である。
源頼朝をして「日本一の剛の者」と言わしめたほどの源氏の武将であるが、その武勇を請われて平氏方について戦って頼朝を追い詰めたが「自分にも源氏の血が流れている」と思いとどまり、頼朝を平氏から救い出す。
その後、源平合戦で武功を挙げ、特に一の谷の合戦で敵方・平敦盛の首を取ったことは歌舞伎や能などでもよく知られている。
鎌倉幕府では頼朝に近い武将として仕えるが、武士として生きることに失望し、ある事件で頼朝との仲も壊れ、無敵の剛勇無双の武将は出家してしまった。
「日本一の剛の者」と頼朝が絶賛した武将・熊谷次郎直実について前編と後編にわたって解説する。
出自
熊谷次郎直実は、永治元年(1141年)大里郡熊谷郷(現在の埼玉県熊谷市)を本拠地とした熊谷直貞の次男として生まれた。
熊谷氏は桓武平氏・平貞盛の孫・維時の6代の孫を称するが、武蔵七党の私市党、丹波党の分かれともされ明らかではない。
幼名を弓矢丸といい、その名の通り弓の名手として知られる。通称は次郎で諱は「直実」である。
幼い時に父を亡くし、母方の伯父・久下直光に養われた。
その環境にもめげずに勉学に熱中し、そのことが後の人間性にも大きな影響を与える。
弓・馬の武術や、荒川での水泳、河原で大きな石を持ち運んだりと身体を鍛え、亡き父に負けないような強い武士になろうと武芸の道に励み、周囲の人たちが驚くほど強くたくましく育ったという。
15歳の時に元服して名を「熊谷次郎直実」と名乗った。ここでは「直実(なおざね)」と記させていただく。
直実が16歳の時、保元元年(1156年)7月の「保元の乱」が起こり、源義朝の家来として戦い初陣を飾った。
それから3年後の平治元年(1159年)に「平治の乱」が起き、直実は勇ましく戦ったが源氏が敗れ、仕えていた源義朝は討ち取られた。
この後、平氏全盛の時代が続く中、嘉応元年(1169年)伯父・久下直光が、御所の護衛や京都の警備をする格式の高い「大番役」を命ぜられる。
しかし伯父は高齢だったので、家族の反対を押し切ってその職務を直実に譲った。
直実は源氏の命を受け、伯父の名代として大番役の大役を立派に果たすが、何分伯父の代理であることから、周りから良い目で見てはもらえなかった。
そんなある日、直実は日頃のうっぷんを晴らすために、賀茂川の河原で行われた相撲大会に飛び入り参加をした。そして優勝してしまったのである。
その勇ましい姿を敵方である平氏の平知盛(たいらのとももり)に気に入られ、直実はそのまま平氏の家来になってしまった。
平知盛は時の最高権力者・平清盛の三男であった。
それを知った伯父・直光は激怒し、直実を勘当扱いにしてしまった。
直実は面白くなかったが、気にも止めずに平知盛に仕えるのであった。
石橋山の戦い
治承4年(1180年)後白河法皇の皇子・以仁王が、平氏追討を命じる令旨を諸国の源氏に発した。
伊豆に流されていた源頼朝が、挙兵を決意して坂東の豪族たちに呼びかけ、8月17日には頼朝の命を受けた北条時政らが伊豆国の目代・山木兼隆を討ち取り、頼朝は伊豆を制圧しようとした。
しかし、山木兼隆を倒しても頼朝の兵力では伊豆1国を掌握するにはほど遠く、平氏方の攻撃は時間の問題であった。
頼朝は相模国の三浦半島に本拠を置く三浦一族を頼みとしていたが、遠路のためになかなか到着してこなかった。
これに対して平氏方の大庭景親が俣野景久・渋谷重国・海老名季員・熊谷直実ら3,000余騎を率いて迎撃に向かったのである。
同年8月23日、頼朝は300騎で石橋山(現在の神奈川県小田原市)に陣を構えた。
この日は大雨で、援軍の三浦一族は酒匂川の増水で足止めされ、頼朝軍と合流ができなかった。
頼朝軍は力戦するが、多勢に無勢で大敗し、頼朝は辛くも土肥の椙山に逃げ込んだ。
翌24日、大庭軍は追撃の手を緩めず、逃げ回る頼朝軍の残党は山中で激しく抵抗した。頼朝も弓矢を持って戦い百発百中の武芸を見せたが、「皆とはここで別れて雪辱の機会を期すように」と仲間と涙を流して別れた。
大庭軍は山中をくまなく捜索した。この時、大庭軍の梶原景時が頼朝の隠れていた「しとどの窟(いわや)」に気づくが、情を持ってこれを隠して頼朝の命を救った。
この時、直実も頼朝が隠れていたことに気づいたが、「逃がすか捕らえるか」悩んだ末に自分にも源氏の血が流れていると考え、頼朝を見逃したのである。
命を救われた頼朝は、後に直実の源氏追放や勘当を解いた。
関東一帯の源氏の勢力が鎌倉に集結した時には直実も頼朝に忠誠を誓い、再び源氏の家来になったのである。
梶原景時は、このことが縁で頼朝から重用されるようになる。
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