UFO,宇宙人

宇宙服を着ずに宇宙空間に出ると、本当に肉体は破裂するのか?

宇宙空間で肉体が弾け飛び、眼球や血液が沸騰するSF作品の数々

民間人の宇宙旅行が可能になった今、宇宙は私たちにとってより身近なものになりつつある。

50年後、100年後には科学技術の進歩により、多くの人たちが現在よりもずっと簡単に宇宙旅行できるようになっていることだろう。

それでも、宇宙旅行には人間にとってクリアしなければならない多くの課題や過酷な環境が伴うのには違いない。

宇宙旅行するにあたり、必要不可欠なのが「宇宙服」だ。

宇宙服は、人間が生きるために必要な空気(酸素)、水、圧力を供給し、物理的保護の役割をすることで、人間は短い時間だが宇宙船の外に出て活動することができる。

しかし、宇宙服を着ずに宇宙船の外に出たら、どうなってしまうのだろうか?

『トータル・リコール』や『アウトランド』など、数々のSF映画やドラマでは、宇宙服を着ないまま意図せず宇宙空間に露出した人間たちが、肉体が風船のように膨らんで内圧に耐え切れず破裂(爆発)したり、眼球や鼻や耳から沸騰した血液が噴射したりといった、無惨に死にゆく様子が描かれている。

そういった悲惨な描写を見てしまうと宇宙旅行への夢が一気に醒めてしまう気もするが、現実の世界で宇宙服なしで宇宙空間に放り出された場合、実際にそのような無惨な死に方をすることになってしまうのだろうか。

肉体自体は破裂しないが、体内で肺は破裂する

Amazon prime Videoで配信されているアメリカのSFドラマ『エクスパンス 〜巨獣めざめる〜』には、人間が宇宙服を着ないまま宇宙空間に放り出されるシーンが多く登場するが、肉体が破裂して死亡するようなシーンは描かれていない。

画像 : Amazon配信ドラマ「エクスパンス 〜巨獣めざめる〜」

宇宙空間に投げ出された登場人物が緩んだワイヤーを取り外すために、ゆっくりと息を吐きながら宇宙服のヘルメットのバイザーを開ける緊迫したシーンがあるのだが、局側はこのように解説している。

「宇宙は真空である。

つまり、そこに漂う粒子は何もないということだ。

ここに人が暴露すると、肺の中の空気は口から漏れるしかない。

息を止めてしまえば大変なことになる。

残った空気が急激に膨張して、肺を破裂させてしまうからだ。

また、一瞬で凍ったり、眼球が破裂したりすることはないが、舌の上の唾液や汗が沸騰するのを感じるだろう。」

宇宙空間には酸素がないので呼吸することはできないが、自分の肺に残っている空気を微量に吐き出すことを意識するだけでも、死への時間稼ぎがほんの少しだけできる可能性はあるということだ。

ヨーロッパ22カ国の共同宇宙開発・研究機関、欧州宇宙機関(ESA)の上級戦略官、ステファン・デ・メイも、人間が宇宙服なしで宇宙空間に出てしまった場合、想定される肉体の変遷について、

「10~15秒という非常に短い時間内に、まず酸素不足で意識を失うだろう。

その後、酸素が膨張し始めて肺が破裂する。

すると、体内の血液が沸騰して泡立ち、すぐに塞栓症 (血流内に外部から入った異物、または血管内に生じた血栓が遊離して他臓器に運ばれ、末梢血管または臓器血管を閉塞する現象) を引き起こし、体に致命的な影響を及ぼすことになる。

しかし、人間の皮膚には圧力の変化に対処するのに十分な弾力性がある。

肉体自体が破裂するような、恐ろしい映画描写は正確ではない。」

と述べている。

宇宙空間で意識が明晰なまま肉体が破裂して死亡することはないが、呼吸困難で意識を失う直前に口の中の唾液や目から流れる涙、血液などの体液が沸騰し、体内が焼ける熱さを体感しながら死亡する可能性はあるようである。

死に至る肉体変遷を変えることはできないため、数分以内に宇宙服を着た仲間に救助され、酸素が豊富で加圧された安全な宇宙船内で蘇生措置が取られることを願うしかないようだ。

極端な温度に放射線、微小隕石に宇宙ゴミ……宇宙は危険でいっぱい

デ・メイ氏はそれ以外にも、

「極端な『気温』の問題、『放射線』と『微小隕石』の脅威がある。」

と宇宙特有の環境による悪影響も示唆している。

地球の低軌道上では、地球が太陽の光を浴びている時は120度の灼熱地獄に、逆に太陽が地球の影に隠れているタイミングではマイナス150度の極寒地獄となり、大ヤケドあるいは凍傷を引き起こす可能性があるという。

画像 : 地球周辺の衛星の軌道。水色が低軌道、黄色が中軌道、黒色の点線が静止軌道を表している。 パブリックドメイン

真空中では体温が伝わりにくいため一気にヤケドしたり凍ったりすることはなく、徐々に侵されてゆくことになるが、その間に酸欠で意識を失っている可能性の方が高そうだ。

また、太陽からの電磁放射線に肉体が長時間さらされると、放射線障害やガンのリスク増加などの健康上の問題が発生し、紫外線は皮膚をヤケドさせる。

微小隕石は1gにも満たない小さな岩石の欠片だが、宇宙空間を秒速で数kmから数十kmの猛スピードで飛来しているため、衝突事故による物理的危機をもたらすことになる。

画像 : 南極の雪から採取された流星塵。地球の大気に突入する前は微小隕石であった。 パブリックドメイン

宇宙服は、生命維持装置としての役割だけでなく、軌道上を飛び交う微小隕石や宇宙ゴミから肉体を保護するために、複数の層で設計されているという。

呼吸困難による意識不明状態から死に至るのが一番マシ?

宇宙服なしで宇宙空間に投げ出されても、現実的には肉体が八つ裂き状態で破裂することはないが、酸素の膨張による肺の破裂や、体液の沸騰による口内や眼球のヤケドを体感してしまう過酷な可能性はゼロではない。

一番マシなのは、呼吸困難の苦しみは感じるかもしれないが、10秒ほどで酸欠による意識不明状態となって、そのまま先に紹介した肉体的変遷をたどって死に至るプロセスなのかもしれない。

人類の宇宙旅行への夢は膨らみ、その可能性は日に日に現実のものとなりつつあるが、最悪の場合、これらの悲惨なシナリオを体験する可能性も念頭に起きながら宇宙開発のプロセスを見守る必要がありそうだ。

参考 : How long could you survive in space without a spacesuit? | space.com

 

藤城奈々 (編集者)

藤城奈々 (編集者)

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ライター・構成作家・編集者
心理、人間関係のメカニズム、スピリチュアル、宇宙
日本脚本家連盟会員

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