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「臨死体験?」死ぬ瞬間、脳内には300倍の「ガンマ波」が発生する 【米の神経科学者が研究発表】

ガンマ波

イメージ画像 : 脳内

「死ぬ瞬間」の科学的研究はほとんど進んでいない

」は、誰もが避けて通れないにもかかわらず、その瞬間の身体的かつ心理的な現象について、科学的に解明されていることはほとんどないに等しい。

それでも、その研究はゆっくりだが着実に進められている。

ミシガン大学医学部の神経科学者ジモ・ボルジギン氏と研究チームは、死の瞬間に発生する、特徴的な脳波状態をキャッチすることに成功した。

2013年の研究で、心停止によって安楽死させたラットの死の瞬間の脳の電気活動を測定。

ラットの心臓が停止してから約30秒間、脳内で「ガンマ波」と呼ばれる最高周波エネルギーの発生と急増を発見したのだ。

「ガンマ波」の発生は、意識経験と相関はしているものの必ずしも意識があることを証明するわけではないが、科学者たちにとってこれは画期的な発見であったという。

2022年、偶然計測できた「人間の死の瞬間の脳波状態」

2022年には、別の医師グループが、87歳の男性の脳をEEG(脳表面の電気活動を検出する脳波計)で監視していたところ、男性が予期せず死亡してしまい、偶然にも死の過程を体験した人物の脳波を計測することに成功した。

すると、ボルジギン氏が研究したネズミと同様、死亡した男性の脳内にも、心臓が停止する前後30秒間で最高周波エネルギー「ガンマ波」の活性と急増を示したのだ。

ガンマ波

イメージ画像 : 脳の世界

「脳がどのように死滅するか」秒ごとに示した最初の研究

87歳の男性の症例を受け、ボルジギン氏と彼女のチームは、集中治療室ですでに治療の余地がなく呼吸補助装置が取り外された、4人の瀕死の患者たちを監視する許可を得て、EEGで人間の死亡時の脳内の様子を記録した。

全員が心停止後に昏睡状態に陥った後、人工呼吸器が外されてから30秒から2分の間に4人の患者のうち2人の脳内でガンマ波の発生と急増が見られたという。

とくに、耳の後ろの脳の後方にある、側頭葉と頭頂葉が交わる「脳領域側頭頭頂接合部」で「ガンマ波」が活発化した。

ボルジギン氏によると、「脳領域側頭頭頂接合部」という脳の領域は、人が幽体離脱や夢を見ると活性化することが知られているという。

そして、「ガンマ波」は明晰夢や幻覚、高僧による深い瞑想中などに発生するといい、脳領域と脳波で同質のエネルギーが合致したことになる。

2023年5月、『ジャーナルPNAS』に掲載されたボルジギン氏の新しい研究発表には、

「一部の人々の人生の最期の瞬間。

呼吸が止まり、脳の機能が停止する前に、意識を反映していると思われる驚くほど組織的な高周波エネルギー『ガンマ波』の電気活動の急増が、時々発生する可能性があることがわかった。

脳には、体内の酸素量レベルを感知する敏感なメカニズムがあり、心停止に伴って血液の循環が止まった時、脳活動が活発になると推測される。

また、死に近づく患者の脳内では、生命の危機に際し、現代の科学では解明されていない意識的な体験が繰り広げられている可能性もある。」

と記された。

2人の患者から計測されたガンマ波は、健康な人間の脳で観測されるレベルよりもはるかに高いレベルで検出され、生存患者の最大300にも達したという。

高周波エネルギーであるガンマ波急増の活動パターンは、死を間近に感じた人々が光や三途の川や花畑を見たり、すでに他界した親しい人に出会うといった異世界の体験(いわゆる臨死体験)にもつながるのではないかと推測できるという。

ガンマ波

イメージ画像 : 臨死体験のイメージ

しかし、やはり新しい研究の患者たちは最終的に死亡しているため、彼らが実際にそのような経験をしたかどうかを知ることは不可能であるというジレンマに陥ることになった。

ボルジギン氏は、

「死の瞬間の脳の活性化は、患者の意識処理の上昇を示してはいるが、臨死体験を証明するものではない。

また、ガンマ波の急増は、臨終特有の病理学的プロセスの兆候であり、意識的な処理とは無関係の可能性もある。

死の過程について、私たち科学者が理解していることはほとんどない。

しかし、患者が死亡するまで、脳が継続的に監視されることは稀である。

おそらくこれは、脳がどのように死滅するかを秒ごとに実際に示した、最初の研究となるだろう。」

と、臨死体験や死亡時の意識の有無に対しては慎重な姿勢をとりつつも、画期的な研究結果であったことを『LIVE SCIENCE』に話している。

医学専門家のあいだで対立する見解

タルトゥ大学の神経科学者でデータサイエンティストであるラウル・ビセンテ氏は、

「ボルジギン氏の新たな発見は、2022年に観測された87歳で予期せず死亡した患者に見られたことと同じで、確証が得られたのはとてもうれしいことだ。」

と語った。

ウィスコンシン大学の神経外科医、アジマル・ゼマール氏も

「より一貫した発見があればあるほど、これが死亡の瞬間に起こっているメカニズムである可能性が高いという証拠が多くなり、1つの正確な結論まで突き止めることができれば、さらにすばらしいことになる。」

と述べている。

ゼマール氏とビセンテ氏は、今回の研究結果は「死の瞬間の意識体験の兆候である可能性が高い」としている。

一方で、コペンハーゲン大学、神経内科医のダニエル・コンジエラ氏は現場での議論を反映し、彼らの見解に懐疑的な見方をしている。

「脳死ではなく心臓死で死に至る場合、心臓が止まってから脳細胞が死ぬまでには数分かかる。

その数分間は、脳内に異常な電気生理学的活動が見られるので、それほど驚くべきことではないのではないか。

こうした瞬間に臨死体験のような経験をする人もいるかもしれないが、それを確実に知ることは決してできない。

臨死体験を報告して生き残った人々は、亡くなった人々とは本質的に異なる。

たとえば、彼らの脳は永久に機能を失ったわけではない。

亡くなった人々は脳の機能が永久に失われており、この違いはとても大きい。

実際に亡くなった人々も臨死体験のような主観的な体験をしているかどうかを判断するのは、非常に困難である。」

死ぬ瞬間の人間の脳内で高周波エネルギーが発生、急増することは観測されたが、それが本人の霊的体験、感覚的体験に直接結びつくかどうかはわかっておらず、どのような意味や体験的現象を起こすかは、今後の研究解明にかかっている。

死ぬ瞬間の明確なコミュニケーションが可能になる未来

イメージ : 死ぬ瞬間

ボルジギン氏のチームは、現在も終末期データを収集しており、「死につつある脳が、予測可能なガンマ波パターンを生成する可能性がある」という証拠を追加したいと考えている。

さらに、ボルジギン氏の研究結果をポジティブに捉えているビセンテ氏とその研究グループは、人工知能を利用して「人々が夢の中で見たものを特定する研究」を行っている。

ビセンテ氏は、

「この研究が成功すれば、意識不明の患者や瀕死の患者に対しても、夢見と同様の読心術ができる可能性が高まり、昏睡状態にある人々が『何を感じ、何を考えているか』解読できる日がくる。」

と期待を寄せている。

意識を失い死の瞬間を迎える家族や大切な人と、最期の貴重なコミュニケーションをとれる日が、そう遠くない未来にやってくるのかもしれない。

参考 :
Surges of activity in the dying human brain could hint at fleeting conscious experiences | LIVE SCIENCE
『死ぬ直前に味わう5つの感情 ~アメリカ精神科医 エリザベス・キューブラー・ロス博士による臨床研究』

 

藤城奈々 (編集者)

藤城奈々 (編集者)

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草の実堂 専属編集者

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