ハシビロコウは、アフリカの湿地に生息する、人間ほどの大きさの鳥類だ。
最大で150cmにも達する巨体と、靴のような形をした巨大なくちばしを持つ、まるで古代生物のような風貌をしている。
首を小刻みに揺らすことから「おじぎをする鳥」と呼ばれ、近年人気が上昇している。
日本では、静岡県掛川市にある掛川花鳥園で飼育されているハシビロコウの「ふたばちゃん」が有名だ。
普段は動きが鈍く、じっと静止していることが多いハシビロコウだが、獲物が近づくと素早く動き出し、鋭いくちばしで捕らえる。
そのくちばしの長さは30cmにも達し、世界で3番目に大きいくちばしを持つ鳥類である。
本稿では、ハシビロコウの魅力について紹介する。
目次
ハシビロコウとは
ハシビロコウ(嘴広鸛、Balaeniceps rex)は、ペリカン目ハシビロコウ科ハシビロコウ属に分類される大型の鳥類である。
頭頂までの高さは1.1m〜1.4m、中には1.52mに達する個体もある。
翼開長2.3m〜2.6m。
体重4〜7kg。オスは平均5.6kgと、メス(平均4.9kg)よりも大きい。
羽色は青みがかった灰色で、後頭に短い冠羽がある。
全身灰色で木靴型の大きなくちばしをもつ。そのため別名「シュービル(Shoebill)」とも呼ばれる。
東アフリカのタンザニア、ウガンダ、ザンビア、ケニア、コンゴ民主共和国などの湿地帯に生息している。
ハシビロコウは留鳥で、渡りをせず、年間を通して同じ場所に生息し、季節による移動をしない。
ゆったりとした動作が特徴で、餌を待ち伏せしている間の数時間、完全に動きを止めることがあるため「動かない鳥」としても知られる。
ハシビロコウの食料の大部分を占めるのはナマズであり、全体の約7割を占めているが、魚類、ウナギ、ヘビ、さらには子ワニさえも捕食することが知られている。
ハシビロコウのミュニケーション
ハシビロコウが、ペコリとおじぎをするのは有名だが、首を振りながらおじぎをするのは、親愛の情を示しているのだという。
更にあまり鳴く事のないハシビロコウは、その代りにクチバシを叩き合わせて音を出して仲間とのコミュニケーションを取る。
これは「クラッタリング」という親愛、求愛、威嚇などの感情を表すコミュニケーション方法の一つだ。
その音は、まるで銃撃戦が始まったかのような爆音である。
ハシビロコウは、おじぎとクラッタリングによる爆音の挨拶で好意を示すのだ。
ハシビロコウの驚異的な狩り
ハシビロコウは、長く細い脚をうまく使って獲物に近づき、巨大なくちばしで捕食する恐るべきハンターだ。
ハシビロコウは餌とする肺魚が息継ぎのために水面に浮かんでくるまで、まったく動かないまま長時間待ち伏せし、獲物が近づくと一瞬の隙も与えずに素早く飛びかかる。
鋭いくちばしで頭をしっかり狙って獲物を捕え、くちばしで数回咀嚼してやわらかくした後、丸呑みにして食べる。
その力強いくちばしは、骨さえも簡単に砕いてしまうほどだ。
ただ、咀嚼中に獲物を落としたりするので、食べ方が下手だと思われている。
食べ終わると、くちばしを洗ったり水を飲んだりする。
クチバシの中の魚の汚れや、ウロコを何回か洗うなど、きれいにするのだ。
ハシビロコウの繁殖 「一夫一妻制で育つのは1羽だけ」
ハシビロコウは普段は単独で生活しているが、繁殖期になると一夫一妻のペアを形成する。
しかし、ハシビロコウはとても孤独を好む鳥で、繁殖期であってもオスとメスはそれぞれ別の縄張りを持つことを好み、一緒に過ごすことはほとんどない。
ハシビロコウは水草やスゲなどの植物を使って、水辺に大きな巣を作る。
1度に2~3個の卵を産むが、兄弟間の競争が激しいため、通常は最初に生まれた体が大きい個体だけが生き残る。
これは生まれた順に餌を独り占めしたり、兄弟を殺したりするからだ。
さらに母親が兄弟喧嘩で勝った方にだけ、餌や水を与える場合もあるのだという。
そのため、2番目と3番目の雛は、最初の雛が生き残らなかった場合の保険のような存在になっている。
ハシビロコウ 「意外な近縁関係と長い進化の歴史」
ハシビロコウは、見た目がコウノトリに似ていることから、誤ってコウノトリの一種とされることがある。
しかし、ハシビロコウは「ハシビロコウ属」の唯一の種であり、「ハシビロコウ科」という独立した科に属している。
ハシビロコウの最も近い現存種はペリカンであり、約1億4500万年前から6600万年前の白亜紀後期に現れた「ペリカン目」の祖先から進化したと考えられている。
ハシビロコウ 「絶滅危惧種に指定」
生息地の環境破壊、水質汚染、巣の破壊、狩猟・捕獲などにより、ハシビロコウの生息環境は悪化し、生息数は減少している。
ハシビロコウは、2018年に国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧II類として登録されており、現在5,000羽から8,000羽しか残っていないと考えられている。
その他
実際の寿命は解明されていないが、高齢になるに従い瞳の色が金から青に変化する。
一般的な大型鳥類と同様、比較的長寿であるといわれている(日本国内で最も長寿だったハシビロコウは推定年齢50歳以上)
性格が攻撃的で、動物園などでは一つの鳥舎に複数の個体を入れておくと、互いに激しくつつき合って喧嘩をする。
さらに、人間による飼育期間が長くなるほど、攻撃性が高まる傾向がある。
このため、人の手による繁殖は非常に難しく、世界的にも手詰まりの状態となっている。
ハシビロコウがいる日本の動物園
・千葉市動物公園(千葉県)
・恩賜上野動物園(東京都)
・掛川花鳥園(静岡県)
・神戸どうぶつ王国(兵庫県)
・松江フォーゲルパーク(島根県)
・高知県立のいち動物公園(高知県)
さいごに
ご紹介したように、ハシビロコウは、独特な生態と個性を持つ興味深い鳥だ。
この鳥の魅力について、さらに知りたい方は、YouTubeなどの動画を是非見ていただきたい。
どんな風に挨拶するのか、なぜ動かない鳥といわれているのか、狩りの様子を見れば、きっとこの鳥が好きなるのではないだろうか。
飼育下においての繁殖が難しいといわれているが、なんとか解決方法を見出してほしいものだ。
参考 :
Shoebill | Balaeniceps rex
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