戦国時代

【兜の歴史】 戦国武将たちが愛用した「変わった兜」とは

戦国武将と兜

【兜の歴史】

画像 : 武田信玄 public domain

戦国武将たちが愛用した兜は、どれも華やかでユニークなものが多かった。

うっとりと見惚れてしまうほどカッコ良い兜もあれば、思わず笑ってしまうような兜など多種多様であった。

武将たちは、なぜこのような変わった兜をつけたのだろうか。その理由は、単に頭部を守るための防具以上に、戦場で目立ち、威厳や地位を誇示するためでもあった。

今回は、戦国武将たちの兜の歴史と、そのユニークさについて掘り下げてみたい。

兜の部位と歴史

兜は、いくつもの部位から成り立っている。「前立て」「兜鉢」「八幡座」「吹返」「錣(しころ)」「眉庇(まびさし)」「目庇(めびさし)」「面頬(めんぼお)」といった部位があり、それぞれに名前が付いている。

平安時代中期には「星兜」と呼ばれる、鉄の板をつなぎ合わせる鋲(びょう)が丸い突起状になった兜が登場した。

【兜の歴史】

画像 : 小星兜 wiki c Samuraiantiqueworld

南北朝時代になると、戦いの形態が変わり、兜の軽量化と打撃からのダメージをそらすための「筋兜」が登場した。

【兜の歴史】

画像 : 筋兜 wiki c Rama

戦国時代には、さらに個性的な「変わり兜」が現れるようになった。

これらは単なる防具ではなく、武将の個性を反映し、その威厳を誇示するものとして機能した。

以下に「変わり兜」を紹介していこう。

【虫】

加賀百万石の祖・前田利家の兜には「勝ち虫」として知られるトンボが付けられていた。

トンボは後退せず常に前進するため、縁起が良いとされた。

【兜の歴史】

画像 : トンボの兜 by designer-daily

その他に同じ「勝ち虫」とされたのがムカデだった。

トンボと同じく前進しかしないために戦国武将に愛され、伊達政宗の重臣で伊達家一の猛将と言われた伊達成実もムカデを選んだという。

また、蝶も人気のモチーフであった。毛虫から蛹(さなぎ)を経て蝶に変わる過程が、蘇りや不死の象徴とされ、戦場で生死をかける武将たちにとって好ましいものであった。

また、蟷螂(カマキリ)はその動作から、敵を刈り取る象徴として用いられた。

【動物】

動物の中で以外にも人気が高かったのは、(ウサギ)である。

画像 : 《黒漆塗六十二間小星兜 兎耳脇立》東京富士美術館蔵  public domain

ふわふわとして可愛い小動物というイメージがある兎だが、動きが俊敏で繁殖力が強いため、縁起が良いとされた。

上杉謙信は、ウサギの耳を大胆にデフォルメした兜を愛用していた。

鳥類では燕(ツバメ)が人気で、その尾をモチーフとした兜が作られた。燕は農作物を荒らす害虫を食べるため、人々に大切にされていた。

また、五大明王の一つ「大威徳明王」が牛に乗っていたことから、牛の頭を使った兜も作られた。

仙石秀久の家臣・谷津主水が被ったのが猿の兜だった。
戦場で「災いが去る」という魔除けの意味があり、似たように熊の頭部を兜に付けたものもあった。

薩摩の猛将・島津義弘が、前立てに狐(キツネ)をつけていたことも有名である。

【魚介類】

魚介類を象った兜も存在した。

画像 : 《鯱形兜》東京富士美術館蔵 「東京富士美術館収蔵品データベース」収録 public domain

名古屋城で有名な鯱(シャチホコ)は、火災の際に口から水を出して火を消すと信じられ、守り神とされた。

海老(エビ)はその姿が鎧をまとっているように見えることから、具足を身にまとった武者を連想させ、好まれた。
伊勢エビを殻ごと輪切りにして煮る料理を「具足煮」と言うのはその名残である。

蟹(カニ)は子孫繁栄の象徴とされ、脱皮を繰り返すことから吉祥とされた。

栄螺(サザエ)はその固い殻が対峙した敵に対する強い防御力を連想させ、栄の文字が入っていることから好まれた。

鯰(ナマズ)は地震を起こす魚と信じられ、大地に対する信仰と結びついて兜の意匠として取り入れられた。

その他

伊達政宗は、莵(月)の妙見信仰につながるために、大きな三日月の前立てをした兜を愛用していた。

武田信玄は白い毛のついた兜を被っていたが、それはヤクという外国の動物の毛だった。

加藤清正は、長く伸びた烏帽子で有名である。

画像 : 加藤清正像 wiki c Gnsin

黒田官兵衛は、「合子(ごうす)」と呼ばれる蓋付きのお椀を象った兜を愛用していた。

これは、お椀が敵を飲み干す象徴とされたからである。

当初、前立ては鉄で作られていたが、戦国時代には軽くて加工しやすい紙製の前立ても多く作られるようになった。

最後に

戦国武将たちの兜は、単なる防具ではなく、個性と威厳を象徴する重要なアイテムであり、動物や虫、魚介類を象った兜は、それぞれに込められた意味や信仰に基づいて愛用された。

これらのユニークな兜は、戦国時代の武将たちの精神と誇りを今に伝えているのである。

 

rapports

投稿者の記事一覧

草の実堂で最も古参のフリーライター。
日本史(主に戦国時代、江戸時代)専門。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 前田利家【信長の小姓、槍の又左、浪人、数々の逸話】
  2. 後北条氏に仕えた最強忍者・風魔と風魔小太郎 【戦での活躍と風魔一…
  3. 朝倉義景の最後 ~「信長に逆転され金箔のドクロにされる」
  4. 小桜姫が神様に祀られ、人々を救った三浦の伝承 「戦国時代、夫と死…
  5. 火縄銃の殺傷力はどれほどだったのか? ~弓矢との比較(射程、威力…
  6. 竹内久盛について調べてみた【柔術の創始者】
  7. 黒田官兵衛の秀吉時代について調べてみた
  8. 不敗の平法・富田重政【名人越後と呼ばれた剣豪】

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

華族出身のスター女優が生活苦から「化け猫女優」に⋯ 入江たか子、波乱の生涯

戦前の日本映画界に、華族出身のお姫様女優であり、その群を抜いた美貌と気品で人気を得た大スターがいた。…

ジェーン・グレイ【イギリスの9日女王】について調べてみた

イギリスの女王といえば、現女王であるエリザベス2世や、大英帝国最盛期の女王ヴィクトリアを思い浮かべる…

蛇の怨霊に憑り殺された藤原道兼の長男・福足君とは 【光る君へ】

昔から蛇は執念深い生き物とされ、軽々に傷つけたり殺したりして祟られた事例は枚挙に暇がありません。…

後藤又兵衛 ~多くの大名が破格の待遇で欲しがった猛将

後藤又兵衛とは大阪冬・夏の陣に真田幸村(信繁)らと共に大阪城五人衆の一人として活躍したのが 後藤…

夜空を焦がす奇祭!京都洛北・花背で体感する「松上げ」の炎と祈り

京都洛北花背で行われる火の祭り平安京の北方を守護する鞍馬寺から、さらに街道を北へ進むと、花背峠を…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP