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【16年間の逃亡劇】殺人鬼のマフィアのボス、「ピザ職人」で人気者になりすぎて逮捕

2023年2月2日、イタリアンマフィアのボスが、思いがけない場所で発見された。

フランス南東部のサン・テティエンヌにて、イタリアンレストランを経営し、ピザ職人として働いていた男が、 地元紙やFacebookでその料理の腕前を誇示していた。

ところがその男は、殺人罪で終身刑を言い渡され、16年間も逃亡生活を送っていた国際指名手配犯エドガルド・グレコだったことが明らかとなり、国際警察組織インターポールによって逮捕されたのである。

マフィアの覇権争い

画像 : 麻薬密売組織「ンドランゲタ」が拠点とするイタリア・カラブリア州 cc TUBS

エドガルド・グレコは、イタリア南部カラブリア州を拠点とする4大マフィアの一つ「ンドランゲタ」と深く関わる犯罪組織のボスであった。

「ンドランゲタ」は、世界でもっとも強力な麻薬密売組織の一つであり、組織犯罪シンジケートの中でも最大級とされている。

エドガルドは1991年、カラブリア州でバルトロメオ兄弟を撲殺した後、遺体を酸性物質で溶かして消し去るという残忍な手口で殺害した。

この事件により、彼は二重殺人罪で起訴され、終身刑を言い渡された。

麻薬密売組織「ンドランゲタ」と関係する犯罪組織のボスだったエドガルドは、覇権を争うマフィア戦争の中で、2人の兄弟を殺害したのだった。

さらに、複数の刑務所職員を殺害した罪でも有罪となっており、「プリズン・キラー」としても知られていた。

16年間の逃亡生活の中で叶えた「レストランオーナー」の夢

画像 : エドガルドがピザ職人として過ごしたサン・テティエンヌの街並み cc Graooor

しかし2006年、エドガルドは警察の隙をついて逃走し、インターポールは国際指名手配を発布した。

逃亡犯となったエドガルドは、フランス・リヨン近郊の町に移り、「パオロ・ディミトリ」という偽名でイタリア料理店で下働きを始めた。

2014年には、リヨンの南西に位置するサン・テティエンヌに移住し、本場イタリアのピザ職人として働き始める。

彼が焼くピザは非常に評判が良く、瞬く間に地元で大人気のピザ職人になってしまったのである。

画像 : ピザを焼くエドガルド・グレコ イメージ 草の実堂作成

2021年6月には、イタリアンレストラン「カフェ・ロッシーニ」をオープン。

開店後まもなく、フランスの地元紙『ル・プログレ』がエドガルド(偽名パオロ)のレストランを特集し、インタビューまで行っている。

『新鮮な自家製の材料を使用し、本格的なイタリア料理を提供している。これからも家庭的な味を届けたい。』

エドガルドはこのように語り、ラビオリやリゾット、タリアテッレなどの自家製レシピを紹介した。

この特集記事を自身でFacebookに投稿したことが、イタリア検察に目をつけられるきっかけとなり、フランス当局とインターポールが協力し、捜査を開始した。

捜査官は共犯者を通じてエドガルドを監視し続けていたが、彼はその事実に気づいていなかったという。

エドガルドはその後も偽名「パオロ」を名乗り続け、Facebookで定期的に自家製レシピを投稿していた。

その後、覆面捜査官が彼の焼いたピザを買って持ち帰り、容器に付着したDNAを解析した結果、エドガルド・グレコ本人であることも判明した。

次々と逮捕される「ンドランゲタ」の幹部たち

画像 : イタリアンマフィア

近年、世界でもっとも強力なイタリアの麻薬組織犯罪シンジケート「ンドランゲタ」の幹部たちが、ヨーロッパ各地や中南米で次々と逮捕されている。

2021年3月には、「ンドランゲタ」のメンバーの一人で逃亡中だったマーク・フェレン・クラウド・ビアートが、ドミニカ共和国で捕まった。
彼は2014年、オランダでコカインの密売に関与した罪で国際指名手配され、ドミニカ共和国に身を隠していた。

しかし、覆面YouTuberとしてイタリア料理の動画を定期的に投稿していたことが、身元発覚のきっかけとなった。マークは顔を隠して料理を披露していたが、動画に映った身体のタトゥーが決定的な手がかりとなり、正体が明らかになったのである。

その数日後、構成員のフランチェスコ・ペレも、ポルトガルのリスボンで新型コロナウイルス感染症の治療を受けたことがきっかけで、逮捕された。

さらに、2021年12月には、国際指名手配されていた幹部ジョアッキーノ・ガミーノが、スペインで偶然グーグルストリートビューに映り込んでいるのが発見され、20年にわたる逃亡生活に終止符を打たれている。

マフィアのボスたちの「承認欲求」と「自己顕示欲」

著書『死都ゴモラ』で、マフィアの活動に言及したことにより脅迫を受けたジャーナリスト、ロベルト・サヴィアーノ氏は、CNNのインタビューで、マフィアのボスたちについて次のように語っている。

マフィアのボスが注目を集めたがるのはよくあることだ。

メキシコの『麻薬王』エル・チャポは現役時代、ショーン・ペンに自作映画への出演を依頼しようとしていた。

アメリカのマフィア、アル・カポネは、ギャング映画『スカーフェイス』の撮影現場を見学したがっていた。

画像 : アル・カポネ public domain

人気ピザ職人となったエドガルド・グレコの逮捕劇は、逃亡生活の中でも欲望や夢を捨てきれなかったひとりの人間の姿を映し出しており、まるで映画の一幕のようである。

「美味しいピザで名を上げ、自らのレストランを持つ」という、普通なら成功者として称賛されるべき夢が、彼にとっては運命を狂わせるものとなってしまった。

人間の持つささやかな喜びが、意外な形で正義の扉を開くこともあるのである。

参考 :
Key INTERPOL initiative facilitates coordination between authorities | INTERPOL
死都ゴモラ―世界の裏側を支配する暗黒帝国』 ロベルト・サヴィアーノ著

 

藤城奈々 (編集者)

藤城奈々 (編集者)

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ライター・構成作家・編集者
心理、人間関係のメカニズム、スピリチュアル、宇宙
日本脚本家連盟会員

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