事件史

「ポンジ・スキーム」あなたは見抜ける?人々の欲望につけ込む古典的詐欺

リスクとリターンは表裏一体(比例する)……資産運用を検討したことがなくても「ハイリスク・ハイリターン(orローリスク・ローリターン)」という言葉は聞いたことがあると思います。

リターン(お金、利益)が欲しいなら、相応のリスク(損失の可能性)を覚悟しなければならず、むしろリスクの対価としてリターンが狙えるとも言えるでしょう。

要するにハイリスクを覚悟するならハイリターンのチャンスがあり、ローリスクに抑えたいならローリターンで我慢するべきですが、世の中には往々にして「ローリスク・ハイリターン」どころか「ノーリスク・ハイリターン」な儲け話が出回りがちです。

あなたも、いかがですか?

「旨い話にゃウラがある」

古今東西よく言われる通り、そういう話は100%詐欺と思って間違いないのですが、中には巧妙?に偽装されて、一見それと判りにくい詐欺が横行しているのです。

一度カラクリを見てしまえば「なんだ、そんなチャチなものに騙されるもんか」と思うのですが、これがまた欲望に目がくらむと、不思議と見抜けなくなってしまいがち。

そこで今回は、古典的な詐欺手法として有名な「ポンジ・スキーム」について紹介したいと思います。

元本保証で、利回り40%!?

突然ですが、皆さんに質問です。もしも筆者が

「私に10万円を預けていただければ、3ヶ月後に40%=4万円の利息をお支払いします」

と持ちかけたら、10万円を投資する気になれますか?……あまりにも怪しすぎて、多くの方はそんな気にはならないでしょう。

では、こうつけ加えたらどうでしょうか。

「国際返信切手券による切手の交換レートと外貨交換レートの差額(※)によって利ザヤが得られるので、皆さんに利息をお支払いできるのです。もちろんお預かりした元本は完全に保証致します……」

(※)この部分はそれっぽい説得力を演出できれば(≒出資者を騙せれば)何でもOK。

これでも、やっぱり怪しいですよね。だって「投資の神様」と言われるウォーレン・バフェット氏でさえ、年間の利回り(投資元本に対する利益率)は約20%と言われているのに、3ヶ月で40%=年間160%の利回りなんて、ヤバすぎる話に決まっています。

しかし、中には「元本を保証してくれるなら……」と10万円を預けてしまう人(※Aさんとします)も現れます。

「あーあ、騙されるぞ……」

そう思ったのですが、いざ3ヶ月後になってみると、10万円を投資したAさんの元には、ちゃんと4万円の利息が支払われたのでした。

「あれっ!?」

「本当に40%の利回りなんだ!?」

ウソみたーい!(イメージ)

皆さんが目を丸くしているところへ、筆者がドヤ顔で畳みかけると……?

「ほーらご覧なさい。詐欺なんかじゃなかったでしょう?……さぁ年に4回・利回り40%&元本保証の高配当投資、皆さんもいかがでしょうか?」

こうなれば後はチョロいもんで、我も我もと出資者が集まります。そして次の3ヶ月後も、皆さんにきちんと40%の利息を支払い続け、またその次の3ヶ月後も……「あのファンドは儲かるぞ」という噂が噂を呼んで、押すな押すなの大繁盛。

あれ?詐欺のはずなのにみんなが利息を受け取ってニコニコしている……どうして、こんな事が出来るのでしょうか。

……答えは簡単。実は筆者は国際返信切手券になど投資しておらず、皆さんから預かったお金の一部を、そのまま「利息」だと言って返しているだけなのです。

なので「解約するから元本も一緒に返してくれ」と言われたら一瞬で破綻してしまうのですが、元本保証に加えて3ヶ月に一回の40%利回りが貰えるファンドを解約する人なんて、滅多にいません。

今回の事例をシンプルに解説すると、筆者がAさんから10万円を預かり、何の投資もせず3ヶ月後に4万円を返すと、残高は6万円。その3ヶ月後に同じことをすれば残高は2万円、そのままだと、その3ヶ月後に破綻しますね。

つまり、一度10万円を預かるだけで、とりあえず9ヶ月間は時間が稼げるのです。その間に他の出資者を募って、集まった出資金の中から皆さんに「利息」を払い続ける、いわゆる自転車操業となります。

やがて「あのファンド、実は詐欺らしいぜ」などと噂が広まって人々が出資を控えたり、あるいは返金請求が続いたりすればたちまち破綻し、実態を暴かれた詐欺師は、あえなくお縄になってしまうのでした。

シンプル故の恐ろしさ?100年経っても被害者続出!

「ポンジ・スキーム」を生み出した詐欺師チャールズ・ポンジ。

以上がポンジ・スキームの概略で、この手口を考案・実行したチャールズ・ポンジ(Charles Ponzi。1882年~1949年)の名前がその由来となっています(スキームとは仕組みの意)。

冒頭にも言った通り「こんなチャチな仕組み、普通すぐに見抜けるでしょ(笑)」と思う方もいらっしゃるでしょうが、いざ40%の利息を受け取ってみると「こんなに美味しい話が、詐欺なんてありえない!」と信じ込んでしまう人も少なくありません。

しかし、欲に目がくらみ、実際に利息を受け取ると「もっと儲けたい」と更に増資して、全財産をつぎ込んだ時点で破綻する……そんな悲喜劇が、絶えず繰り返されて来たのです。

ポンジ・スキームが登場したのは20世紀初頭の1919年。今からほぼ100年前ですが、21世紀の令和になっても類似の事件は続いており、最近でも安愚楽牧場事件(平成二十三2011年)やジャパンライフ事件(令和二2020年)など、多くの被害者が泣かされています。

ちなみにポンジ本人は詐欺を繰り返してアメリカ市民権を剥奪され、各地を転々とした挙げ句にすべてを失い、ブラジル・リオデジャネイロの慈善病院でひっそりと亡くなりました。

欲望に呑まれた者が騙し騙され、結局のところ誰も幸せにはなれない詐欺事件。騙す方が悪いのはもちろんですが、私たちも目先の欲に惑わされないファイナンシャル・リテラシー(金融意識)を高めていきたいものです。

アバター画像

角田晶生(つのだ あきお)

投稿者の記事一覧

フリーライター。日本の歴史文化をメインに、時代の行間に血を通わせる文章を心がけております。(ほか不動産・雑学・伝承民俗など)
※お仕事相談は tsunodaakio☆gmail.com ☆→@

このたび日本史専門サイトを立ち上げました。こちらもよろしくお願いします。
時代の隙間をのぞき込む日本史よみものサイト「歴史屋」https://rekishiya.com/

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. ナチス・ドイツの史上最大の偽札製造・ベルンハルト作戦
  2. 水野忠恒事件 「狂気乱心いきなり斬りつけ~二度目の松之大廊下刃傷…
  3. 東京を無政府状態にまで追い込んだ暴動「日比谷焼打事件」とは?
  4. 【華厳滝に身を投げた夏目漱石の教え子】 藤村操とは ~遺書「巌頭…
  5. 【世界の三大バブル】 南海泡沫事件について調べてみた 「バブルの…
  6. 【38人見ていたのに誰も助けなかった】 キティ・ジェノヴィーズ事…
  7. もう一つの生麦事件について調べてみた【鎌倉事件】
  8. 刑務所の食事は本当においしいのか?【実体験】

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

「徳川家に不幸をもたらした」 妖刀・村正

前編に引き続き後編である。100年にも及ぶ戦国時代の最終的覇者となった徳川家康と徳川家には、…

江戸時代の不思議な噂・デマ・風説「生きて動く人形、人をさらう天狗」

最近、メディアも取り上げるようになったネット上の「デマ」や「フェイクニュース」。それをうかつ…

【地下火災が続くゴーストタウン】セントラリアとは ~小さなミスが生んだ大きな被害」

人間は火を使えるようになって多くの物を得たが、それと同時に多くの物を失ってきた。不幸…

家康を大激怒させた大岡弥四郎への「おぞましい処刑法」とは

大岡弥四郎とは大岡弥四郎(おおおか やしろう)とは、徳川家康の嫡男・松平信康に仕え、町奉行を務め…

最期まで呑気な藤原惟規(高杉真宙)僧侶も呆れた彼のコメント【光る君へ】

時は寛弘8年(1011年)、藤原惟規(のぶのり)は、越後守となった父・藤原為時に従い、越後国へやって…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP