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狼に育てられた少女アマラとカマラ

狼に育てられた少女アマラとカマラ""

イメージ画(pixabay darksouls1)

「狼男と人間が恋におちる」などが人間と近い者として語られることは偶にある。

しかし、本来野生の肉食獣である狼が人間を育てることなどありえない。大人であれば敵とみなし攻撃するし、幼子であれば食用に狙うだろう。

しかし、ある二人の孤児の少女が「狼に育てられた」として世界的に有名になり、数ある調査団体が調査に乗り出すまでになった出来事がある。

狼に育てられた少女

1920年、インドで二人の孤児が発見され、孤児院を経営するジョセフ・シングに引き取られた。

シングはキリスト教伝道師であり、誰からも慕われるような性格だった。

そんなシングは、その後の少女たちについて

四足歩行をする」「日中は目がきかず夜目がいい」「寒さや暑さに対する反応が鈍い」「食事として生肉と牛乳を好む」「地面に置かれた皿を舐めるように食す」「普段は声をださず、真夜中に遠吠えのような声を発する

と日記に記し、二人は『狼に育てられた子供』と発言した。

狼に育てられた少女アマラとカマラ

※カマラと言われている画像 wikiより

発見当初、非常に衰弱していたことと正式な記録もなかったため、二人の確実な年齢は不明だが、年少の方は推定1歳半として「アマラ」、年長の方は推定8歳とし「カマラ」と名付けた。

推定でいくと、二人とも二足歩行ができる年齢であるが、カマラの方は常時四足歩行を続けていたせいか膝関節が固くなっているほどだった。

そもそも二人の子供が、育ててくれる大人もいないのに成長できるはずがない。ましてアマラの方はまだ幼児であり、ことさら手がかかる。

言葉の発達もなかったため、言語的コミュニケーションがとれるような環境でもなかったということになる。

アマラとカマラ、二人のその後

シングに保護された後、病により1年後の1921年9月に年少アマラは亡くなった。

カマラは酷く落ち込み悲しんだが、その後なんとか立ち直り、二足歩行の訓練をして歩けるようになり、簡単な単語を話せるようになった。

そして9年後の1929年11月、カマラも病によって亡くなった。

カマラが社会的・人間的に成長できるよう様々な訓練と教育を行ったが、カマラは9年間、推定17歳の年齢に達するまでに3~4歳の知能までしか成長することができなかった。

疑問視されるシングの供述

しかしその後、シングの発言を疑問視する声が増えた。

例えば「夜目がきく」これは、人間の機能的にありえない。夜目がきく生物、猫などは目の網膜の後ろにタペタムという反射板がついている。それにより通常よりも光が少ない空間でも物が認識できるのだ。

そういった暗闇で目がよく見える機能は訓練や環境で身につくものではないのだ。

ほとんどがシング牧師一人による証言であり、二人が亡くなってから22年経った1951年に社会学者のウィリアム・F・オグバーンと文化人類学者のニルマール・k・ボースが調査した結果では、すでに高齢であったシング夫妻は亡くなっていたものの、息子や施設関係者誰一人としてアマラとカマラが上記のような「狼」行動をとるところを見ている人がいなかった。

四足歩行、地面に置かれた皿から生肉を食べる、などの写真は二人が亡くなってからの1937年に撮影されたものだとわかった。

二人は重度の障害児だった

結果的に、二人は重度の障害児だったという説が現在最も強い。

すべての障害児が上記のような行動をとるとはもちろん言い切れないが、言語や身体発達が遅かった理由はそれで大方説明がつく。

なぜ嘘をついたのか

シング牧師がなぜ世界的に大騒ぎとなるほどの嘘をつきたかったかは疑問である。

また、孤児であるアマラとカマラを世界的に貶めたいという意図があったとも考えにくい。二人についての調査のほとんどは、シンク牧師が亡くなってからなので本人の証言はとれていないのだ。

当時、インターネットなども普及しておらず、シングの発言の真意についてわざわざ現地に赴き調査をする団体はおらず、シング一人の証言、報道を信じてしまったことが大きい。

そしてさらに、のちの証拠写真などの捏造された写真は、孤児院施設の寄付金目的で関係者が口裏合わせをしたものだと考えられている。

シングの日記と事実性

アマラとカマラが狼に育てられたとする手記は、シングの日記として出版されている。

それには、数々の著名人から「(アマラとカマラが狼に育てられたとする)日記の内容は事実である」と前書きされている。

上述のように、現在では多くの学者により「アマラとカマラは実在したものの重度の障碍者であり、狼に育てられたわけではない」と考えられている。しかしいまだにその事を否定し、「シングの発言は事実だ」と言い続ける人もいる。

狼が人を育てることは現実的にはありえない。狼に乳をあげるという行動はなく、人間は乳を近づけられ始めて乳首を吸う“吸啜反射”が行われるため、狼と子供では授乳が成立しない。

また、人間が生肉を食べれば遅かれ早かれ中毒にかかる。

しかしアマラとカマラだけでなく、世界にはチンパンジーに育てられたとする少年ベロや、狼に保護され狼の群れの中で生きていた少年ディーンなどがいる。また、鳥がいる小さな部屋で監禁されながら育てられたため鳥と同じ行動をとるようになったイワン、13年間監禁と虐待をうけた結果言語発達が進まず保護されるまで周囲に自閉症だと思われ続けた少女ジーニーなどがいる。

アマラとカマラの二人が狼に育てられたということが嘘であること、二人が重度の障碍者であるということ、それらの決定的な証拠はない。

しかし世界各国で、こういった子供たちは発見されているのである。

 

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