はじめに
プラスチック問題は、世界が直面している最も深刻な環境問題の一つだ。
プラスチックは、我々の生活の隅々にまで浸透しており、海洋に流出することによる生態系の破壊や、野生生物の命を奪うなど、様々な悪影響が報告されている。
プラスチックは石油や天然ガスなどの化石燃料から作られており、自然界で分解されるのに数百年かかるといわれている。
こうした環境問題に取り組むために、世界中でプラスチックを分解する方法や手段について、さまざまなが研究が行われている
そこで今回ご紹介するのは、「キノコがプラスティックを食べて分解する」という驚きの研究報告結果だ。
まずプラスティックを分解できるキノコ(菌類)の研究について紹介し、次にキノコ(菌類)の浄化機能について紹介する。
研究報告に関する補足説明も行うので、ぜひ最後まで読み進めていただきたい。
プラスティックを分解するキノコ(白色腐朽菌)の研究報告
プラスチックを分解するといわれている菌類の1つである「白色腐朽菌」は、通常、餌となる木材に含まれている「リグニン」を食べて分解する。
リグニンが分解されると、木材の組織が崩壊して柔らかくなる。これは、リグニンが木材の組織を支える役割をしているためである。
また、リグニンが白色腐朽菌によって分解されると、その後に二酸化炭素として放出される。白色腐朽菌は、リグニンを分解する際に酵素を生成するが、この時に二酸化炭素が発生する。
しかし新しい研究によると「白色腐朽菌は好みの餌が手に入らない場合、代わりにプラスチックを餌とする」場合があるという。
しかもプラスチックを分解する能力も見いだされている。プラスチックを分解する仕組みは、まだ完全には解明されていないが、リグニンを分解する酵素を使ってプラスチックを分解していると考えられているようだ。
白色腐朽菌などの菌類は、耐腐朽性の広葉樹も腐らせることができると考えられていたが、同様に、ポリエチレンやプラスチックなどの他の「ポリマー」も腐らせることができるのではないかと予想されていたようだ。
研究者らは、白色腐朽菌などの菌類が本当にプラスティックを分解する能力があるのかを確かめるために、次のような実験を行った。
* 朽ちかけた広葉樹から50種類の菌類サンプルを分離
* サンプルを次の2つの実験条件に分類
* 1つは低密度ポリエチレン(プラスチックの一種)を使用した皿
* もう1つはプラスチックと木の両方を使用した皿
45日後、菌類が一貫して、プラスチックよりも木材を好むことは明らかであったが、どちらの実験条件においても、「プラスチックのみを使用した皿では、菌類がポリエチレンを分解する」という結果になった。
つまり、「白色腐朽菌などの菌類は木材を好むが、プラスチックも食べて分解できる」ことがわかったのである。
菌類は与えられた環境内で、利用可能なものはすべて利用し、生き残る必要があったのだ。
菌類がポリエチレンというプラスチックを分解する能力があることはわかった。
しかし、研究者たちは菌類がポリエチレンを分解する際に、どのような化学反応が起こるのか、どのような化学物質が生成されるのかを、まだ完全には理解していないという。
わかっているのは、菌類が木材やプラスチックを分解するために、いくつかの酸化酵素を生成するということだ。
すでに、430種以上の菌類や細菌がプラスチックを分解することが判明している。
研究者たちは、これらの菌類や微生物が、プラスチックを分解するために分泌する酵素を特定して複製できれば、最終的には、年間4億トンのプラスチック廃棄物を除去できる可能性があると考えている。
しかし研究者たちはまず、「白色腐朽菌」などの菌類が、埋め立て地などのさまざまな条件で、どのように機能するのか、またそれらが在来の木に脅威を与えるかどうかを確認する必要があるとしている。
「制限された条件下」では、特定した「酵素」を複製し、それを利用することができるようになるかもしれないが、その前にさらに多くの研究を行う必要があるだろう。
白色腐朽菌(はくしょくふきゅうきん)について
ここでは、「白色腐朽菌」について補足説明する。
一般に存在する木材腐朽菌の90%以上が、白色腐朽菌である。
白色腐朽菌には、次の種類が存在している。
カワラタケ、ヒラタケ、シイタケ、ナメコ、エノキタケ、スギヒラタケ、マイタケ、タモギタケ、スエヒロタケ、シュタケ、ホシゲタケ、ヒイロタケ
我々が普段、美味しくいただいている「キノコ」類も含まれるのは驚きだ。
なお白色腐朽菌には、実体としての「キノコ」を形成するもの、形成しないものがあり、研究に使用される菌類は、利便上、「キノコ」を形成しない状態が多いという。
また、増殖速度は、カワラタケ > ヒラタケ > シイタケの順に大きく、菌種により相違があるもわかっている。
リグニンについて
ここでは、「リグニン」について補足説明する。
木材に多く含まれているという「リグニン」とは何だろうか?
リグニンとは、ほとんどの地上植物の細胞壁の主要成分の1つである。
固くしっかりとした構造にするほか、外敵からの攻撃を防ぐ、難分解性の物質として重要な役割を果たしている。
簡単に言えばリグニンによって強度が増し、キノコ類などの天敵を除いた生物から身を守る物質ということだろう。
ちなみに、木の場合、総重量の20〜30%をリグニンが占めるといわれている。
キノコ(菌類)を使った環境対策の可能性
次に、キノコや菌類のプラスティック分解以外のすごい点を見てみよう。
キノコなどの菌類は非常に優れた分解能力を持ち、種類によっては廃棄物や汚染物質を分解して栄養素に変える働きをするものもある。
そのため、キノコ栽培によって環境浄化を行うという研究があるのだ。
キノコは、美味しいだけではなかったのである。
このため、キノコによって、次のようなことが期待されている。
・廃棄物(一般、農業、食品)や不要な木材などの分解
・水質・土壌汚染の修復
・飼育場、工場周辺の大気浄化
とくに食品廃棄物を使ったキノコ栽培は、廃棄物の削減と同時に、食糧生産にもつながるため、期待が大きい。
ただし、キノコの利用には栽培技術や安全性の確保など課題もあるため、さらなる研究が求められている。
さいごに
地球規模のプラスチック汚染を解決するためには、プラスチックの使用量を減らすことが重要だが、プラスチックは我々の生活に欠かせない素材であるため、使用量を減らすことは容易ではない。
よって、プラスチック汚染を解決するためには、プラスチックを分解できる菌の研究が重要なのである。
また、さまざまな環境汚染に対する課題を解決するために、このような「サステナブルな技術」を積極的に採用することは、ますます必要とされるようになるだろう。
我々としては、キノコを美味しくいただきつつ、研究の進展を見守りながら、キノコを使った環境対策の可能性に期待したいところだ。
参考 : carbon dioxide, PLOS One, Renuka Attanayake 他
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