科学

そのグラフ、本当に信用できる? 専門家の「恣意的データ操作」を見抜け!

福島原発事故後、アメリカで乳幼児死亡率急上昇!?

画像 : 左から4号機→3号機→2号機→1号機 (2011年3月16日撮影) wiki © Digital Globe

アメリカのJ.Sherman医師と疫学者J.Mangano氏らは、米国北西部の8市(アイダホ州ボイシ、ワシントン州シアトル、オレゴン州ポートランド、そしてカリフォルニア州のサンタクルス、サクラメント、サンフランシスコ、サンノゼ・バークレー)において、1歳未満の子供の死亡数に関する2011年のデータを報告しました(ネット上では削除済み)。

3月19日を最後とする4週間 – 死亡数37(平均9.25/週)
5月28日を最後とする10週間 – 死亡数125(平均12.50/週)

彼女らによれば、これは「福島第一原発の事故前4週間と比較して、事故後10週間では乳幼児死亡率が35%増大しているとする、統計的に有意なデータである」とのこと。

しかし、これは果たして本当でしょうか?

具体的に数字で示されると、それだけで何となくしっかりした科学的データのように見えます。

それを主張しているのも専門家みたいだしなるほどな、と。

原発事故と言えば、現代に生きる我々日本人にある、消したくても消えない強烈なインパクトです。

広範囲にわたる放射能汚染、それにより故郷を奪われ仮設住宅住まいを強いられた地域住民、残され荒れ果てた土地、そして困難な汚染処理と廃炉作業にかかわる多くの人々の苦悩。

そんなこんなで放射能物質が風に乗り海を渡り、北米大陸にも重大な人的被害を与えたと言われれば、「さもありなん」とも思えてしまいます。

注意したい「データの見せ方」

しかし、ちょっと考えると不思議な気もします。

「なぜこれらの8都市をピックアップしたのか?」
「データ取得期間が、事故前では4週間なのに対し事故後では10週間なのはなぜ?」

実は、そこにはちゃんと理由があるのです。

元データとなる米疾病予防管理センター(CDC)発表罹患死亡率週報によれば、これら8都市での乳幼児死亡数は以下のようになります(図1)。

画像:図1 週末毎の乳幼児死亡者数

縦軸は、これら8都市での乳幼児死亡者数、横軸は2011年1月9日から6月12日までの時間軸、ちょうど真ん中辺りが福島原発事故に当たります。

Excelによって描かれた全体的な傾向を示す最適合線(青い線)は、増加どころかむしろわずかながら減少傾向を示しているではありませんか。

実はSherman氏らはこの統計を使う際、事故前の4つの点(緑色の点)と事故後の10個の点(赤い点)を使用しているのです。

緑色と赤の点だけを比べれば、赤い点の方が緑より上側に分布している、つまり、事故後に増大しているように見える!

彼らのデータが全体的な傾向を反映していないことは明らかです。

特に、1月と2月のデータを排除したところに恣意性を感じませんか?

そうすることにより、「事故により死亡率が増大した」との主張に沿うデータに見せているのです。

自論を補強するように、意図的にデータ抽出を操作する、典型的なチェリーピッキングですね。

取得データが、事故後が10週間分なのに対し事故前が4週間分だけだった「理由」は、実はこういうからくりなのでした。

専門家がこのような論陣を張ってしまうとは‥。

いや、専門家だからこそできる作為的データ解析とも言えるでしょう。

「相関」と「因果」は違う

今度は日本のケースです。

図2は、日本における人口10万人当たりのがん死亡者数の年次推移。

画像:図2 がん死亡者数の年次推移

一見して、明らかに年を追うごとに増大しています。

日本社会でいったい何が起こっているというのでしょう!?

ある人は水道水の質の悪化と言い、またある人は大気汚染と言うかもしれません。

中にはケムトレイル的な陰謀論を唱える人も。

こんな「科学的データ」見せられてそんなこと言われたら、水のせいと言われれば浄水器を、大気汚染と言われれば空気清浄機を買ってしまうかもしれません。

中には言われるままに、怪しい宗教団体や自己啓発団体に入ってしまう人もいるのでしょう。

まず言っておきますが、こういう単調増加(もしくは減少)するグラフに別の要因を結びつけて、さも両者に因果関係があるかのように不安を煽るというのは、悪徳商法でよくある論法なのです。

例えば、このグラフと同期間(1958~2019年)に、一世帯あたりの自動車保有台数も単調増加しているとします(実際には近年は微減しているようですが、ここは例え話として)。

でもさすがに「車を持つとがんになる」との結論に首肯する人はいないでしょう。

なぜなら車所有が、がんの原因にならないことは明らかだからです。

この場合、車の所有率とがんの死亡率の間に「相関」はあると言えますが、「因果」は無いのです。

実際のだましの例では、当然ですがこれほど間違いが明らかでない事例(水道水の悪化とか)を使ってくるので注意が必要、ということになります。

冷静に考えて見ましょう。

がんの発生率を左右するファクターですぐ思いつくもの、他にありますよね。

それは、年齢です。

このようなデータから因果を探る場合は、年齢調整をしなければなりません。

つまり、ある基準となる年を決め、その年と同じ年齢構成比になるように各年次を調整し直したデータを見なければならないのです。

で、年齢調整した後のデータが図3です。

画像:図3 がん死亡者数の年次推移(年齢調整後)

どうです?全く様相が異なりますね。

このデータを見て、「水道水が悪いから浄水器買わなきゃ」とはならないはずです。

図2の単調増加が、実は単に高齢化の影響だったことが分かります。

「AとBが両方増えている」という事実だけから、「AがBの要因(もしくはその逆)」とは言えず、そこには他の要因があるかも知れない。

こう言ってしまえば当たり前のようですが、データを見せられた時にそこまで思いが至るかどうかは1つのポイントとなるでしょう。

数字の恣意的な切り出し方は、似非科学の常とう手段です。

「相関」と「因果」の違いの明確化、科学的議論には特に求められます。

参考:
米疾病予防管理センター罹患死亡率週報
片瀬久美子ブログ”warbler’sdiary”
『国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計))』
文 / 種市孝 校正 / 草の実堂編集部

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種市 孝(たねいちたかし)

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超心理物理学者・エセ科学バスター
【NPO】国際総合研究機構付属理論物理学研究所・所長
超心理現象(テレパシー、ミクロPK等)をまじめに科学する理論物理学者。 同時に「科学的とはどういうことか」、「科学思考はなぜ重要か」を掘り下げる。
川崎生まれ、新潟育ち、東京在住。

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