月は、明るい部分とやや暗い部分が存在し、満月の際に暗い部分をつなぎ合わせると「うさぎ」の形に見えると言われている。
この幻想的な姿は、古来より人々の想像力を掻き立て、長らく語り継がれてきた。
今回は、この神秘的な月の「海」について詳しく探ってみる。
「月の海」とは何か
月の表面に見られる暗い部分は、「うさぎ」の形に例えられることが多く、「月の海」と呼ばれている。
この「海」は、実際には水が存在するわけではなく、苦鉄質火山岩である玄武岩に覆われた月の平原のことである。
これに対し、月の明るい部分は白い斜長岩で構成され、「月の高地」と呼ばれている。
どのようにして「月の海」はできたのか
はるか大昔に巨大な隕石が衝突し、大規模なクレーターを作った。
これが「月の海」の元となる地形の基盤になったと考えられている。
衝突によってできたクレーターに、月内部から吹き出した玄武岩の溶岩が流れ込み、クレーターの底に広がって平らな地形を作ったのだ。
やがて溶岩は冷却され、固化して現在のような黒い色の玄武岩層となり、まるで海のように見える地形へと変容した。
月には水が存在しない
月に水が存在しない理由は、主に以下である。
まず、月の引力は地球の約1/6に過ぎず、この弱い引力では大気を保持することが難しい。そのため、大気が存在せず、水蒸気もすぐに宇宙空間へと逃げてしまう。
また、月の表面温度は昼夜で大きく変動し、昼間は100℃を超え、夜間はマイナス170℃まで下がる。この極端な温度変化も、液体の水が月の表面に存在することを困難にしている。
これらの要因が相まって、月の表面には液体の水が存在し得ない環境が形成されている。今後の探査の進展により、氷の存在など新たな発見があるかも知れないが、現時点では液体の水は確認されていない。
月の海をいくつかご紹介
現在「海」として名付けられたものは複数存在する。
以下に代表的な「月の海」をご紹介する。
静かの海(Mare Tranquillitatis)
月の赤道よりやや北に位置し、「うさぎ」の顔の部分に該当する場所である。
1969年、アポロ11号のミッションで人類が初めて月面に着陸したのも、この海である。
アームストロング船長は、この海にたどり着いた際に「これは1人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な一歩である」と名言を残した。
嵐の大洋(Oceanus Procellarum)
月の西部に広がる、大きな円形の領域であり、月の海の中で最大の規模を誇る。
周囲には、複数の小さな月の海やクレーターが点在している。
長年、他の海と同様に隕石の衝突でできたと考えられてきた。しかし、2014年に発表された米マサチューセッツ工科大学の研究によると、実際にはマグマの活動によって形成された可能性が示唆されている。
30~40億年前に、マグマ供給系から流れ出た溶岩は、地域一帯を広く覆い尽くした。流れ込んだ溶岩が冷却され、固化したことで、現在見られる特徴的な黒い玄武岩の層を形成したと考えられている。
雨の海(Mare Imbrium)
37億年前から39億年前にできた海であり、この南西部にアポロ15号が着陸した。
直径は1,300kmあり、カルパチア山脈、アペニン山脈、コーカサス山脈が連なっている。
深さは12kmもあり、嵐の大洋に次いで2番目の広さを誇る。
縁の海(Mare Marginis)
月の表側の縁に位置することから「縁(ふち)の海」と呼ばれる。
海の表面には渦巻いたような模様が見られ、これは高アルベド堆積物(反射率が高く、明るく見える物質)であるとされている。
さいごに
「月の海」は、月の表面を理解し、その魅力を深く探るために不可欠な存在である。
これらの広大な領域は、月の数十億年にわたる貴重な地質記録を保持していると言えよう。
夜空を見上げて月を観察する際には、ぜひこれらの「月の海」にも思いを馳せてみて欲しい。
参考 : 月面探査 – 国立科学博物館
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