エンタメ

【視聴率64.8%】伝説の時代劇「てなもんや三度笠」の内容と魅力 「あたり前田のクラッカー!」

てなもんや三度笠」は、1962年(昭和37年)5月6日から放送されたコメディ時代劇である。

毎週日曜日夕方6時からの30分放送で、放送開始から視聴率はどんどん上昇し、最高64.8%を記録した。

当時はまだまだ娯楽は少なかったとはいえ、とんでもない数字である。

今回は「てなもんや三度笠」が多くの人を魅了した理由を分析をしてみた。

「てなもんや三度笠」のストーリー

【視聴率64.8%】伝説の時代劇「てなもんや三度笠」の内容と魅力

イメージ画像:てなもんや illustAc

てなもんや三度笠」の内容は、よくある股旅物である。

股旅物とは、世渡人が日本全国各地を回る話を描いたジャンルである。

江戸時代は行動が厳しく制限され、自由に旅に出るのも難しかった。しかも現代のように飛行機や新幹線もないため、庶民は歩いて目的地へと向かうことになる。そんな江戸時代の旅の話を描いた股旅物は、昭和初期に大衆演劇の1ジャンルとして確立した。映像の世界にも影響し「木枯し紋次郎」や「子連れ狼」といった、名作も生まれた。

しかし「てなもんや三度笠」は「木枯し紋次郎」のような渋い話ではない。

主人公は、態度だけは一人前の世渡り人である「あんかけの時次郎」。時次郎のパートナーとなるのは、口は達者で小生意気な小坊主の「珍念」。

2人は東海道を旅しながら、様々な騒動に巻き込まれていく。

旅の途中で出会う、素浪人の蛇口一角や名古屋弁の鼠小僧など、濃い面々とのやり取りも魅力的だった。

生放送で時代劇!?「てなもんや三度笠」

 

この投稿をInstagramで見る

 

caravan.sato(@caravan.sato)がシェアした投稿


「てなもんや三度笠」の魅力は、生放送である。

リアルタイムで演者は芝居をし、そのままテレビで放映していたのだ。令和の感覚でとらえると、にわかに信じられない話と言えるだろう。

時代劇かどうかは関係なく、ドラマを生放送で届けるのには無理がある。万が一台詞を間違ってしまったら何もかも全て台無しである。しかも「てなもんや三度笠」にはチャンバラシーンがあり、タイミングがズレると無茶苦茶になってしまう。

大御所俳優でも苦労するほど難易度の高いシーンを生放送でやり遂げてしまった「てなもんや三度笠」は「凄い」以外の言葉は見つからない。

「てなもんや三度笠」が生放送だったのは、当時はまだVTR編集ができるだけの環境が整っていなかったからである。

VTR編集そのものは1900年代から確立はされている。ただし当時のテレビ局にはまだ編集専用の機材は揃っていなかった。単純に「やりたくてもできなかった」から、生放送へと舵を切ったのである。

さらに驚くことに、収録は実際に観客を入れて行われていたのだ。場所はABCホールである。

普段はサラリーマンが行き交う場所で、あんかけの時次郎と珍念は旅をしていたことになる。

舞台セットは全て本物

画像:舞台装置 wki c

「てなもんや三度笠」のセットは、あり得ないこと尽くしである。

舞台では「書割(かきわり)」と呼ばれる物を使う。「書割」とは、ベニヤ板や布等に背景や建物を描いて、舞台に設置する舞台装置の一種のことである。現在でも書割は使われており、なくてはならないものになっている。

ところが「てなもんや三度笠」で使われる舞台装置は、全て本物だったのだ。

建物を本当に建築するのは、まだまだ序の口。川が流れるシーンがあれば本物の水を運び、草や木も全て本物を揃えていた。

さらに物語を盛り上げるために本当に大砲を打ったり、爆破だって厭わなかったのである。

繰り返しになるが、収録された場所は観客が目の前にいるABCホールである。令和の時代に同じ事をするのは、もはや不可能である。

出演者全員がレジェンド級

画像:藤田まこと public domain

「てなもんや三度笠」に出演した俳優は、あまりにも豪華すぎる。

あんかけの時次郎役は、藤田まことが担当した。後に「必殺シリーズ」の中村主水をはじめ、数多くの映画やドラマに欠かせなかった俳優である。当時は駆け出し中の俳優だったが、初主演となった「てなもんや三度笠」をきっかけに大ブレイクとなった。

小坊主の珍念役は、白木みのるである。彼は「口が達者な子役」を演じていたが当時は28歳で、藤田まこととと同年代であった。彼は大阪で知らない人はいないほどの大スターだったが、東京での知名度はまだまだであった。

蛇口一角役は、財津一郎である。「てなもんや三度笠」では、エキセントリックな笑いを多く届けた。

「てなもんや三度笠」に登場するゲストも凄まじい面々が勢揃いだった。

記念すべき第1回のゲストとなったのは、伴淳三郎である。伴淳三郎は関西喜劇人協会(現:日本喜劇人協会)の会長で、喜劇の歴史を語る上で避けて通れないほどの大物である。藤田まことの父親と縁があったため出演に至った。

他にも、京唄子・鳳啓介・柳家金語楼・芦屋雁之助・南利明・フランキー堺・由利徹も登場。当時は若手イケメン俳優だった里見浩太朗も出演している。

あたり前田のクラッカー!「てなもんや三度笠」が送り出したギャグの数々

【視聴率64.8%】伝説の時代劇「てなもんや三度笠」の内容と魅力

画像:前田クラッカー

「てなもんや三度笠」を語るのなら、ギャグを避けて通るわけにはいかない。

藤田まことの「当たり前田のクラッカー」は、あまりにも有名である。「てなもんや三度笠」という言葉を知らない人であっても、一度は耳にしたことがあるだろう。

財津一郎が甲高い声を上げて「非常にキビシー!」と叫ぶギャグも、元を辿れば「てなもんや三度笠」に辿り着く。財津一郎は刀をペロリと舐め、エキセントリックな姿も披露した。

他にもまだまだたくさんある。鳳啓介の「ポテチン」。芦屋兄弟の「ヤヤヤ」。芦屋小雁の奇声。京唄子の吸い込み芸。伊東四朗の女形言葉。有島一郎のカクカク歩き芸等。

「てなもんや三度笠」は、昭和喜劇の全てが詰め込まれていたといっても過言ではない。

【参考資料】:「伝説日本チャンバラ狂 名作時代劇おもしろドキュメント」

 

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 朝日杯フューチュリティステークスの歴史《夢のスーパーカー マルゼ…
  2. 皐月賞の歴史を調べてみた
  3. 金のために祖国を売ったCIA職員・オルドリッチ・エイムズ 【日曜…
  4. 【日本一危険な神社】太田山神社とは 〜試される大地に鎮座する断崖…
  5. 佐々木小次郎は実在したのか調べてみた 【巌流島の戦い】
  6. 【沖縄アクターズスクール創業者】マキノ正幸氏が逝去 「安室奈美恵…
  7. 【日本は男尊女卑?】日本の女性の地位を歴史的視点で見る「ジェンダ…
  8. 【日本史を動かした異国の神様】 謎に包まれた八幡神とは?

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

加熱不足のベーコンが原因か? 男性の脳にブタの寄生虫が見つかる

2024年3月、アメリカ在住の中年男性が、加熱不足のベーコンを食べた後に脳に寄生虫感染症を発症したこ…

【アメリカ政府、初の宇宙ゴミ罰金】 衛星テレビ会社に15万ドルの巨額罰金 「スペースデブリ問題」

2022年7月、アメリカ連邦通信委員会(以下FCC)は、衛星テレビプロバイダーであるディッシュ・ネッ…

【世界一美しい少女のミイラ】 ロザリア・ロンバルド 「パレルモの眠り姫」

温暖な気候と風光明媚な景観で知られ、観光地としても人気のイタリア・シチリア島のパレルモのカプ…

足利義輝について調べてみた【武勇に優れた剣豪将軍】

足利尊氏より始まった室町幕府は応仁の乱によって権威は下がっていき、戦国時代ともなると各地の有力大名が…

【源氏物語に情熱を捧げたオタク女子】 菅原孝標女のオタクエピソードと個性的な家族

2024年に入り、大河ドラマ「光る君へ」が始まりましたね。テレビの前で放映されるのを、待ちどおし…

アーカイブ

PAGE TOP