江戸時代

『猫は老いると妖怪になる?』 江戸時代から愛され続けている「猫又」とは

猫又

画像:歌川国芳「古幸猫のよふかい」public domain

ここ数年来、定着している「」人気。
メディア・SNSで話題になり、イベント・猫カフェには多くの人が集まり、さまざまな猫グッズが販売され……と、人気のほどはとどまるところを知りません。

一説によると、猫が日本に来たのは紀元前2世紀の弥生時代まで遡るとか。平安時代は貴族の間で愛玩動物として人気を博し、江戸時代になるとネズミ退治をしてくれる貴重な存在として、庶民の間にも猫を飼う習慣が広まっていったそうです。

さらに、猫は浮世絵の主役としてさまざまな絵画に愛らしくユーモラスな姿で登場していますが、日本の民間伝承・怪談では、猫が姿を変えた妖怪「猫又(ねこまた)」が登場、さまざまな逸話を残しています。

古くより文献に登場する猫の妖怪「猫又」

猫又

画像:歌川国芳「鎌田又八勢州松坂の人無双強力なり同国鈴鹿の山中にてとしふる大猫を殺す」public domain

猫又(ねこまた)」(猫股・猫胯とも)は、日本各地の民間伝承や怪談などに登場する猫の妖怪のことです。

人間に飼われている猫が年老いて猫又になったものと、山奥に住んでいて人々を襲い食い殺すものと二種類に大別され、日本のみならず中国でもさまざまな逸話が残されています。

公家・藤原定家の日記『明月記』(平安時代末期〜鎌倉時代初期)によると、1233年(天福元年)に

南都(現・奈良県)に猫又が現れ、一晩で数人を食い殺した」「目が猫のようで体は犬のように大きかった」という記述があり、これは初めて猫又が文献に登場した例といわれています。

また、鎌倉時代に伊賀・橘成季(たちばなのなりすえ)によって編纂された世俗説話集『古今著聞集』(ここんちょもんじゅう)では、猫又という名称はないものの、「飼っていた愛猫がお手玉と上手に遊ぶので、秘蔵の守り刀で遊ばせようとしたら猫がその守り刀を咥えて逃げ行方をくらませた」ほか、不思議な猫の話が登場。

さらに鎌倉時代の末期にまとめられたと伝わる、吉田兼好『徒然草』にも猫又に関する逸話があります。

(原文)
「奥山に、猫またといふものありて、人を食らふなる。」と、人の言ひけるに、「山ならねども、これらにも、猫の経あがりて、猫またになりて、人とることはあなるものを。」と言ふ者ありける

山奥には猫又というのがいて人を食べるらしい」と言う人がいたり「いや、山に行かなくても、この近所でも猫が猫又になって人を襲ったらしい」などと言う人もいた……という内容で始まるストーリーです。

その噂話を聞いたあるお坊さんが夜道を歩いているところ、猫又に飛びつかれて逃げたものの、川に転げ落ちてしまい「猫又だ!」と助けを呼んで近所の住民に救ってもらい濡れたまま家に帰ったという内容なのですが、

最後に、

(原文)

飼ひける犬の、暗くらけれど、主ぬしを知しりて、飛び付きたりけるとぞ。

という一文があり、実は猫又ではなく、飼っている犬が暗闇の中でもご主人が帰ってきたのを知って飛びついてきたのだった……というオチで締めくくられている、ちょっとユーモラスな話です。

そのほかにも、江戸時代の怪談・奇談集『宿直草』(トノイグサ)・『曽呂利物語』(ソロリモノガタリ)にも、山奥に住む人間に化けた猫又の話や、1749年(寛延2年ごろ)に刊行された、日本の奇談・珍談を集めた『新著聞集』(しんちょもんじゅう)には、猪ほどの大きさの猫又が捕えられたなどの話が登場しています。

江戸時代には「老いると猫又になる」説が一般化

猫又

画像:佐脇嵩之『百怪図巻』より「猫また」wiki c

庶民が猫を飼うようになった江戸時代では、飼猫が年老いると化けて猫又になる、老いた猫が家から山に移り住んで猫又になる……という説が一般化していきました。

江戸中期の旗本・伊勢貞丈による『安斎随筆』によると「数歳のネコは尾が二股になり、猫またという妖怪となる」という記述があり、学者・新井白石も「老いたネコは猫股となって人を惑わす」などと述べていたと伝わります。

当時、江戸の瓦版でも猫又の怪異がよく報じられていたようですが、猫又は、人や家畜を襲う怖いもの、死者の体を盗んでいくもの、人間にとって変わって化けるものという怖い話もあれば、元の飼い主を慕う心が残り善行を施す優しいものもいるなど、時代や地域によっても伝わる内容は異なるようです。

姿形もいろいろですが、『安斎随筆』に記されていたように尻尾が二つに分かれている姿が描かれているのを多くみかけます。

恐れられているようで愛されている「猫又」

画像:鳥山石燕『画図百鬼夜行』より「猫また」wiki c

恐ろしいような摩訶不思議な妖怪「猫又」。江戸時代には数多くの「妖怪絵巻」が制作されているのですが、その中で猫又もよく登場しています。

有名なところでは、江戸中期の画家・佐脇嵩之(さわき すうし)による妖怪を描いた『百怪図巻』に登場する、長い黒髪にきれいな着物を着て三味線を弾く猫又(タイトル下の画像)、鳥山石燕(とりやませきえん)の『画図百鬼夜行』に登場する、尻尾が二つに割れた三匹の猫又たちが挙げられるでしょう。(上の画像)

さらに、江戸時代末期の浮世絵師・歌川国芳(うたがわくによし)は浮世絵界きっての愛猫家でも知られ、猫の東海道「其まま地口 猫飼好五十三疋(みゃうかいこうごじゅうさんびき)」という作品を残しているほどなのですが、幕府が歌舞伎役者の似顔絵を禁じた頃に描いた作品『荷宝蔵壁のむだ書』には、立ち上がって踊っているようなポーズをとった猫又を登場させています。

猫又は、妖・怪異と恐れられる一方で、実は人々に愛されていたようです。

歌川国芳「荷宝蔵壁のむだ書」public domain 中央に手拭いをかぶって踊っているような猫又が…

長い長い時を経て愛され続けている猫又

画像:境港市水木しげるロードに設置された猫又のブロンズ像。尻尾が2本に分かれている。wiki c

長い時を経て、現代でも猫又はアニメのキャラクターになったりゲームや漫画の登場人物となったりして、猫好きの間で愛され続けています。

最近も、SNSで飼っている高齢の猫が夢に登場し「猫又になろうかなと悩んでいる」というので「なってくれ」と会話をした…という投稿が話題となり、「猫又になって長生きしてほしい」という猫好きの人々から多くの共感の声が寄せられたという記事がありました。

猫又と化け猫はどう違うのか…という議論もありますが、明確な基準はないようです。一説には、人に可愛がられて歳をとった猫は老いて猫又になり、「人に恨み」を持っていたり、人に残酷な殺され方をした猫が「化け猫」になるともいわれています。

化け猫の伝承も猫又同様、日本各地に存在し、悲しい話・恐ろしい話・面白い話などさまざまです。なかでも有名なのは江戸時代の「佐賀鍋島の化け猫騒動」で、それをもとにした芝居は当時大人気になったとか。

昭和初期にはこの話を原案とした映画も作られたほど人々が夢中になった話なのですが、これはまた次の機会にご紹介したいと思います。

参考文献

▪︎NHK高校講座「古典」徒然草
▪︎徒然草 (吉田兼好著・吾妻利秋訳)

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桃配伝子

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アパレルのデザイナー・デザイン事務所を経てフリーランスとして独立。旅行・歴史・神社仏閣・民間伝承&風俗・ファッション・料理・アウトドアなどの記事を書いているライターです。
神社・仏像・祭り・歴史的建造物・四季の花・鉄道・地図・旅などのイラストも描く、イラストレーターでもあります。

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