光る君へ

【光る君へ】 紫式部と藤原道長の関係は? 道長の妾という説も

NHK大河ドラマ「光る君へ」皆さんも楽しみにしていることでしょう。

平安時代の女流作家として後世に名を残した紫式部(役名:まひろ)と、権力の頂点を極めた藤原道長の関係が描かれるようです。

さて、紫式部と藤原道長と言えば、道長の娘・藤原彰子を媒とした主従関係でした(紫式部は彰子に仕えています)。

しかし、文献によっては紫式部を道長の妾(めかけ。側室)と記しているものもあり、単なる仕事上の関係には留まらなかった様子。

果たして二人はどんな関係だったのか、紹介したいと思います。

紫式部を道長の妾としているのは『尊卑分脈』のみ

紫式部と藤原道長の関係は? 道長の妾という説も

月岡芳年「古今姫鑑 紫式部」

女子
哥人 上東門院女房紫式部是也
源氏物語作者
或本雅正女云々為時妹也云々
母右馬頭藤原為信女
右衛門佐藤原信孝室 御堂関白道長妾云々

※『尊卑分脈 五』良門流

【意訳】女子。本名不明。上東院(彰子)に仕えた女房・紫式部とは彼女である。『源氏物語』の作者で、一説には藤原雅正の娘とも、藤原為時の妹とも言われている。母親は藤原為信の娘(役名:ちやは)。藤原宣孝の正室であったが、藤原道長の妾という説もあるとか。

……これは貴族たちの系図集『尊卑分脈』の記述です。どこまで本当なんだか、諸説まとめて紹介されていますね。

素直に文章を読むと、夫と死に別れた(結婚生活は3年ほどだった)後に道長の庇護を受け、妾となったのではないでしょうか。

ただしこれ以外の史料や文献で紫式部と道長の特別な関係を記したものはなく、俗説の域を出ないようです。

では単なる噂話に過ぎないのかと言われると身も蓋もないのですが、二人がそれらしい関係を匂わせたエピソードがない訳でもありませんでした。

道長のセクハラ、怒る紫式部

紫式部と藤原道長の関係は? 道長の妾という説も

藤原道長。菊池容齊『前賢故実』

すきものと 名にし立てれば 見る人の
折らで過ぐるは あらじとぞ思ふ

【意訳1】これだけ見事な(酸き=酸っぱい)梅の花ですから、枝を折って持って行かない人はいないでしょうね。

【意訳2】数寄者(好色者)と評判のあなたですから、男が素通りするはずはありませんね。

これは道長が紫式部に詠んだ歌。主人公の光源氏が様々な女性と恋愛模様を繰り広げる『源氏物語』の作者である貴女は、さぞ好色なのでしょう……って、随分なセクハラですね。

当然、紫式部も怒って返歌を寄越しました。

人にまだ 折られぬものを たれかこの
すきものぞとは 口ならしけむ

【意訳】私はまだ誰の手に折られたこともありません。それなのに、根も葉もない噂を立てたのは誰でしょうね!

ちなみに紫式部はこの時点で夫・藤原宣孝と死別した未亡人。一女(藤原賢子・大弐三位)の母となっていますから、おそらくアラフォーくらいでしょうか。

この「折られた」はきっと婚外関係を指しているものと思われます。

普通なら、これで「フラれた。次に行こう」と思うものですが、当時の恋愛的やりとりはまず一度女性から拒絶するのがお約束。本当に脈がなければ返歌などありませんから。

という訳で道長は次の段階に踏み込もうとしたのでした。そう、夜這いです。

夜這いに失敗!道長の恨み節?

紫式部と藤原道長の関係は? 道長の妾という説も

画像:藤原道長 public domain

ある夜のこと。門の戸を激しく叩く者がいました。紫式部は怖くて返事もせず、震えながら一夜を明かしたとか。

すると翌朝。道長が恨みがましく歌を詠んで寄越しました。

夜もすがら 水鶏(くいな)よりけに なくなくぞ
まきの戸口に たたきわびつる

【意訳】一晩中、水鶏のように鳴きながら戸を叩いていたのに、どうして戸を開けてくれなかったのですか?

……どうしても何も、怖かったからに決まっています。まったくあんな狂ったように戸を叩けば誰だって怖いでしょうよ……というわけで、紫式部の変かがこちら。

ただならじ とばかりたたく 水鶏ゆへ
あけてはいかに くやしからまし

【意訳】だって水鶏の鳴き方が尋常じゃない様子だったのですもの。もしあの時に戸を開けていたら、夜が明けてからさぞかし悔やましかったでしょうね。

……どうせ本気で妻にする気もないくせに、道長の気まぐれにつき合って、つまらぬ浮名を流しでもした日には「ホラ見たことか。『源氏物語』の作者は相当な好色だ」と囃されてしまうことでしょう。そうなったら後悔しても取り返しがつかないのです。

当世随一の権力者であった道長の寵愛を欠片でも受けられるなら、当時の女性たちとしては羨ましい限りだったでしょうが、紫式部にとっては恥ずかしさの方がまさったのでした。

終わりに

画像:紫式部 public domain

結局のところ、紫式部が藤原道長の妾となったかどうかについては、断片的な記録しかないため分かりません。

ただ、この「くっついたの?くっついてないの?どっちなの?」という実にあいまいで思わせぶりな関係こそ、彼ら彼女らが尊んだ「もののあはれ」なのだと思います。

NHK大河ドラマ「光る君へ」では、そのじれったさがこれでもかと描かれることでしょう。色恋ごとには疎い筆者ですが、雅やかな恋の一幕も楽しむ余裕をもって鑑賞したいですね!

※参考文献:

  • 岡本梨奈『面白すぎて誰かに話したくなる紫式部日記』リベラル新書、2023年11月
  • 藤原公定 撰『新編纂図本朝尊卑分脈系譜雑類要集 第5巻』国立国会図書館デジタルコレクション
角田晶生(つのだ あきお)

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