光る君へ

【光る君へ】刀伊の入寇で受けた被害はどれほど?藤原実資『小右記』を読んでみた

NHK大河ドラマ「光る君へ」も、いよいよ最終回ですね。

第46回放送「刀伊の入寇」では、異民族の襲来によって、甚大な被害がもたらされました。

実際のところ、どれほどの被害を受けたのでしょうか。

今回は藤原実資の日記『小右記(しょうゆうき)』から、刀伊の入寇における被害状況を確認しましょう。

各地の被害状況

邦人を拉致する刀伊の海賊(イメージ)

『小右記』では、刀伊の入寇における被害を地域ごとにまとめています。

【筑前国志摩郡】の被害状況

※福岡県糸島市北部と福岡市の一部。
殺害112名
拉致435名
牛馬74頭(喰われた?奪われた?)

【筑前国早良郡】の被害状況

※福岡市城南区・早良区ほか。
殺害19名
拉致44名
安否不明1名
被害総数64名(うち男性24名、女性40名)
※殺害と拉致の内訳は不明
※安否不明1名は、原文の数が合わなかった者をあてた。
牛馬6頭(喰われた)

【筑前国怡土郡】の被害状況

※福岡県糸島市南部と福岡市の一部。
殺害49名(男性と子供43名、女性6名)
拉致216名(男性38名、女性178名)
牛馬34頭(牛16頭、馬18頭。喰われた?)

【筑前国能古島】の被害状況

※福岡市西区能古島。
被害者9名(女性6名、子供3名。殺害?拉致?)
牛馬68頭(馬44頭、牛24頭)

【壱岐国】の被害状況

※長崎県壱岐市。
殺害149名(壱岐守・藤原理忠ほか、男性44名、僧侶16名、子供29名、女性59名)
拉致239名(女性など。詳細不明)
生存者35名(諸司9名、郡司7名、百姓19名)

【対馬国】の被害状況

※長崎県対馬市。
殺害18名
拉致116名(男性33名、女子供計83名)
対馬銀山が焼損
※恐らく対馬銀山周辺の被害を特筆したものと思われる。

【対馬国上県郡】の被害状況

※長崎県対馬市北部。
殺害9名
拉致132名(男性39名、女性と子供93名)

【対馬国下県郡】の被害状況

※長崎県対馬市南部。
殺害107名(男女合計)
拉致98名(男性30名、女性と子供68名)
または被害者数382名(男性102名、女性と子供280名)という情報もある。ただしこれが殺害なのか拉致なのか、単に負傷者なのかは不明
住宅火災45軒(全焼)
牛馬被害199頭(馬82頭、牛107頭。喰われた)

『小右記』原文

藤原実資。菊池容斎『前賢故実』より

……筑前志摩郡人五百四十七人、被煞害者(さつがいせらるもの)百十二人、追取者(おいとらるもの)四百三十五人、牛馬七十四疋頭、
早良郡人六十四人、男廿四人、女四十人、牛十頭、馬九疋(※牛を頭、馬を疋と数えることが多い)、被煞害者十九人、被追取者四十四人、被切食(きりくわるる)牛馬六疋、
怡土郡二百六十五人、被殺害四十九人、(男童并四十三人、女六人)、被追取二百十六人、(男卅八人、女童并百七十八人)、牛馬卅疋頭、牛十六頭、馬十八疋、
能古島人九人、女六人、童三人、駄(だ=馬)四十四疋、牛廿四頭、
壱岐島
守(かみ。国司)藤原理忠(まさただ)被煞害、被煞害島内人民百四十八人、男四十四人、法師十六人、童廿九人、女五十九人、被追取女等二百卅九人、
遺留人民卅五人、諸司九人、郡司七人、百姓十九人、
對馬島
銀穴(ぎんけつ。銀山)焼損事(やかれそんずること)云々、
被煞害人十八人、被追取人百十六人、男三十三人、童女合八十三人、童廿八人、女五十六人、(○恐有誤)、以上百三十四人、
上縣郡百四十一人、
被煞害人九人、被追取男女童并百卅二人、男三十九人、女童九十三人、
下縣郡「男女并百七人、」
被煞害男女并百七人、被追取男女童九十八人、男三十人、女童并六十八人、
○此間恐有誤字、
并三百八十二人、男百二人、女童二百八十人、
被焼亡(じょうもうせらる)人々住宅四十五宇(う=軒)、
為賊徒被切喰牛馬(ぞくとがためにきりくわるるぎゅうば)百九十九疋頭、馬八十二疋、牛百十七頭、……

※『小右記』寛仁3年(1019年)6月29日条

こちらが藤原実資『小右記』に記録された、刀伊の入寇における被害状況です。先ほどの数値はこれを元にしています。

刀伊の入寇における戦闘は筑前国那珂郡(福岡県春日市・那珂川市など)や肥前国松浦郡(佐賀県北部・長崎県北部)でも行われており、被害の全容を網羅したものではないようです。

それでも広範囲にわたって戦闘が繰り広げられたことが分かり、多くの人々が犠牲となったことは間違いありません。

また犠牲者数は民間人に限られているようで、官衙の将兵についてはカウントされていないものと見られます。

撃退の武功を立てた者たちに恩賞がなかったくらいですから、犠牲となった人々に対する補償や生活支援はなかったのでしょう。

殺された人々は言うに及ばず、生き残った人々にとっても苦難を強いられたことは想像に難くありません。

終わりに

今回は寛仁3年(1019年)3~4月にかけて発生した刀伊の入寇における各地の被害状況をまとめました。

いつの時代も戦争は悲惨なものですが、そんな中でもしたたかに生き延びていく庶民の姿は、とても強く惹かれるものです。

これからも、そんな人々の悲喜こもごもを紹介していきたいと思います。

※参考文献:
藤原実資 著 ほか『小右記』国立国会図書館デジタルコレクション
文 / 角田晶生(つのだ あきお) 校正 / 草の実堂編集部

アバター画像

角田晶生(つのだ あきお)

投稿者の記事一覧

フリーライター。日本の歴史文化をメインに、時代の行間に血を通わせる文章を心がけております。(ほか不動産・雑学・伝承民俗など)
※お仕事相談は tsunodaakio☆gmail.com ☆→@

このたび日本史専門サイトを立ち上げました。こちらもよろしくお願いします。
時代の隙間をのぞき込む日本史よみものサイト「歴史屋」https://rekishiya.com/

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 【光る君へ】 なぜ藤原氏の紫式部が『藤原氏物語』ではなく『源氏物…
  2. 【光る君へ】 藤原氏の血を引く紫式部は、なぜ源氏を称える『源氏物…
  3. 入内から一気に没落…東宮妃となった藤原原子(道隆女)の末路 【光…
  4. 【光る君へ】 紫式部が源氏物語の着想を得た「石山寺」 魅力あふれ…
  5. 【光る君へ】 一条天皇の女御・藤原元子が父に勘当された理由は?
  6. 【光る君へ】 地方の最高責任者「受領」とは? 「治安の悪化と武士…
  7. 『平安の魔性の女』和泉式部の美貌と才能に惚れた男たちとの恋愛遍歴…
  8. 【光る君へ】刀伊の入寇で活躍した藤原政則とは何者?その武勇伝を紹…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

銃殺された独裁者チャウシェスクの妻・エレナ 「愚かな人口増加政策が招いたチャウシェスクの落とし子たち」

エレナ・チャウシェスクは、ルーマニアの独裁者であったニコラエ・チャウシェスクの妻にあたる人物です。…

岡崎体育が全力疾走!鳥居強右衛門こと鳥居勝商の壮絶な最期【どうする家康】

名もなきヒーロー、戦国版“走れメロス”鳥居強右衛門 とりい・すねえもん[岡崎体育 おかざきた…

村上義清 〜武田信玄を二度退けた武将

信玄を退けた武将村上義清(むらかみよしきよ)は北信濃の戦国大名として、一度ならず二度までもあの武…

新陰流の四天王・奥山公重 「徳川家康の剣術指南を務めた海内無双の兵法者」

奥山公重とは奥山公重(おくやまきみしげ)は、剣聖(けんせい)と名高い上泉信綱(かみいずみ…

【くずし字に挑戦】読める…読めるぞ!地元神社に佇む石碑の文字がここまで読めた!

地元神社の境内にたたずむ一基の石碑。もう永く放置されていますが、その碑面には弘法大師(こうぼ…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP