NHK大河ドラマ「どうする家康」、皆さんも楽しんでいますか?
筆者もこの先どんな展開になることかと、毎週画面に目が釘付けです。
さて、第38回放送「唐入り」では豊臣秀吉らが仮装しながら乱痴気騒ぎを繰り広げていた場面をご記憶でしょうか。
秀吉「瓜はいらんかえ?瓜はいらんかえ!」
♪味よしのう~りうり、召され、召され、召され候(そうら)え……♪
家康「あじか売りにございまする~!」
我らが神の君こと徳川家康の扮したるは蕢(あじか)売り。これは竹などを編んだザルやカゴのことです。
果たして、本当にこんなことがあったのか……調べてみたら『太閤記』にこんな記述を見つけました。
時は文禄3年(1594年)6月28日(※実際は文禄2・1593年)のことです。
味よしの瓜、召され候え……♪
文禄三年六月廿八日のことなるに瓜畑なとひろく■りなし■■取尓おゐて。瓜屋旅籠やをいか■も廉■尓い■れミ。瓜あさ人のま■■なされつゝ。各をも慰め。又■んをも慰ミ給ひ津く。長陣乃労を補ひ■■したり。御■立は柿帷をめされ尓■乃古しミの黒き頭巾菅笠を御肩尓■し。味よしの瓜めされ候へ候へと呼しハ。■商人尓違ふ■もならて。御さくさく■あ里しなり。
※『太閤記』巻第十五「秀吉公異形之出立尓て御遊興之事」より
※■は未判読。また判読部分についても、誤読の可能性があるためご参考程度に願います。以下同じ
秀吉は朝鮮出兵(文禄の役)における将兵の労苦をねぎらおうと、瓜売りに扮しておどけようと思い立ちました。
「味よしの瓜~召され候え~候え~」
柿色の帷子(かたびら)に黒い頭巾をかぶり、菅笠(すげがさ)を肩にかけた様子は、まるで昔からずっと瓜を商ってきたかのよう。
昔から、いつも面白いことを思いつかれる太閤殿下のこと。それはもう堂に入った瓜売りぶり。ふざける時も真剣なのが秀吉流の楽しみです。
しかし笑ってばかりもいられません。まさか太閤殿下が率先して皆を笑わせようとしているのに、周りの者がただ笑ってばかりでは芸がない。
そこでさっそく、みんな思い思いの扮装を始めたのでした。
11人の愉快な男たち
一 江戸大納言家康公ハあし可うり尓成せしき。大やう尓あし可かハし。かハしと■しのの尓も。又よく似伎里しなり。
※『太閤記』巻第十五「秀吉公異形之出立尓て御遊興之事」より
エントリーNo.01……江戸大納言こと徳川家康。
こちらは大河ドラマでも演じられたようにあじか売り。
「あじか、買わし!買わし!」と実に大様な営業スタイル。きっと「武士の商法」さながらな大胆ぶりだったのでしょう。
一 丹波中納言秀秋ハ。漬物ノ瓜をにないて。か■も里乃瓜。瓜めせ瓜めせと■つ可にのゝし里候ひし可。ぶてうほうに■しなり。けふも■きしの■何事も無功尓有し可と思はれて。年ハよ可■き物なり。いやよ可ましき物ても有と云人も多可りしなり。
※『太閤記』巻第十五「秀吉公異形之出立尓て御遊興之事」より
エントリーNo.02……丹波中納言こと小早川秀秋。
秀吉の甥っ子に当たります。彼は瓜の漬物を担って売り歩きますが、庶民の暮らしに馴染みがないせいか、不調法な様子だったそうです。
一 常真公ハ遍参僧尓成候■て。文庫をあさ■しける可同宿尓■せ修行の折尓物し候へとも。蛇尓衣をきせてるやうにして。大ちやく尓■之し。
※『太閤記』巻第十五「秀吉公異形之出立尓て御遊興之事」より
エントリーNo.03……常真こと織田信雄はお遍路さんに扮しての登場。
「蛇に衣をきせてるやう」というのは、一体どういう状態なのか、あまり似合っていなかったのかも知れませんね。
一 加賀大納云利家ハ。高埜ひ志り乃■ひを肩尓可け。屋と屋とと■を■く引く。い可尓も屋とかり侘し■■。左も有け尓■して。帰あハ■を催し侍里し。
※『太閤記』巻第十五「秀吉公異形之出立尓て御遊興之事」より
エントリーNo.04……加賀大納言こと前田利家は高野聖(こうやひじり)の扮した様子。
宿を求めているのでしょうか、実に侘しい感じを演出していたようです。
一 会津忠三郎氏郷ハ。荷奈ひ茶うり尓成て。秀吉公へ極上の茶を立まいらせつ。代を御よくこひ候し一興ありて
※『太閤記』巻第十五「秀吉公異形之出立尓て御遊興之事」より
エントリーNo.05……会津忠三郎こと蒲生氏郷。
こちらはお茶売り。秀吉にとっておきのお茶を提供し、そのまま行ってしまわれたので「ちょっと、お代を払って下さいよ」と一芝居。
一 三松老ハあ■さ■帷を上尓うちはをり。御かめせめせ。又御用の物も奈と立つく。うそめ記歩忍ませ■尓又拘可しし。
或曰。三松ハ尾州武■家なり。津川玄蕃允の舎兄尓ておハせしなり。
※『太閤記』巻第十五「秀吉公異形之出立尓て御遊興之事」より
エントリーNo.6……三松老こと斯波義銀。
元々は尾張国守護職でした。帷子を羽織って何か「召せ召せ」と言っているようですが、何でしょうか。
一 織田有楽老ハ客僧尓御立せ候ひ。修行志の老僧尓瓜御結縁あらぬ可と請■ひし可ば。秀吉公■御可しり二■したまふを。いや是ハ熟せぬとて。い之しきをと取ら■■し■■し。
或曰■人ハ織田備後守■の末子。源五と云し人之
※『太閤記』巻第十五「秀吉公異形之出立尓て御遊興之事」より
エントリーNo.07……有楽斎こと織田長益。
信長の弟です。既に出家していながら、あえて修行僧のコスプレという手抜き?仕様。秀吉の売っていた瓜に何やら御託を垂れているらしく、結縁だの熟せぬだの、何やら意味ありげですね。
一 有馬中務■■■ハ。■■乃池坊尓成て湯文を■■り。■■る乃湯の■を古と古としく云立候し。取可■実尓記作意可れと思ハれ。■人ハ■毎のお■■■しく伎■んとおもハき。う■屋ましうそ■■け奈。
或曰。此人ハ摂州有馬郡の主として。代々目出人なり。玄蕃允父是なり
※『太閤記』巻第十五「秀吉公異形之出立尓て御遊興之事」より
エントリーNo.08……中務こと有馬則頼。
元は大名でしたが、秀吉の御伽衆として仕え茶人としても知られています。文中「池坊になりて」とありますが、これは生け花でも披露したのでしょうか。
一 前田民部■玄以法印ハ。比丘尼尓成候し可。せい高くふとり■■■びくにの。尓くていなる可■さ可”に■し可”。■可しげなる■して。■く念佛を■■尓申セハ。必佛尓なるそと説法し伎りぬ。■■■■世を第一尓■に可け。来世くるハ第九第十尓■ひ候無し。念佛もむ■可しく伎■ハ。晝寝をして聊気をも助け。心を正尓もちな■へし。ひさ■り現世の理尓背ぬやう尓とのミ行ひ■へし。生れ来奈る父母の気より■。父母の気ハ天地■気也。三■■気ハ不生不滅奈れハ。人道として按排する事しな■■奈事なり。右■■禰宜普化僧はちたき。猿つ可ひ様■■々乃出立有し奈り。
※『太閤記』巻第十五「秀吉公異形之出立尓て御遊興之事」より
エントリーNo.09……民部法印こと前田玄以。
こちらは比丘尼(びくに)つまり尼さんの格好で登場しました。身長も高くがっちりと固太りした尼さん姿は、一際異様だったに違いありません。彼女の念仏を聞けば、たちまち成仏できることでしょう。
一 旅籠屋の亭主尓ハ蒔田権作成尓■り。加くハ■■■とて将軍の御中居なりし可。白きすくしを志し。くろき■んをの奈可け。■■きハ紅の糸尓てうち■なり。
※『太閤記』巻第十五「秀吉公異形之出立尓て御遊興之事」より
エントリーNo.10……蒔田権作こと蒔田広定(まいた)が務めるのは、旅籠(宿屋)の亭主。
はしゃぎ疲れた皆さんを、ゆっくりおもてなししたのでしょうか。
一 茶屋乃亭主尓は三上与三良を奈し給ふ。加くハ■■なつとて是も将軍御そはち可う在しを。■日計や■ハ可さしめ候ふ。出立はあらましき■ろく袖乃ゆ可た。志■■の加可さん。なんばんづきむを可ふ川■く。御茶上りに合あた■可■■まんちうもおハしまし候奈と云々り。又■つ■ハ■■まいり■。あま酒もきり麦も御入■と云々。
※『太閤記』巻第十五「秀吉公異形之出立尓て御遊興之事」より
エントリーNo.11……与三郎こと三上季直が演じたのは、茶屋の亭主。
こちらも皆さんにお茶を提供するだけの簡単なお役目……だったかどうか。
お茶の他にも饅頭や甘酒、切麦(うどん)も提供したようで、大忙しだったのかも知れません。
終わりに
■■を引志やうし申せは。事外の御機嫌尓て布袋の笑ふやうに。目も口もなき計尓■んさせ給ふ。
※『太閤記』巻第十五「秀吉公異形之出立尓て御遊興之事」より
「いやぁ、愉快々々……」
みんなそれぞれの名(迷?)演技に、秀吉は大満足。まるで布袋様のような、目も口もわからないほど喜んだと言います。
突拍子もない思いつきでみんなを振り回しながら、それでいて憎めない。そんな秀吉にこそ、人はついつい誑しこまれ、とうとう天下まで獲らしめたのでしょう。
NHK大河ドラマ「どうする家康」では徹頭徹尾ゲスいキャラだった秀吉ですが、こんな愛すべき一面も知って貰えたら嬉しいです。
※参考文献:
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