学校の歴史の授業などで、埴輪(はにわ)の存在は広く知られている。
土で作られた土器製品であり古墳から出土する。ややコミカルにも見える造形は、マンガやアニメなどでキャラクター化・アイコン化されるケースもある。
さて、この「埴輪」がいわゆる副葬品や魔除けのような意味合いで使われているのではないかということは、少しでも古代史などに関心を持ったことがあれば想像できるだろう。しかし、実のところ「埴輪とはどのようなものか」「役割に関する諸説」「埴輪の種類」など、埴輪に関して詳しく知らない点も多いだろう。
名前は度々耳にしていながらも詳しく関心を持つ機会が少ない埴輪について、この記事で少しだけ深堀りしてみよう。
埴輪と土偶の違い
埴輪を語る際に、もうひとつよく似た存在として「土偶」を思い出す人がいるかもしれない。
土偶は、概ね紀元前10世紀までの縄文時代に作られていたものを指すというのが一般的で、埴輪は3世紀~7世紀頃の古墳時代に作られたものを指すことが多い。
ちなみに後述するが、埴輪は動物などの「人物以外」のものや、住居、船など、非生物の形を模したものが存在するが、土偶は基本的に人物と霊的存在(神・精霊など)を対象としており、非生物のものは存在しない(ただし、一部動物を模した土器を「土偶」の定義に含める説もある)。
しかしながら、「埴輪」を指して「埴輪土偶」と呼称していた時期もあり、この両者を厳密に分離することは現状では難しいとされる。この記事では便宜的に、「埴輪」を「古墳時代に作られたとされる人物・動物・非生物の土師器(はじき)」に限って解説しよう。
埴輪の役割と製法
埴輪は、粘土をこねて釉薬をかけずに焼く「素焼き」で作られる土製品である。建築や園芸などに詳しい人であれば、「テラコッタ」の名称が馴染み深いだろうか。
埴輪の構造的には中空(中身が詰まっていない)のものが多いため、まず粘土を紐状に形成し、それを積み上げながら形をつくっていくという製法で作られている。また、とくに重要な埴輪には、赤色の顔料(ベンガラなど)が塗布されたものも存在する。
こうして作られた埴輪の役割であるが、「古墳」から出土することから、「副葬品」の一種であると考えられている。ただし、中国の兵馬俑などとともに埋葬される生活用品とは異なり、死後に死者が使用する「冥器」というよりは、葬送の儀礼に使う儀式用具とする意味合いが強かったほか、墳墓を「聖域」として区画するための役割を持っていたとされる。
埴輪には盾や甲冑、武器などのものもあるが、これらは死者が使うというよりも「魔除け」「災いを防ぐ」という意味を持っていると解釈する向きが強いようだ。また、墳墓に並べられている人型埴輪は、葬送の儀式そのものを再現しているという説もある。これらは生者側からみた目的である。
また、死者の側からの目的にはいくつかの説があるが、主要なものとしては死者の霊が生活するための依代であるという説もあり、その場合は「冥器」との類似性も生まれてくるであろう。
埴輪にされた身近な動物
先に解説したように、埴輪は人物を模したものだけではなく、動物を模したものもある。
動物といっても多様な種類があるわけだが、どのような動物が選定されたのかというと、やはり古墳時代の人々の生活に密接に関わっていた動物のものが多い。
例としては、人々の生活を助けていたであろう「馬」や、身近に存在していて、当時の人々が頻繁に目撃していたであろう野生動物の「猿」「イノシシ」の埴輪もある。
もちろん、古代から人とともに生活してきた「犬」も埴輪になっているようだ。
(※参考リンク http://www.mozu-furuichi.jp/jp/column_qa/vol004.html)
これも埴輪に?変わり種の埴輪
身近な動物や死者が生前使っていた家、船なども埴輪になることについては先に解説したとおりであるが、中にはなぜそれを埴輪にしたのかと一瞬考えてしまうものもある。
千葉県成田市の遺跡から出土した埴輪には「ムササビ」を模したものが発見されている。
【あにまる×Zoom!】千葉県成田市の古墳時代後期の遺跡から出土したムササビのはにわ。数ある動物はにわの中でムササビを造形したものは唯一これだけです。それほど身近な動物でもなく、狩りの対象でもないムササビくん。どうしてはにわになったのでしょうか、本人も驚いているような顔をしています。 pic.twitter.com/Cx98Yohrn9
— 福島県立博物館【公式】 (@fukushimamuseum) October 18, 2019
リスに近い形態であるが、しっかりと「飛膜」があるため、ムササビであると考えて間違いないようだ。
また、同じ千葉県でも芝山町で出土した「ニワトリ」を模したもの、大阪府で出土した「水鳥」を模したもの、奈良県で出土した「牛」を模したものなども変わり種といえよう。
またこのほか、埼玉県では「踊る人々」と呼ばれた独特のポーズの埴輪も出土している。
ややコミカルに見える表情とポーズであるが、現在の研究では、馬を引く「馬飼」の姿を模したものであろうとされている。この馬飼型埴輪は共通して「足」が表現されていないことも特徴的だ。
人物を模した埴輪の中では、武具を身に着けた「武人型」が有名だが、この「馬飼型」や、大阪府で出土した「力士型」など様々な種類がある。
このように、様々な表現がなされている埴輪だが、まだ研究が継続されているテーマも多くあり、人々の関心を集めている。
おわりに
「埴輪」や「土偶」「土器」は、一見すると違いがわからない、なんのために作ったのかわからないなど、今までそれほど関心を持ってこなかったという人も多いかもしれない。
しかし、それぞれの埴輪や土偶、土器などは、目的があって作られたものであることは間違いないだろう。何を表現したかったのか、なぜその姿を作ったのか、それぞれにどのような違いがあるのかなど、興味を持てるポイントは次々と浮かんでくる。
歴史の授業では1ページにも満たない記述量だが、深堀りして調べていくと、この時代の人々の生活や、当時の人々の価値観が垣間見えてくるかもしれない。
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