アメリカ人の休日といえば、庭先でのバーベーキューがイメージされる。
時には友人や近所の家族を招き、主人はビールを片手に肉を焼く。広い庭で子供たちが遊び、一日を談笑して過ごすイメージである。
実際、毎週とまではいかなくても、バーベキューをする頻度は高いようだ。しかし、日本式の簡易的なバーベキューでさえ後始末が大変なのに、アメリカ人はなぜそこまでバーベキューが好きなのか?
本格的なバーベキュー設備
まず、日本のバーベキューとアメリカのバーベキューの違いがある。
日本式のバーベキューは薄い肉を高温で次々と焼く。
屋外版焼肉であり、アメリカ人には「barbecue(バーベキュー)」よりも、「korean barbecue(コリアン・バーベキュー)」つまり「韓国式バーベキュー」と言わないと伝わらないくらいだ。
アメリカのバーベキューは大きな食材を衛生的かつおいしく焼く調理法である。
食材を直火から遠ざけ、じっくりと時間を掛けて弱火で内部まで火を通す。それもただ焼くだけではなく、様々な焼き方を使い分け、大勢で一度に食べるスタイルで。焼いたそばから食べてゆく日本式と違い、調理を終えてから初めて食事がスタートするのだ。
そのために持ち運びが出来るグリルといった簡単な器具から、金属やレンガで作られた固定式のバーベキュー・ピットまで種類や大きさも様々にある。庭にピットのような専用設備を持つ家庭も珍しくない。
設備への思い入れからして日本とは違いのだ。
芝生こそアメリカ人の憧れ
アメリカは土地が広いために一戸建ての家を買いやすい。郊外なら中産階級の家族でも手が届く価格だ。しかも日本と違い、一生に一軒ということはなく、二軒目、三軒目と戸建てを引っ越す家族も多い。
私も以前、取引先のアメリカ人から「アメリカに来たらうちに泊まればいい」と言われ『本当にそんな映画みたいなことを言うんだな』と感心したが、それだけ彼らにとって戸建ては遠い夢ではないのだ。
そしてバーベキューと同じくらい思い入れがあるのが芝生だという。
バーベキューは裏庭で行い、前庭には手入れの行き届いた芝生がある家。それが彼らにとって憧れの家である。
芝生の起源は英国貴族の庭園にあり、それが大西洋を渡ってアメリカにもやってきた。当初はそんな庭付きの家を持てるのは一部の資産家だけだったが、戦後になり前庭の芝生はアメリカン・ドリームの象徴となったそうである。
その芝生にも各家庭でこだわりがあり、新しく引っ越してきた家族は近隣の住人から手入れについてレクチャーを受けるらしい。コミュニティーにおける大切なコミュニケーションである。
芝生付きの家の大きさならば、裏庭でバーベキューをするのにも十分な広さがある。さらに芝生を通して仲良くなった住人とのコミュニケーションにもバーベキューは最適ということらしい。
肉の種類
日本のバーベキューとの決定的な差が肉の種類である。
日本ではカルビやロースなど柔らかくて脂のある肉を好むが、アメリカ人は豚や牛のリブ、牛のブリスケットなどの柔らかくない肉を好む。リブはスペアリブでお馴染みの肋骨周辺の肉で、ブリスケットは主に牛の肩バラ肉のことだ。どれもフィレなどに比べて安い。
メインの食材は地方によっても異なるが、ラムやターキーを食べることもある。
※ブリスケット
アメリカ人の好みとして、赤肉がある。噛み応えがあり、脂の少ない肉だ。それをじっくり内部まで火を通したものが好まれる。
日本でレアに焼いたステーキの断面を見て「まだ焼けてないじゃないか!」と言ったアメリカ人もいたというから、その違いは歴然だ。
そして、そういう肉が安く手に入るのも特徴である。
試しに楽天市場で検索したところ、コストコのアメリカ産ビーフ肩ロースが約1,700gで4,000円ちょっとだった。
日本でこれなのだから、現地ではさらに安い。日本人からしたら羨ましいほどの量と価格である。
そうした肉を塊で買い、焼いて切り分けるのがアメリカンスタイルなのだ。
調理法
下味として、焼く前にスパイスをすりこんだり、マリネをしてから下味をつける。そこにトマトソースやウスターソース、果汁、ハーブなどの材料を混ぜたバーベキューソースを塗って焼き上げる。
このソースにもビネカーベースからトマトとビネガーを混ぜたもの、マスタードソースなど種類が多く、各家庭によってこだわりがあるようだ。
そうして下ごしらえした肉を、数時間かけてゆっくりと焦がさないように焼くのである。
焼き方も直火焼きの他、スモーク(燻製)、ローストなどあるが、一般的なのは蓋をして熱した空気で間接的に加熱するローストが多いらしい。さらに肉の焼き加減に合わせて、野菜も一緒に焼くのがアメリカのバーベキューだ。
バーベキューの役目
バーベキューの起源は、アメリカ南部で豚を長時間かけて丸焼きにするところから始まった。
このとき、家族だけでは食べきれず、野外に多くの人が集まって飲食を共にしたのがバーベキューの始まりである。
調理時には煙や匂いが大量に出るため、自然と屋外で焼くのが主流になったようだ。
つまり、多くの人が集まって食べる食事こそバーベキューということになる。
人が集まれば会話が生まれ、つながりも深くなる。話好きなアメリカ人らしい合理的な食事スタイルだ。
日本人から見ればアメリカ人のバーベキュー好きは凄いと思ってしまうが、彼らにしてみれば普段の食事と変わらない感覚なのだろう。
最後に
アメリカ人にとってのバーベキューとは食事を楽しむと共に、コミュニケーションを楽しむものだということが分かった。
専用の設備と広い庭があり、手馴れてしまえば準備も後片付けも大変ではないだろう。
彼らにとってバーベキューは我々が考えるほど特別なものではなく、生活の一部なのだ。
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