誰しも重い病気にかかったときには、すんなりとその事実を認めたくないものだ。特に精神疾患の場合は、目に見えないだけに社会的な支援の意識も低い。
うつ病や統合失調症など、その辛さや深刻さはおざなりにされてしまうのが現状である。
しかし、病気を受け入れることが治療の第一歩でもある。
そのためのひとつの選択肢として、精神障害の状態であることを認定してくれるのが「精神障害者保険福祉手帳(以下、障害者手帳)なのだ。
前進するための制度
障害者手帳の大きな目的は「障害者の自立と社会参加への促進を図る」ものであって、治療しながらも社会復帰を目指すための手助けになるように作られた。
障害者手帳を取得するということは、自分が重度な精神障害を抱えていることを認めるようで抵抗がある人もいるだろう。しかし、この手帳によってより早く社会復帰を果たせることもあるのだ。
それだけではない。日常生活において自治体や企業のサービスを無料、もしくは割引で受けることができる。
詳しくは後述するが、障害者手帳を持つことは決してネガティブなことではなく、より前向きに生活するために役に立つのだ。
とはいっても、やはりお役所仕事。交付の手続きも、どのように使えるのかもなかなか分かりづらい。
そこで、少しでも興味がある人のため、もしくはこれから必要になるかもしれない人のために、その内容をまとめてみた。
障害者手帳 の申し込み
【※手帳カバー(徳島県の例)】
障害者手帳の取得には、「申請書」、「診断書」、「本人の写真」が必要となる。申込書は役場の障害担当の部署や病院で手に入る。
そして、診断書は精神障害の初診日から6ヶ月以上経っていないといけない。精神疾患はその多くが半年以上の治療を必要とするので、その点は問題ないだろう。
これは病院の主治医に依頼することになるが、このときに診断書代がかかる(病院によって異なるが、約5,000円が目安)。写真は手帳の内側に貼り付けるため、履歴書などに使う写真でいい。
これらを揃えて役市区町村の担当窓口に提出すれば、審査が行われ、認められれば手帳が交付される。
有効期間は2年で、2年ごとに診断書と共に更新の手続きを行う。
等級の違い
障害者手帳には1~3の等級がある。それぞれ症状によって分けられるが、仕事ができないが、自宅での日常的な生活がどうにかこなせる程度ならば2級に相当するだろう。
1級は日常生活もままならなず、助けを必要とするほどの状態だが、実際はこの差が大きい。例えば1級で受けられるサービスと2級ではかなりの差があるのだ。
しかし、よほどのことでない限り2級か、より症状の軽い3級になると考えたほうがいいだろう。
なお、誤解されがちなのは、この等級が「障害年金」の等級と同じと思われてしまうことだ。障害年金は、身体・精神ともに障害を負った場合、申請することで受給できる年金のことだが、こちらも1~3の等級がある。しかし、障害者手帳は厚生労働省が交付し、障害年金は年金機構が支払うものなどで、審査基準や等級が違う。
つまり、障害者手帳2級が交付されたからといって、障害年金も2級が受給できるわけではないことは覚えておこう。
就労とサービス
では、具体的に障害者手帳はどのようなときに役に立つのか。
大きく分けて「就労」と「サービス」の2種類に分かれる。もちろん、厚生労働省が認めた障害者という証明にはなるが、それ自体にはあまり意味がない。
就労の場合は、NPOや自治体を通して障害者枠で雇用してくれる企業の斡旋や、就労に向けた適応訓練などに参加できる。市区町村の担当部署で紹介してもらうほか、病院のデイケアを利用することで、そこでも紹介してもらえるはずだ。その際に、条件として障害者手帳を所持していないと受けられないものもあるので、社会復帰を考えているなら、障害者手帳を持つことで選択肢が広がると思っていいだろう。
各種割引
サービスについては、各自治体や企業でかなり違いがある。
住民税や所得税など税金の控除があるが、これは1級取得者のみとなることが多い。同時に、様々な自治体での援助や公共交通機関の割引サービスも1級に限られてしまう。そのなかで、2級以下でも受けられる割引は携帯電話料金の障害者割引や、自治体が運営する美術館や博物館などの施設が割引、もしくは無料で利用できる。
映画館も自動発券機ではなく、カウンターで手帳を提示することで、ほぼどのシネコンでも1,000円で利用できるのは便利だ。さらにテーマパークなどでも特別なサービスが受けられる。
例えばUSJでは、「1デイ・スタジオ・パス」が通常\7,600円(税別)のところ、手帳の提示でなんと半額の\3,800(税別)となり、さらに同伴者も1名だけ同じ割引が適用される。
そして、東京ディズニーリゾートでは、割引はないが障害者のための「ゲストアシスタンスカード」があり、指定のアトラクションなどでキャストに手帳を提示することで発行してもらえる。これは待ち時間が長い施設で、事前に入場可能な時刻を記入してもらい、その時間に再度行けば待ち時間なく案内されるというシステムだ。
いずれにせよ、就労ができる段階でないのなら、こうしたサービスのほうが実質的なメリットが大きい。
最後に
日本におけるうつ病の人とその予備軍は1,000万人を超え、サラリーマンの約8割が予備軍であるともいわれている。
いつ自分が発症してもおかしくない病気なのだ。そうしたときのために利用できるものをあらかじめ知っておく必要はあるだろう。
今回は障害者手帳だったが、実際には身体的な障害者に対しては金銭の負担を軽減してくれるものが多く、手帳を利用する場合にはどのサービスが精神的な障害者に該当するのかを事前に確認すべきである。
関連記事:精神障害
「うつ病に『がんばれ!』はNGじゃない?!うつの人との正しい接し方」
「うつ病などで働けなくなったときの支援制度とは【失業保険・自立支援・障害年金】」
この記事へのコメントはありません。