海外

【国民の半分がねずみ講に加入した】 アルバニアの歴史

アルバニアの歴史

画像 : アルバニアの国旗。ど真ん中には双頭鷲の紋章がある

皆さんはねずみ講という言葉を聞いたことはあるのだろうか?

ねずみ講というのは簡単に言えば儲けをちらつかせて人々を勧誘し、高額な入会金を稼いで半分を創始者の儲けに、半分を紹介者にあげ、また人々を勧誘するというもので法律で禁止されている行為です。

しかし、そのねずみ講をしまくったせいで国が傾いた、とんでもない国が存在しているのです。

今回はそんなねずみ講をして潰れかけた国であるアルバニアについて紹介していきます。

アルバニア 基礎データ

アルバニアの歴史

画像 : アルバニアの位置 wikiより

アルバニアはバルカン半島の南西部に位置している国で、周りにはギリシャやマケドニアなどに囲まれています。

ちなみにこの国はヨーロッパの国では珍しくイスラム教徒が国民の大半を占めており、キリスト教があまりいません。

さらに元々社会主義国だったことや、後で紹介する通りねずみ講などのせいでヨーロッパでは一二を争うほど貧乏な国と言われています。

アルバニアのねずみ講が起こるまでの簡単な歴史

アルバニアは元々オスマン帝国に支配されていた地域でした。

しかし、1912年にオスマン帝国が第一次バルカン戦争に負けたことによってその2年後にアルバニア公国として誕生しました。

しかしこの国の政治基盤はとんでもなくゆるゆるであり、各地の有力者が内紛を起こすという無政府状態に突入。

この状態が10年ほど続いてしまいます。

画像 : ゾグー1世

1928年にゾグー1世がなんとか内紛を抑えると近代化を促進しますが、1939年にムッソリーニ率いるイタリアによってわずか4日で占領され、アルバニアはイタリアの傀儡となります。

しかし、1943年にイタリアが連合国に降伏すると1944年にソ連の援助を受けて、ホッジャをリーダーとするアルバニア社会主義人民共和国を成立させます。

アルバニアの歴史

画像 : エンヴェル・ホッジャ Enver Hoxha

しかし、このホッジャという男。

元々スターリン主義を熱狂的に支持していたので、1956年にソ連がスターリン主義を辞めるとホッジャはソ連と国交を断交。

さらに当時大躍進政策で大混乱に陥っていた中国に擦り寄っていくという、危険なルートを突っ走っていきます。

アルバニアの歴史

画像 : 中国とアルバニアとの友好を示すプロパカンダ。この頃の中国は今みたいに発展などしていない。

さらに1960年後半から中国が文化大革命を始めると、アルバニアはイスラム教徒が多くいるにもかかわらず、なんと無神国家を宣言しました。

こうしてイスラム教・キリスト教などの宗教が廃止されてしまいます。

これによって国内は大混乱に陥りました。

社会主義国における経済の停滞、さらには頼みの綱である中国の援助も打ち切られ鎖国状態に突入し、経済はめちゃくちゃとなりアルバニアはヨーロッパの最貧国となりました。

アルバニアのねずみ講

社会主義国になって経済がめちゃくちゃとなったアルバニア。

しかし1989年に転機が訪れます。

この年、なんとルーマニアやポーランドで共産党政権が倒され、東欧革命という大きなビッグウェーブがやってきます。

これを見た国民たちはアルバニアの共産党政権を打倒したのです。ホッジャは退陣し1992年に非共産主義政権が誕生しました。

これによってアルバニアは共産主義国から脱却することに成功しますが、これがとんでもない自体を招きます。

共産主義制から抜け出し資本主義制度を取り入れることになったのですが、その資本主義制度の導入があまりにも急激すぎたため、国内は再び大混乱となりました。

さらに国民たちは共産主義の生活にどっぷり浸かっているため、資本主義のシステムや金融に関する知識が無いに等しかったのです。

ここにねずみ講の集団が目をつけました。

当時お隣ではユーゴスラビア内戦が勃発しており、武器弾薬が不足していました。そこにねずみ講の人たちがこの武器の密輸のビジネスを始め、その資金をアルバニアの国民からねずみ講でむしり取ろうとしたのです。

その結果、「国民の半分がねずみ講に加入している」という異常事態が発生。しかし肝心の政府は外貨が獲得できるため黙認するという体たらくでありました。

そして1997年に内戦が終結に向かい始めるとビジネスは破綻。ねずみ講に加入した人たちの資金も全てパーになりました。

画像 : アルバニア暴動の様子 NATO軍が介入している

資金を失い怒り狂った国民たちは政府に対して暴動を起こし、ついには大統領を退陣にまで追い込みました。

結局NATO軍の力を借りてなんとか暴動を鎮圧しますが、これによってアルバニアの経済は今現在でもどん底をさまようようになってしまいました。

このアルバニアの暴動は、知識を持たずに行動するととんでもない末路が待っていることを、身をもって示してくれたといってもいいのではないでしょうか。

参考文献 : アルバニアインターナショナル―鎖国・無神論・ネズミ講だけじゃなかった国を知るための45カ国

 

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 【マカオの象徴】 聖ポール天主堂跡の歴史的価値と魅力 「4つの構…
  2. 中国人のビックリする習慣 【寝そべる、列に割り込む、道を渡る時は…
  3. 毛沢東はどんな人物だったのか?① 「中国共産党中央委員会主席とな…
  4. 「マカオのエッグタルトとその歴史」 アンドリュー・W・ストウの遺…
  5. モナコってどんな国? 「F1グランプリで有名」
  6. 1910年に中国で発生した「ネズミ伝染病」 ~6万人の命を奪った…
  7. NYダウ 一時2197ドル安【過去最大の下げ幅で2度目の取引中止…
  8. 『トランプ相互関税ショック』台湾が報復関税を仕掛けないワケとは

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

織田長益【信長の実弟にして秀吉・家康に仕えた武将】

有楽斎として高名織田長益(おだながます)は、織田信長の実弟に当たる武将・大名ですが長益より、…

なぜ人々は死者を撮ったのか?19世紀欧米で流行した「死後写真」文化とは

かつて欧米を中心に流行した、ポストモーテム・フォトグラフィーをご存知だろうか。日本語…

色々な「サラダの種類」について調べてみた

サラダが「ダイエットや健康のために仕方なく食べるもの」から「美味しくて種類も多く、写真栄えもする」と…

のぼうの城・成田長親 「領民に慕われ豊臣軍の水攻めに耐え抜いたでくのぼう」

のぼうの城和田竜さんの歴史小説「のぼうの城」が2012年に映画化されて大ヒット。その…

スーパーマリオ誕生について調べてみた 【モデルは不動産のビジネスマンだった】

はじめに2023年4月5日にアメリカで公開され、現在日本でも大人気公開中の「スーパーマリオブラザ…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP