神豚祭り
客家人(はっかじん)にとって、豚はとても聖なる生き物だ。
客家人とは元々は漢民族であり、ルーツを遡れば古代中国(周から春秋戦国時代)の中原や、中国東北部の王族の末裔とされている。
客家人は戦乱から逃れるために中原から南部へと移住し、定住することを繰り返してきた。移住先では、先住民から見ると「よそ者」であり「客家」と呼ばれるようになった。
客家人は海外華僑や華人としても多く存在しており、タイ、マレーシア、シンガポールなどの東南アジア諸国にも多くの客家人が住んでいる。
今回は筆者が長く在住していた、台湾の客家人について紹介しよう。
台湾の客家人にとって、豚肉は相手に対してもっとも敬意を表すことのできる贈り物で、とても価値があるとされている。
台湾の客家人は毎年「神豚祭り、神羊祭り」を行っている。
この神豚祭りは、台湾政府が客家の「無形文化財」として認めている祭りで、客家人の祭りの中で最も賑やかなものである。
日本統治時代にはすでに存在していた祭りで、元々は鶏を使っていたようである。しかし日本政府の勧めで豚にすると、さらに見栄えが良く、にぎやかになるということで豚に変更されたという。
「豚は重ければ重いほど良い、羊の角は長ければ長いほど良い」とされている。
ブクブクに太らせた豚の重さを競い、最も重いものを「神豚」として神に捧げるのだ。
そして角が最も長い羊は「神羊」とされる。
これは農作物の豊作を願う儀式となっている。
動物虐待なのか?
豚は重さを競うためにどんどん太らせる。豚は通常、三年ほどで大人へと成長する。
神豚に選ばれる豚の重さは、なんと600キロから900キロ近くにもなるという。
標準の豚の5倍から6倍である。
強制的にどんどん食べさせて活動を制限させるのである。太りすぎた豚は自分の足で体重を支えきれず動くことすらできない。骨格が変わってしまうのである。
そのため、食事はホースで無理やり口の中に押し込まれ、胃に直接流し込まれる。
これらの豚は1食でおよそ30キロ、1日5回も餌を食べさせられる。しかも高タンパクな餌となっている。
1食の費用は1000台湾ドル、今の日本円で大体4000円ほどの費用がかかる。2年飼育すると73万台湾ドル、日本円で300万円以上の費用がかかるのである。
さらに豚は暑さに弱いため、氷を置いたりクーラーをつけてやる必要がある。冬は暖房をつけるので光熱費も相当かかってしまう。
体を自分の力で起こすことが難しい状態では水を飲むことすら困難で、体温を調整することもできず脱水症状になりやすい。排泄も寝たまま行い、膀胱を圧迫した状態であるため、最後には排尿能力が無くなってしまうこともあるという。
運動も全くさせないので脂肪ばかりがついてしまい、多くの場合、深刻な心臓や腎臓の病気をかかえてしまうという。
このように、飼育の過程は豚にとって大きな苦痛を伴うものとなる。だが神豚に選ばれた豚は屠殺される際にもっと苦痛を味わう。意識がはっきりとした中で、喉に刃物を入れられるのだ。
血が流れて息絶えるまで、数十分も苦しみを味わうという。
この過程がとても残酷であるため「動物虐待」にあたるのではないかという意見もある。
かといって客家伝統の祭りを行わないわけにはいかず、現在は伝統とモラルの中での葛藤となっている。
2023年の神豚祭り
2023年、この神豚祭りに参加した豚の数は歴代で最も少なく、3頭だけであった。
コロナの影響もあり、最も少ない頭数で行われたのである。
神豚は110万台湾ドルから300万台湾ドル以上で売られる。日本円で約1350万円以上もの賞金が与えられるのである。
こうして様々な難しい状況を乗り越えて、最も重たい体重をたたき出した豚こそが「神豚」として選ばれる。
体重が重ければ重いほど病気などのリスクがあり飼育が困難になる。ある年、神豚を育てていた飼育者の豚は基準の体重に達していたが、祭りの二日前に死んでしまったという。
この飼育者の損失はかなりのものだっただろう。賞金がもらえなくなっただけでなく、飼育費用を自費で払う羽目になってしまった。
神豚に選ばれるのは、一種の博打なのだ。
考えられない。これは明らかに虐待行為に他ならないでしょう。無形文化財に指定されることも信じられないし、このような惨たらしい虐待に遭っているのに、もっと反対の声を挙げる動物保護団体はいないのか?この動物が豚だから?