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【IQ180の天才少女】母に高速道路に捨てられ、父からは売春強要『シーラという子』

男児を木に縛り、火をつけた少女

画像 : カリフォルニア州メアリスヴィルの街 cc Dorothea Lange

1979年6月、カリフォルニア州メアリスヴィルでシーラ・リノという6歳の少女が、近所の3歳の男の子を森へ連れ出し、木に縛りつけて火をつけるというショッキングな傷害事件を起こした。

男の子は全身にひどいヤケドを負い重体に陥ったが、病院で長期の治療を受け幸いにも命を取り留めた。

6歳の少女がこのような残虐な行為をした背景には、彼女の悲惨な養育歴があった。

母に高速道路に捨てられ、父に売春を強要されたシーラ

『シーラという子』

画像 : 母に高速道路で捨てられた少女 イメージ by草の実堂

シーラは、4歳の時に母親に捨てられた。

母親はシーラを車に乗せ、高速道路でドアを開けて彼女を道路に突き飛ばし、そのまま姿をくらましたのだった。

シーラは発見された時、高速道路の金網にしがみついていたという。
身体中には、虐待による多数の擦過傷と骨折の跡があった。

父親はアルコールと薬物の依存症であり、季節労働者用キャンプの水道も電気も引かれていない小屋に暮らしていたが、引き取り手がなかったため、シーラはそこで父親と2人で暮らすことになる。

シーラは父親から日常的にネグレクトと暴力を受けており、6歳の頃には売春を強要され、叔父からも性的虐待を受けていた。

その反動で、シーラはとても攻撃的な子どもになってしまう。

自分のすることを反対されたり抑えられたりすると叫び声をあげて暴れ、周囲の物を手当たり次第、破壊したのである。

父親から怒られても叩かれても泣かなくなり、誰に対しても敵対心を見せ、人を信用せず、放火や便のなすりつけなどの奇行で、警察の厄介になるようになっていた。

シーラは他者を攻撃することで、自分を守ろうとしていたのだった。

人生を変えた恩師トリイ・ヘイデンとの出会い

画像 : 教室で机や椅子を投げ暴れる少女 イメージ by草の実堂

3歳の男の子への傷害事件を起こしたシーラは、警察に身柄を拘束された後に精神病院に入るはずだったが、小児病棟に空きがなく、児童心理学者であるトリイ・ヘイデンの特別支援学級に通うことになった。

特別支援学級には8人のクラスメイトがいたが、シーラは些細なことでも激しく怒って暴力をふるい、机や椅子を投げたりして、彼らが自分に近づくことを許さなかった。

当時6歳だったシーラは、ヘイデンに以下のように宣言したという。

「私は絶対に泣かない。

誰も私を痛めつけることはできない。

私が泣かなければ、私が痛がってることはわからない。

だから、私を痛めつけることにはならない。」

小学一年生にも関わらず理路整然とした知的な言葉にヘイデンは驚いた。
同時に「彼女を愛することも、教えることも容易ではない」と直感したという。

ヘイデンはシーラの心の深い傷を理解し、彼女を支援するために全力を尽くすことを決意する。

まずヘイデンは、教室の二つの規則を彼女に伝えた。

「教室では誰も傷つけてはいけない」

「何事にも一生懸命、取り組むこと」

そして、ヘイデン自身もシーラに「私もどんなことがあっても、あなたを叩いたり傷つけたりしない」と約束した。

以来、ヘイデンはシーラの心を開かせるために一貫した愛情と理解を示し続け、攻撃的な行動に対しても冷静に対処し、少しずつ信頼関係を築いていった。

ダ・ヴィンチ並の「IQ180」を持つも、特別価値を感じない

画像 : IQ180〜220といわれるレオナルド・ダ・ヴィンチ public domain

ヘイデンは、シーラが攻撃的な行動を抑え、自分の感情を健全に表現できる手助けをするため、絵を描くことや物語を書くことを指導した。

そのプロセスを通して判明したのは、シーラが「人の感情」や「思いやり」などに関して、まったく理解できないことであった。
その一方で、数学や科学の分野に興味を示し、複雑で高度な論理的思考を備えていることもわかってきた。

シーラは、クラスメイトが理解できない複雑な問題を瞬時に解決することもでき、ヘイデンは彼女の知能に改めて疑問を持つようになった。

彼女の知的能力を正式に評価するため、ヘイデンは標準化された知能検査を実施。

その結果、シーラのIQ(知能指数)は、なんと180以上であることが判明したのである。

一般的な人間のIQは100、それ以上だと「高い知能」、IQ130以上だと「非常に高い知能」または「天才的知能」を持っていると定義づけられている。
歴史的人物では、レオナルド・ダ・ヴィンチガリレオ・ガリレイ、芸術家ミケランジェロなどが、IQ180以上の知能を有していたとされている。

しかし、シーラ自身は、知能検査の結果に対してとくに驚いた様子を見せなかった。
彼女にとって学習や問題解決は自然なことであり、特別なことではないと感じていたのだ。

一方、ヘイデンにとってこの結果は、シーラの教育と支援のプランを再考する重要な指針となった。

シーラは標準のカリキュラムでは満足できないため、ヘイデンはより高度な課題や創造的なプロジェクトを個別に提供し、彼女の知的好奇心を刺激することを試みたのである。

これによりシーラは学習に対する興味を深め、能力を最大限に発揮できるようになっていった。

演劇で感情解放し、トラウマを克服

ところが、シーラのIQが明らかになり学習意欲が向上した後も、彼女の情緒的な問題は依然として大きな課題だった。
絵を描き、物語を書くことで、彼女は少しずつ感情を表現する方法を学んではいたが、そのプロセスは亀の歩みであった。

そこでヘイデンは、シーラに学校の演劇プロジェクトの主役を勧めた。
彼女は消極的な反応を見せたが、ヘイデンとクラスメイトの励ましで挑戦を決意した。

リハーサル期間中、役に没頭することでシーラは自分の感情と向き合い、少しずつ解放していった。劇の本番で彼女は感情を表現し、観客に深い感動を与えたという。

その瞬間、シーラは過去のトラウマを克服し、自信を持つようになった。

この経験はシーラの人生の転機となり、未来に向かう力となったのである。

「IQ180」の卓越したビジネスセンスで、フランチャイズオーナーに

画像 : マクドナルド本社 (シカゴ) cc Dirk Tussing

シーラはその後、高い知能を持ちながらも大学進学を選ばず、就職の道を歩むことを決意した。

それは、彼女自身が安定した生活と、実践的なスキルを求めたためであった。

シーラは高校卒業後、マクドナルドで働き始め、高い知性とリーダーシップを活かして短期間で昇進を果たし、最終的にはマクドナルドの店舗マネージャーにまで出世した。

シーラの成功は、彼女の努力と粘り強さによるものだが、同時にヘイデンから受けた支援と教育も大きな役割を果たしていた。

さらにシーラは、マクドナルドの店舗マネージャーとしての経験を積んだ後、フランチャイズオーナーとなった。

経営管理のスキルをさらに磨き、顧客に愛される数々の店舗を運営した後、レストラン産業にも乗り出し、研ぎ澄まされたビジネスセンスを発揮している。

さいごに

シーラの半生とその回復のプロセスは、トリイ・ヘイデンによる著作『シーラという子~虐待されたある少女の物語』『タイガーと呼ばれた子~愛に飢えたある少女の物語 』に綴られている。

しかし、シーラ自身はプライバシーを大切にしたいという考えから、マスコミ取材やSNSなどの露出は一切していない。

唯一、親子関係や教育問題について考える、トリイ・ヘイデンの公式サイトに寄せたメッセージだけが残されている。

「今の生活を台無しにするようなことは、一切したくありません。

それでも、みなさんに挨拶するとともに、関心を抱いてくれたことに感謝して、いまは幸せに過ごしています。」

ヘイデンの教育方法とシーラとの関係は、知能や学習能力の評価が単なる数値ではなく、個々の子どもたちの背景や情緒的なニーズを考慮することの重要性を教えてくれている。

そして、トリイ・ヘイデンの教育現場におけるアプローチは、今もなお多くの教育者やカウンセラーにポジティブな影響を与えている。

参考 :
シーラという子〜虐待されたある少女の物語』トリイ・ヘイデン著
タイガーと呼ばれた子〜愛に飢えたある少女の物語』トリイ・ヘイデン著
トリイ・ヘイデン公式サイト 

 

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藤城奈々 (編集者)

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ライター・構成作家・編集者
心理、人間関係のメカニズム、スピリチュアル、宇宙
日本脚本家連盟会員

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