有事、特に軍事的な危機に直面した際、国民の安全を確保するためのインフラの整備は国家の責務である。
東アジアの地政学的リスクが高まる中、台湾と日本は、その地理的近接性から共通の脅威に晒されている。
しかし、国民保護の根幹である「シェルター」の整備状況において、両国間には決定的な差が存在する。

画像 : 台湾各地にある民間シェルター Solomon203 CC BY-SA 4.0
シェルター数の決定的な差
日本と台湾のシェルター整備状況を比較すると、その差は一目瞭然である。
台湾では、1974年に整備された建築関連法令に基づき、行政が指定する地域の一定規模以上の建築物に、防空避難設備(シェルター)を設けることが制度上求められている。
具体的には、新築時に地下部分などを防空避難に転用できるよう、構造や出入口を含めて一定の基準を満たす設計が必要とされる。
この制度の下、台湾では内政部のデータとして、全土に10万6,000カ所余りの防空避難設備があり、その収容可能人数は約8,665万人とされている。
これは台湾の全人口(約2,350万人)を大きく上回る規模で、空襲などを想定した短時間の一時避難先が面的に確保されていることを示す。

画像 : 台北101とスカイライン wiki © Heeheemalu
例えば、台北101のような大規模建築物も防空避難場所として指定されており、警政当局が公開する避難施設情報では、収容可能人数が約9万2,000人と示されている例もある。
一方、日本では、建築物に防空シェルターの設置を一律に義務付ける制度はない。
武力攻撃を想定した緊急一時避難施設として、コンクリート造りの堅牢な建築物や地下施設が指定されているものの、その数は台湾と比べて限られている。
近年になってようやく、台湾有事を想定し、沖縄・先島諸島の一部自治体で地下の滞在型シェルターを新設する計画が進み、2025年冬以降に順次工事が始まると報じられている。
ただし、こうした整備は国境に近い限られた地域にとどまり、全国的な体制とは言い難い。
政府は既存の地下施設などを活用し、1,000万人規模の収容人数確保を目指す方針を掲げているが、爆風軽減などに一定の効果が見込まれる施設に限れば、人口カバー率は約5%程度にとどまるとの試算もある。
結果として、日本の国民保護における「避難」は、深刻な武力攻撃を想定した防御力という点で、なお課題を残している。
台湾の危機意識
この差が生まれた背景には、両国の歴史的・地政学的な要因が深く関わっている。
台湾は、中国からの軍事的脅威という現実的な危機に、常に直面しているためだ。
この切迫した地政学的な状況が、国民一人ひとりの「自由を守りたい」という強い渇望と、政府による具体的な防衛・国民保護への統制的な取り組みを促してきた。
シェルターの設置が制度化され、地下街や建物の一部として当たり前のように使われている状況は、そうした危機意識が生活の中に組み込まれてきた結果と言える。
国民は防空訓練などを通じて、シェルターの場所や利用方法について一定の知識を持っており、危機管理意識が高い。

画像 : 中国人民解放軍 CC BY 4.0
日本の認識の遅れ
対照的に、戦後長きにわたり平和を享受してきた日本では、「有事は遠いもの」という意識が根強く残っていた。
集団的自衛権の行使容認など、安全保障環境の変化に伴う議論は進んでいるものの、国民保護という最も基礎的なレベルでの備えは遅れている。
大規模災害への備えは進んでいるが、ミサイル攻撃や核攻撃といった軍事的脅威への認識と対応は、台湾に比べて圧倒的に低い。
近年、日本の安全保障環境が急速に悪化する中で、ようやく国民保護のあり方が議論され始めているが、台湾のように建築法にシェルター設置を義務付けるレベルでの抜本的な改革には至っていない。
この決定的な差は、有事の際に国民の生存率に直接影響を及ぼすことを意味しており、日本は、この喫緊の課題に早急に向き合う必要がある。
国民の生命を守るという、国家の基本中の基本を再構築することが求められている。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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