城,神社寺巡り

奈良にかき氷ブームを呼んだ?氷室神社と「ひむろしらゆき祭」

近年、全国的にかき氷ブームが広がっています。

なかでも奈良市は、2014年に始まった「ひむろしらゆき祭」をきっかけに、早くからかき氷で盛り上がりを見せてきました。

今回は、この奈良市のかき氷ブームを支える、氷室神社とのつながりを紹介します。

氷室神社の概要

近鉄奈良駅から東へ向かうと、奈良国立博物館の少し手前に朱塗りの鳥居が見えてきます。

ここが氷室神社です。

奈良公園内に位置し、春には奈良で最も早く咲く枝垂れ桜が有名で、多くの観光客が立ち寄ります。

しかし普段は参拝する人は少なく、ひっそりとした神社です。

画像:氷室神社の鳥居 筆者撮影

氷室神社の創建は和銅3年(710年)、元明天皇の勅命により春日山の月日磐に氷神を祀ったことに始まります。

翌年には初めて献氷の勅祭が行われ、春日野に設けた氷室で貯えた氷を平城京へ献上する制度が始まりました。

平安遷都後に一時制度は廃止されましたが、貞観2年(860年)に現在地へ遷座。
その後は春日大社の別宮となり、現在は氏子と冷凍・氷業界の奉賛によって維持されています。

ご祭神は、大鷦鷯命(オオササギノミコト)、闘鶏稲置大山主命(ツゲノイナギオオヤマヌシノミコト)、額田大仲彦命(ヌカタノオオナカツヒコノミコト)の三柱です。

氷室神社の境内

氷室神社の境内は決して広くはありませんが、落ち着いた雰囲気が漂います。

朱塗りの鳥居をくぐると、両側に石灯籠が並び、右手には鏡池と呼ばれる小さな池があります。
春には枝垂れ桜が鏡池に映り込み、美しい撮影スポットとしても人気です。

石畳をまっすぐ進むと数段の石段があり、その先に四脚門(表門)が見えます。

門をくぐると拝殿兼舞殿が正面に建ち、その奥に三祭神を祀る本殿が静かに佇んでいます。

画像:氷室神社の拝殿 筆者撮影

桜の季節には多くの参拝客や観光客で賑わいますが、普段は静かな時間を過ごせます。

夏には拝殿前でミストが噴射され、参拝者に涼を届ける工夫もされています。

氷室神社の献氷祭としらゆき祭

氷室神社では、毎年5月1日に「献氷祭」が行われます。

全国各地から製氷・販売業者が参列し、事業の繁栄と業績向上を祈願する祭りです。
5月という時期はやや早い印象がありますが、製氷業界は6月以降が繁忙期となるため、その前に神事を行うのが習わしとなっています。

当日は、鯛(海の幸)や鯉(里の幸)を封じ込めた2基の大型氷柱や花氷、さらに6基の氷柱が神前に奉納され、舞殿では舞楽4曲が披露されます。

また、参拝者向けにはかき氷の頒布もあり、氷に感謝する祭りとして大切に受け継がれています。

さらに、2014年からは氷室神社と全国のかき氷専門店が連携した「ひむろしらゆき祭」も始まりました。

毎年献氷祭に合わせて、春日野国際フォーラム「甍」別館を会場に開催され、全国から有名店が集まり自慢のかき氷を販売します。

画像:氷室神社の献氷 筆者撮影

夏季(6月1日〜9月1日)には、個人でも献氷を体験できます。

社務所で初穂料(300円以上が目安)を納めると、かき氷を受け取り、拝殿前に供えて参拝します。
その後、撤饌(神様からのお下がり)として、かき氷をいただくことができます。

社務所横には自由に使えるシロップも用意されており、夏の暑さを和らげる特別な体験として人気です。

氷室神社の枝垂れ桜

氷室神社の枝垂れ桜は、奈良公園周辺のソメイヨシノよりも一足早く開花することで知られています。

例年3月中旬から下旬にかけて花を咲かせ、奈良の春の訪れを告げる桜として人気があります。
濃いピンク色の花が特徴的で、その艶やかな美しさは、大仏殿や春日大社に向かう観光客を思わず足止めさせるほどです。

枝垂れ桜は四脚門の手前に数本植えられており、開花時期には多くの人々が撮影スポットとして訪れます。

ただし、近年は木の老化が進んでおり、樹勢を保つための手入れも行われています。

画像:氷室神社の枝垂れ桜 筆者撮影

枝垂れ桜が咲く季節には、境内では白モクレンも満開となります。

桜の淡いピンクと白モクレンの純白が織りなすコントラストは非常に美しく、境内を一層華やかに彩ります。

枝垂れ桜と白モクレンが同時に見頃を迎える時期は短く、写真愛好家にも人気の撮影スポットとなっています。

おわりに

近年のかき氷は、味わいはもちろん、見た目の美しさにもこだわったものが増えています。

奈良を訪れる際には、人気店の華やかなかき氷を楽しむのも魅力ですが、氷室神社で献氷を体験し、神様からのお下がりとしていただく素朴なかき氷を味わうのもおすすめです。

歴史と涼を同時に感じられる、奈良ならではの体験になるでしょう。

氷室神社へのアクセス

所在地 : 奈良県奈良市春日野町1-4
【アクセス】
電車・バス : JR奈良駅または近鉄奈良駅から奈良交通市内循環バス(外回り)で約5〜10分、「氷室神社・国立博物館前」下車すぐ
: 名神高速「京都南IC」から京奈和自動車道経由 約60分 / 京奈和自動車道「木津IC」から南へ約7km / 第2阪奈有料道路「宝来IC」から東へ約8km / 西名阪自動車道「天理IC」から国道169号経由 北へ約10km
駐車場 : 乗用車40台 / 奉斎料20分300円・1日上限1,800円

拝観料 : 境内自由(祭礼時を除く)
開門時間 : 24時間(社務所受付は9:00〜16:00頃)

参考 : 『氷室神社公式HP』他
文:撮影 / 草の実堂編集部

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 『前田利家に森蘭丸…』織田信長の近習だった武将たち「大名になった…
  2. 【奈良の歴史散策】ならまちの庶民信仰とは?世界遺産「元興寺」とと…
  3. 豊臣秀吉は本当に『貧しい農民の子』だったのか?消された父と出自を…
  4. 【両性具有の神話】古代に語られた「男女の境界」を越える神々の伝承…
  5. 見せしめで晒し首…16歳で処刑されたおふうの悲劇 ~奥平家の栄華…
  6. 本能寺の変の原因をつくったのは武田を裏切った穴山梅雪? 明智光秀…
  7. 【娘の最期を絵に描いた絵師】芥川龍之介『地獄変』が描く狂気の芸術…
  8. 『音を聞くと命が奪われる?』 日本と西洋の“音の妖怪”たちの伝承…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

『鎌倉幕府の実態』 幕府と朝廷の二元的支配だった〜 「守護、地頭、国司」の違いとは

鎌倉幕府の支配基盤鎌倉幕府による支配を支えたのは、将軍と御家人(武士)との主従関係でした。…

【頑張って改革したのに5度の暗殺未遂】最後の爆弾で命を落としたロシア皇帝

ロシア帝国時代、「改革の皇帝」として名を馳せたアレクサンドル2世。彼は農奴解放令をはじめとす…

【3回見たら死ぬ絵】 終焉の画家・ベクシンスキーの芸術遍歴 〜「音楽、映画、建築、写真、彫刻」

ポーランドの芸術家・ズジスワフ・ベクシンスキー(1929~2005)は、「終焉の画家」「滅びの画家」…

レムリア文明について調べてみた

古代には、現代を生きる我々の想像をはるかに超える知識と技術を持つ文明があったと、一部の専門家…

戦国大名の家紋について調べてみた

15世紀後半の応仁・文明の乱以来、合戦が常態となる戦国時代が140年のあいだ続いた。60余州…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP