城,神社寺巡り

なぜ藤なのか?春日大社の神紋「下り藤」の由来と見頃スポット

世界文化遺産「古都奈良の文化財」を構成する春日大社は、奈良を代表する古社です。

その神紋(社紋)は藤原氏ゆかりの『下り藤』であり、古来より深い象徴性を持ってきました。

今回は、この神紋の由来とあわせて春日大社と藤の花との関わりや、境内にある『砂ずりの藤』、万葉植物園内の『藤の園』をご紹介します。

世界文化遺産の春日大社の概要

画像:春日大社本殿 筆者撮影

春日大社は、奈良時代の神護景雲2年(768年)に称徳天皇の勅命を受け、御蓋山の麓に創建されたと伝えられています。

鹿島神宮から武甕槌命(たけみかづちのみこと)、香取神宮から経津主命(ふつぬしのみこと)、さらに枚岡神社から天児屋根命(あめのこやねのみこと)と比売神(ひめがみ)をお迎えし、あわせて四柱の祭神を祀りました。

これらの神々は「春日神」と総称され、全国に約3,000社ある春日神社にも祀られています。

春日大社の神紋(社紋)の『下り藤』

画像:下り藤の家紋と神紋 イラストAC

春日大社の神紋(社紋)は『下り藤』です。

神社の神紋は、神木を象徴する紋様や伝承に基づく紋様、あるいは家紋から転用された紋様など、いくつかの系統に分けられます。

春日大社はもともと中臣氏・藤原氏の氏神を祀る神社であり、平安時代に都が京都へ移った後も、藤原氏の庇護を受けて繁栄しました。

藤原氏は氏の名にちなんで、古くから「藤の花」を大切にし、家紋として『下り藤』を用いました。
勢力拡大とともに家紋の種類は増えましたが、『下り藤』は一族を代表する紋として受け継がれてきました。

こうした背景から、春日大社の神紋も『下り藤』となったのです。

つまり、春日大社の神紋は、藤原氏の家紋が神社に取り入れられた例と考えられます。

このように『下り藤』が神紋となったことから、春日大社では古くから「藤の花」を大切にしてきました。

その象徴的な事例を次に紹介します。

春日大社の境内にある『砂ずりの藤』

画像:砂ずりの藤 筆者撮影

春日大社の南門から本殿境内に入ると、左手に藤棚があります。

花の季節になると見事な紫の花房が垂れ下がり、多くの参拝者を魅了します。

この藤は樹齢およそ800年と伝えられ、花の房が地面の砂に届くほど長く伸びることから「砂ずりの藤」と呼ばれています。春日大社を象徴する藤として、古くから人々に親しまれてきました。

花の時期には参拝者が多く訪れるため、全体を写真に収めるのは難しいほどの人気を集めています。

春日大社の万葉植物園内にある『藤の園』

画像:藤の園内の棚造りの藤例 筆者撮影

春日大社の手前には、同社が管理する「万葉植物園」があります。

およそ3ヘクタールの敷地には、万葉集に詠まれた植物を中心に300種以上の日本固有種が植えられ、四季折々の姿を見せています。園内は万葉園・五穀の里・椿園・藤の園の四つのエリアに分かれ、できるだけ自然の姿を保ちながら育成が続けられてきました。

この植物園の主役ともいえるのが「藤の園」で、約20品種・200本の藤が咲き誇ります。
見頃は4月末から5月上旬。紫の花房が風に揺れる光景は、訪れる人々を魅了してやみません。

藤といえば藤棚が一般的ですが、「藤の園」では棚造りに加え、立木造りも数多く見られます。

枝を自然に伸ばしたその姿は迫力があり、花を見上げるのではなく、目の高さで全体を眺められる点が大きな魅力となっています。

画像:藤の園 筆者撮影

このように、奈良を代表する世界文化遺産・春日大社は、藤原氏との深いつながりから『下り藤』を神紋とし、古くから藤の花を尊んできました。

花の季節に訪れれば、悠久の歴史の中で大切に守られてきた藤と春日大社との結びつきを、目の当たりにすることができるでしょう。

参考 : 『春日大社公式サイト』他
文:撮影 / 草の実堂編集部

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 不思議な『辻占い』が今も残る〜大阪「瓢簞山稲荷神社」に行ってみた…
  2. 『久米の仙人』で有名な久米寺に行ってみた 「仙人のちょっとエッチ…
  3. 小田原の松原神社例大祭に行ってきた
  4. 【京都の名庭園の歴史と文化】 京都駅から近い、東福寺・泉涌寺とそ…
  5. 『キリシマツツジの名所』長岡天満宮に行ってみた 〜幻の都・長岡京…
  6. 吉田城へ行ってみた【続日本100名城】
  7. 丹生川上神社下社ご神馬の「白ちゃん・黒ちゃん」 夕方5時になんと…
  8. 『縁結びスポット』淀殿も通った大阪・生国魂神社(鴫野神社)に行っ…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

小早川秀秋は裏切り者ではなく優柔不断だった?!

関ヶ原の戦いに終止符を打つ「裏切り」を演じた小早川秀秋。この事実により、後世では「裏切り者」「小心者…

華族令廃止後、たくましく生きた華族の女性たち「クラブ経営や女優」

朝ドラ『虎に翼』では、寅子の学友たちが再登場。それぞれが新しい道を歩み始めていますが、未だ姿を見せな…

プロは見られて上手くなる!『徒然草』が伝える芸能デビューと引退のタイミング

一昔ほど前のこと、お笑い芸人を目指していると言った者に対して「そういう学校に行くのもいいけど、路上ラ…

吉野家の歴史について調べてみた【牛丼】

国民食と言われて久しい牛丼ですが、今年は特にプレミアムな夏となっています。牛丼界の雄…

【参院選2025】日本人ファーストを掲げる参政党。急伸の理由は?街頭演説現場リポート

「日本人ファースト」を掲げて活動する参政党は、2020年の結党以降、一定の支持を集めて急速に存在感を…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP