魔力を帯びた剣「エクスカリバー」を手に、祖国ブリテンを守った英雄の物語。
しかし、アーサー王伝説はさまざまな設定や説があり、我々を混乱させてきた。では、アーサー王伝説の真実とはなんなのだろうか。
アーサー王伝説 の成り立ち
※アーサー王のタペストリー
世界的に有名なアーサー王 の伝説に原典は存在しない。
アーサー王は6世紀初めにブリトン人(ブリテン島に定住していたケルト系民族)を率いてサクソン人(ドイツ起源のゲルマン系民族)の侵攻を撃退したとされるが、その活躍は民間伝承や後世の創作によるものであり、アーサー王が実在した資料はない。
ブリテン島(イギリス本土)は、前1世紀頃からローマ共和国、ローマ帝国に支配されており、409年にローマ帝国がブリタニアを放棄した後は、サクソン人が相次いで侵攻してきた時代である。
アーサー王の伝説も本人同様はっきりとした資料はなく、作品によって登場人物、出来事、テーマがかなり異なる。しかし、12世紀のジェフリー・オブ・モンマスによる歴史書『ブリタニア列王史(Historiae Regum Britanniae)』が人気を博したことにより国を越えて広まった。
『列王史』には、現在の我々が知るアーサー王伝説の原点となるエピソードが記されている。
さらに12世紀のフランスの詩人クレティアン・ド・トロワはこれらにさらにランスロットと聖杯を追加し、アーサー王物語を中世騎士道物語の題材の一つとして完成させた。
アーサー王伝説のあらすじ
※アーサーの子・モードレッド
アーサー王伝説は一貫した物語ではなく、異なる時代、異なる人物により記されているため、大きく四つのエピソードに分けることができる。
・アーサーの誕生と即位。ローマ皇帝を倒し、全ヨーロッパの王になるまでの物語。
・アーサー王の宮廷(キャメロット)に集った円卓の騎士達の冒険とロマンス。
・聖杯探索。最後の晩餐で使われたという聖杯を円卓の騎士が探す物語。
・ランスロットと王妃グィネヴィアの関係発覚に端を発する内乱。王国の崩壊とアーサー王の死(アヴァロンへの船出)。
そこで、大まかではあるが、芯となるあらすじをまとめてみよう。
ブリタニア王ユーサー・ペンドラゴンと、彼が略奪したイグレインとの間にアーサーは生まれた。ユーサー王の死後、後継者が決まらず混乱していたブリタニアの大聖堂前に岩上に突き刺さった剣が出現し、「剣を抜いた者がブリタニアの王となる」という神の啓示が下る。
唯一、それを引き抜くことができたのがアーサーであった。それにより、彼はブリテンの王に即位、魔法使いマーリンや湖の貴婦人の助けを受けてサクソン人を撃退した。やがて、誰もが認める王となったアーサーはグィネヴィアを王妃に迎え、キャメロットに王都を築いた。城には、大人数が身分の区別なく座れる円卓を用意し、ここに座りアーサー王に率直な意見を述べられる円卓の騎士が集うことになったのだ。
しかし、円卓の騎士のひとりであり、「この世で最も誉れ高き最高の騎士」とまで謳われたランスロットがグィネヴィアと恋仲になったことでアーサーとは敵対するようになった。一方でアーサーも自分の異父姉と不倫関係になりモードレッドという子供が生まれる。やがて成長したモードレッドは父アーサーに反旗を翻し、国は乱れアーサーはその戦いのなかで倒れてしまう。
アーサーは聖剣エクスカリバーが敵の手に渡るのを恐れ、本来の持ち主たる湖の貴婦人に返すべく湖に投げ入れると、ブリテンに存在する伝説の島「アヴァロン」に向けて最後の航海に出たのであった。
円卓の騎士
※アーサー王と円卓の騎士
キャメロットの城にあるテーブルは、卓を囲む者すべてが対等であるとの考えから、円卓とされた。しかし、席数には諸説あり、もっとも有名な13席、150席、さらには300席まであったという説もある。
13席という数字は、聖杯伝説に登場し、円卓にはイエス・キリストと12人の使徒を模して13の席があったとされる。アーサーの他、11人が座ったが13番目の席だけには誰も座ることはなかった。なぜなら、この13番目の席はキリストを裏切ったイスカリオテのユダの席であるため、魔術師マーリンが席に呪いをかけており、座る者は呪いに冒されるからである。聖杯伝説では、ランスロットの息子ガラハッドが呪いを恐れずにこの席に座り、呪いに打ち勝って12番目の騎士になった。しかし、彼が聖杯を手にして天に召されたのちは再び空席となったといわれる。
また、マーリンの魔法によりその素質が試され、認められた騎士だけが円卓の席に座ることができたともされる。
伝説の広まり
※トリスタンとイゾルデ
現在、世界的に知られているアーサー像を定着させたのはジェフリー・オブ・モンマスの『列王史』であることは述べたが、この本にはそれまでのアーサーの伝承だけではなく、ジェフリーによる創作も多分に含まれているという。
12世紀から13世紀に大陸ヨーロッパ(特にフランス)で新たなアーサー王文学が数多く生み出された。さらに騎士道が花開く中世後半になると、アーサー王伝説はシャルルマーニュ(「フランスもの」)やアレキサンダー大王(「ローマもの」)と並んで「ブルターニュもの」(ブリテンの話材とも)と呼ばれる騎士道文学の題材となり、フランスを中心に各地でさまざまな異本やロマンスが作られた。
ロマンスでは、アーサー自身ではなく、多くの登場人物にそのスポットが当てられるようになる。すなわちランスロット、グィネヴィア、パーシヴァル、ガラハッド、ガウェイン、円卓の騎士であるトリスタンと王女イゾルデなど、アーサーを取り巻いていた人物たちが主人公となり、アーサーはロマンスを成立させるための登場人物に過ぎなくなっていったのだった。
最後に
今回調べたのは『列王史』をベースにした一説に過ぎない。エクスカリバーの話だけでも、「2本存在していた」「身につけることで傷付かない鞘があった」「最後に湖に返したのは円卓の騎士だった」など、さまざまな形で残っている。
我々が知るアーサー王の伝説の多くは、後世に「後付け」された部分ばかりである。
しかし、そのおかげで「騎士」「魔法」「ロマンス」が混在し、より人間くさい物語となった。
だからこそ、我々を魅了するのだろう。ロマンスは人間の欲望があってこそ、色鮮やかになるのだから。
参考記事:アレキサンダー大王
「アレキサンダー大王の大遠征について調べてみた」
「アレキサンダー大王の伝説について調べてみた」
参考記事:ローラン
「ローランの歌【聖剣デュランダルの騎士】について調べてみた」
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